第五話:岩崎翔子
その後、他のクラスで今朝、『美花』の被害にあった者が教室に来ては俺に聞いてくる。
それも何とか誤魔化して、放課後―――ある事件が起きた。
今俺は屋上にて一人涙を我慢していた。
何故こんな事になったかというと・・まぁ簡潔に言うと岩崎さんに想いを告げる事なく、俺の春は終わった。
今日一日の騒ぎのせいで疲労困ぱいだった。放課後は真すぐ帰って家でゆっくりしようと机の中身を片付けていると・・・
「小松くん、ちょっといいかな?」
岩崎さんに声をかけられた。少し前は嬉しかったんだろうけど・・
「ナ、ナニ、ナニカナ〜イワサキサン」
ヤバイ!片言だよ、俺!!
「ちょっと屋上まで来て」
「お、おう」
席を立ち、岩崎さんの後を無言で追う。こんな時に気の利いた会話が出来れば良いんだけど・・などと思わず、一緒に歩いているだけでルンルンな十分前の俺。
屋上に出ると春の風が強かった。岩崎さんがスカートと格闘している姿が今でも目に焼き付いている。
ようやく一息付け、岩崎さんと向き合う。
こんな近くに彼女が居る。
やっぱりかわいい!!
いつもクラスの盛り上げ役。奇想天外な行動に、大胆不敵な発言。そんな彼女が実は一番クラス委員に相応しいのではないか?とも思える程正義感が強く、みんなに慕われる子。美花とはまた違ったカリスマ性の所持者。
「・・・って訳!・・小松君?聞いてる〜?」
は!しまった!彼女に見とれていた為、聞き逃してしまった。これじゃあ本末転倒じゃないかと反省する七分前の俺。
「ご、ごめん!」
「も〜!大事な話なんだよ〜?」
「スマン!!」
頭を下げて謝る俺を見て、呆れながらも許してくれた。
「だから付き合って欲しいの」
・・・へ?
「い、今・・何て?」
「だから付き合ってって言ってるんだけど、・・ダメ・・?」
子猫のような瞳が潤って、首を傾けて下から見上げてくる。
こ、これはイケませんよ、岩崎さん!なんという破壊力!!しかも
「付き合って欲しい」って向こうから・・じゃあ俺達は相思相愛のベストカップルだったんだね!
歓喜に口元が緩んでいる五分前の俺。
「も、もちろん。だって俺もす、すす、好きだったから・・・」
「えぇ〜!!本当〜!!じゃあ良かった〜。じゃあこれからもよろしくね〜!!」
ポンと肩を叩かれた。
もちろんだよ!
「美花の事。」
「へ?」
今なんて?
「だから美花の事。よろしくね〜!」
「ちょっ!なんで『桜井』が出てくるんだよ!」
「だから最初に言ったじゃない。“美花と付き合って”って〜。ホント良かったよ〜、小松君が美花の事好きで!」
「なんで俺が『桜井』と付き合わなくちゃイケないんだよ!」
「私、美花の素顔、本当は知ってるんだ・・小松君も知ってるんでしょ?」
「え・・ああ・・」
「あんな強情に良い子演じてるもんだからみんなと距離も出来ちゃうの。分かるでしょう?本当の友達なんて居ないと思ってるんじゃないかしら、あの子・・たぶん私も含めてね」
――「本当の意味での友達なんて今まで居なかったんだよ」
今朝の美花が言った言葉を思い出す。
「で、本当は知ってるのに知らないフリしてたのよ、私」
「なんでそんな面倒な事を・・」
「だって、美花の口から直接聞きたいじゃない?ソレが友情ってもんでしょ?それにその方がカッコイイじゃない」
そう言ってVサインを作る岩崎さん。
「でもいつまで経ってもこのままじゃああの子の方が持たないと思うの。だから自然な彼女と一緒に居てくれる人をずっと探してたの。で、今朝じゃない?こりゃぁと、ピンと来た訳よ」
「だからそれは・・」
「うん。美花から聞いた。美花は猫冠っても嘘は言わないから本当だと思う」
けなしてんだか、褒めてんだか・・
「だから俺と『桜井』は何にもないんだって!」
「うん。でも美花は私じゃなく小松君に素顔で接していた。そこが重要なのよ」
「ちょっとヤキモチ〜」と、軽く肩を殴られる二分前の俺。
「ね、だから美花には君が必要なのよ!」
「い、いや、だから俺、本当は・・」
「照れるな照れるな!無理矢理押し付けても嫌だな〜って思ってたけど、小松君も美花の事好きなら問題ないよね!」
――「本当は岩崎さんが好きなんだよ」・・そう言おうとしたが遮られてしまった。
「だから聞けって!俺は・・」
「あ!ヤバッ!もうこんな時間だ!部活に行かなきゃ!・・じゃあよろしくね!私も二人が上手くいく様に協力するからさ」
あ、もしかして岩崎さんって俺の事なんとも思ってない?
普通好きな人の恋路を応援しないもんね。
「じゃあもう行くね。がんばって!小松君なら大丈夫だよ」
そう言って腕を大きく振り、「じゃ〜ね〜」と駆け出して校舎の中に消えていった。
ちょっと待て!俺は美花と付き合わんぞ?
俺には岩崎さんがいるんだ。・・岩崎さん・・
間接的に失恋したと悟った途端に目頭に熱を感じ、溢れる物を必死で我慢している、今の俺。




