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異世界オレンジ国 とりかえばや物語  作者: 夢見るライオン
第二章 青年期 社交界デビュー編
39/71

5、近衛騎士、初日


 翌朝、王宮内の訓練場で月に一度の近衛騎士の朝会が開かれた。

 合計二十部隊ある近衛騎士が、白地にオレンジのラインの隊服で列をなす。

 それは壮麗な景色だった。


 一番前に並ぶのが各隊の隊長だ。

 そしてその後ろに各隊の序列順に並んでいく。

 最後尾はほとんど新入りだった。


 ただ、中には特殊な部隊もいくつかあって、第一・第二部隊は古参の隊員ばかりで平均年齢が高く、序列順というよりは気の合う豪傑同士で集まっている。

 先王の十七騎士だった者や、伝説で語られる騎士もいた。


 出世頭のエリート騎士が集まっているのが第三・第四部隊だ。

 シエルさまの十七騎士を狙っている者はこの部隊が多い。

 イザークの兄のルドルフは第三部隊だった。


 第五・第六部隊は一番の実力派と言われている。

 農民や町民の中から武官をめざし、門番や衛兵から見習い騎士を経て近衛騎士まで上り詰めた豪傑ばかりだ。ただし十七騎士は貴族しかなれないので、これ以上の出世はない。

 だが町民の中では英雄と呼んでもいいほどの大出世をした者たちだった。


 第七~二十部隊までは実力と年齢が均等になるように配置されている。

 現在は第七と第八部隊はシエル王太子が護衛用に連れて行っていて留守だった。

 イザークは第十五部隊でめきめきと頭角を表わし、もうすぐ第四部隊に昇進するのではないかと言われている。


 ロッテとステファンはおそらくこの第九~二十までのどこかの部隊の新人要員として配置されるものと思われた。


「今日から近衛騎士となるフロリス・フォン・デル・ホーラントとステファン・フォン・デル・ミデルブルフだ。みんなよく指導してやってくれ」


 異例の抜擢をされたロッテとステファンは、前の壇上に立ってそれぞれ紹介された。

 細身のロッテから見ると、野獣と言ってもいいほど体の出来上がった近衛騎士たちが、値踏みするように壇上の二人をジロジロと見つめていた。


「それでこの可愛らしい僕ちゃんたちは、どこの部隊なんだ」

「うちの部隊に入れてくれよ。この間一人やめたところなんだ」

「お前が可愛がりすぎたからやめたんだろうが」

「一人は西の小公子さまだぜ。ヘタなことをしたら首が飛ぶぞ」

「もう一人はアカデミー始まって以来の秀才らしいぜ」

「なんだ、そうなのかよ。面倒そうなガキたちだな。やっぱり遠慮しとくぜ」


 口々に好き勝手なヤジを飛ばしている。


「そのことで王様より直々のお達しがあった」


 連絡役の文官の男が告げると、場内がシンと静まった。


「本日より新たに第二十一部隊を発足させる」


 全員が驚いたようにざわついた。


「これは王様直属の特殊部隊となる。これよりその隊員を発表する」


 ロッテたちはもちろんだが、誰も知らされてなかったらしい。

 みんな騒然としていた。


「まず隊長は第三部隊所属ルドルフ・フォン・デル・ヘルレ。前へ」


 どよっと全員が驚く声が波となって壇上に聞こえた。

 そして第三部隊の前の方にいたルドルフが落ち着いた様子でフロリスたちのいる壇上に上がってきた。どうやらその様子から、ルドルフだけは前もって聞かされていたらしい。


「続いて副隊長は第一部隊よりデニス・フォン・デル・ドレンテ」

 次々に名前が読み上げられ、壇上に上がってくる。

 各部隊よりだいたい一・二名ずつ呼ばれているようだった。


 そして二十数名が壇上に並ぶと、最後に文官が告げた。


「フロリスとステファンはこの第二十一部隊に新人として配属されることとなった」



 各隊にはそれぞれ詰所つめしょが与えられていた。

 第二十一部隊は、これまで倉庫として使われていた場所を使うこととなった。


「おい。新人二人は昼までに倉庫の荷物を他の倉庫に運び込んで掃除をしておけ」

 年輩の騎士に命じられ、ロッテとステファンは武具で埋もれた部屋に連れてこられた。


 他の隊員はいきなりの配置転換で、今までの仕事の引継ぎやら挨拶で忙しそうだった。


「これは……昼までに片付くかな……」

 部屋いっぱいに積まれた楯やら旗やらわけのわからない道具を見て途方にくれた。

 倉庫なだけに他の隊の詰所より広いが、その分多くの武具で溢れている。


「とにかくやれと言われたらやるしかないよ。急ごう」

「うん」


 詰所は王宮の東西南北の門を守るように五部屋ずつ固まって並んでいて、四箇所それぞれに数人が寝泊りできる宿房が一つと馬小屋が一つと倉庫が三つずつある。

 第二十一部隊は北側の倉庫の一つを使うことになった。


 近衛騎士の任務は、この詰所で情報を交換しながら待機することが基本だ。

 一隊を五つのグループに分けて、六時間交代で誰かが必ず詰所に待機する。

 門番は専用の兵士がいるので、緊急の知らせが来た時以外はあくまで待機するだけだ。

 平時の続く今は、特別な行事の時や王家の出入りの時ぐらいしか門に立つことはない。

 そして別の空いた時間で剣や馬の訓練をする。

 こうして五つのグループで順ぐりに入れ替わるのが普通の任務だった。

 

 そして王宮の北側は主に王家の女性の住まいがある。

 北門だけは外に開かれた門ではなく、後宮への入り口の門だった。

 他より二倍も高い塀に囲まれた後宮の出入口はこの北門だけだ。


 中に住むのは王様の側室たちと、成人していない子供たちだ。


 ただし現在はほとんどの側室が亡くなり、残っているのは子の出来なかった側室がわずかと、たった一人生き残った王様の女君のカタリーナ姫だけだった。


 そしてその北のエリアの一番端には王太后の紫の塔がある。


「そっち持てる? フロリス」

「うん、大丈夫」


 何に使うのか分からない長い木枠やら、やたらに重い鉄柵を運ぶのには苦労した。

 別の倉庫に入れるといっても、充分なスペースがあるわけでもなく、そちらの整理からしなくてはならず、かなりの肉体労働だ。


「僕がこっちを持つからフロリスはそっちのを運んで」

 ステファンは必ず重い方を持って、ロッテに軽い物を持たせようとしてくれる。


「大丈夫だよ。私もこれぐらい持てる」

 実際には腕力の部分だけは女性のロッテが超えられない大きな壁を感じていたけれど、弱音を吐きたくなかった。


「……。分かった。じゃあ頼むよ」

 最初の頃は無理をするなと言い争いになったものだが、最近ではステファンもロッテの気持ちを汲み取って素直に応じてくれるようになった。


 もらったばかりの隊服を埃まみれにして、ようやく荷物を運び終えたのは昼近くだった。


 ちらほらと引継ぎを済ませて詰所に戻ってきた隊員たちがいたが、二人の手伝いをしようとはしない。高みの見物をするように、木柵に腰掛けて二人を見守るだけだ。


 ロッテとステファンは汗だくになりながら砂と埃を掃き出し、雑巾掛けをした。


「フロリスは少し休んでていいよ。雑巾掛けなんてしたことないだろ? 僕は寮住まいだったから慣れてるんだ」

 確かに小公子のフロリスはやったことがなかった。

 ステファンは気遣って言ってくれたけれど、フロリスはステファンを真似て同じように雑巾掛けをした。


「ほお。小公子さまだからお高くとまってるのかと思ったら、見上げた根性だ」

 第一部隊出身の老獪、デニス副隊長がバンバンとロッテの背中を叩いた。


「うわっ!」

 年齢にそぐわない怪力に、ロッテはよろめいた。


「おお。すまんすまん。根性はいいが体はまだまだ出来てないな。もっと食わないと厳しい訓練についてこれないぞ、ぼうず」


 どうやら悪い人ではなさそうだ。


「無理だと思ってたが昼までにちゃんと片付けたのか」

「やるじゃないか新人」

「まあ、よろしくな」


 いろんな年代の様々な体格の男たちがロッテとステファンの背中をポンと叩いてから、片付いた詰所に入っていった。


「ご苦労だったな、フロリス、ステファン。これから会議を始めるから中に入れ」

 最後にルドルフが告げて、詰所に入っていった。


 どうやら第一段階はクリアできたらしい。

 ロッテとステファンは笑顔を見合わせてから最後に詰所に入った。


 物がなくなり広々とした室内で、全員が立ったままの会議が始まった。


 ルドルフ隊長は開口一番、全員を見回して告げた。


「まず最初に言っておく。この第二十一部隊はある重大な任務のために組織された。我らの任務についてはどんな些細なことも口外してはならない。まずそれを肝に銘じて欲しい」


 ロッテとステファンは一番後ろに立って、不安な顔を見合わせた。



次話タイトルは「秘密の任務」です

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