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20、ルドルフ近衛騎士

 テオが戻って来るのを待って、医務室を辞そうとしていたロッテ達は、突然担ぎこまれてきた大勢の男達に驚いた。


「あっ! フロリス、良かった。

 気が付いたんだね」

 先頭に小柄なテオが立って、戸口を開ける係りになっていた。


 そして負傷しているらしい白地にオレンジの衣装の騎士達が運び込まれてきた。

 それに付き添うように医務官が数人血まみれの包帯を持って部屋に入ってくる。


 どうやらそちらの手当てに全員借り出されていたらしい。


 白地にオレンジの衣装と肩の飾りに胸の紋章。

 その衣装を着るのは……。


「近衛騎士様?」


「ああ、すまんがそこのベッドを空けてくれるか。

 あと二人運び込まれてくるからな」

 老齢の医務官がベッドに座るロッテに声をかけた。


 医務室のベッドは全部で5台。

 どうやらそれが全部埋まる負傷者が出たらしい。


「一体何があったのですか?」

 ロッテは立ち上がって、イザークやステファンと一緒に怪我人をベッドに運ぶのを手伝った。


「騎馬の模擬試合をやってたみたいだよ」

 テオがここに来るまでに得た情報を伝えてくれた。


「今日はシエル様が観戦されてたから、みんな白熱し過ぎたんだって」


「やれやれ、みんな17騎士の座を射止めようと、無茶をするからのう」

 老医務官がベッドに横たわる負傷者を診ながら呆れたように笑った。


「じゃが……まあ、ワシの見る限り、1人は17騎士確定じゃろうなあ」


「17騎士確定?」


「1人だけ無傷で敵方を壊滅させておった。

 腕も家柄も申し分ないじゃろう」

 老医務官が最後の負傷者に肩を貸して入ってくる男を見た。


 それは……。


「ルドルフ兄上……」


 隣りで手伝っていたイザークが呟いた。


(じゃあ、あの方が……)


 そこには騎馬試合をしてきたとは思えぬほど、近衛騎士の制服を汚れ一つなく着こなす緑のつり目の男が立っていた。


 


「ほう。これは役者がそろっているな」

 ルドルフは、ロッテ達を見て、にやにやと呟いた。


「あ、兄上……」

 心なしか、イザークが青ざめている。


「もう誘ったのか? イザーク」


「い、いえ……、まだ……」


「やれやれ。この状況にありながら、まだ誘ってないとは。

 行動は迅速にしなければ意味がない。

 まだまだダメだな、お前は」


「す、すみません」


「まあいい。ちょうどいいから私が言おう」


 ルドルフはイザークの隣りに立つフロリスに視線を移した。


「?」

 ロッテはイザークよりも更に背の高いルドルフを見上げた。


「ほほう、これはこれは。

 近くで見ると、稀に見るほどの美少年だな。

 イザークがおかしくなるのも分かる気がする」


「あ、兄上っ!」

 イザークが慌てて声を挟んだ。


「イザークの兄、ルドルフだ。

 君が西大公の嫡男、フロリスか」


「は、はい。フロリス・フォン・デル・ホーラントでございます!」

 ロッテは慌てて胸に手をあてて、簡易の挨拶をした。


 王宮の中では身分よりも、役職の地位で上下関係が決まる。

 いずれは西大公の嫡男としてライバルにならねばならないが、今は公務見習いと近衛騎士という明らかな上下関係があった。


「ふふ。元気がいいな。嫌いじゃない。

 次の週末に、我が別邸で庭園パーティを開く。

 そなたも来るがいい」

 有無を言わせぬ誘い方だ。


「え? で、でも……、私は……」

 ステファンをチラリと見る。

 険しい顔でロッテを見ていた。 


 行ってはダメだと話し合った所だが、この状況でどうやって断ればいいのか。


「わ、私はまだ12才で社交界デビューもしておりません。

 東大公様のパーティーに出席する身分ではございません」


「そのように形式ばる必要はない。

 内輪の気楽なパーティーだ。

 お茶会の延長ぐらいに思ってもらえばよい。

 このパーティには近衛騎士の面々も来る。

 人脈を広げるには最適な場となろう。

 出世を望む者なら断る理由などないだろう」


 逃げ道を閉ざすように、畳み掛けられる。

 断る方法など若いロッテには思いつかない。


 そして戸惑うロッテの頬にひんやりと冷たい感触が滑った。

 いつの間にかルドルフの手がロッテの頬に添えられている。

 流れるように距離を詰められていた。


「パーティーに添える花にぴったりだな」

 ロッテは至近距離に迫ってくるルドルフを防ぐ事も出来ずに見上げていた。


「あ、兄上っ!」

 イザークが今にもキスでもしそうな勢いのルドルフを止めるよりも早く……。


「ルドルフ様っ!!」

 ステファンが珍しく大声で叫んだ。


 みんなが驚いてステファンを見る。


「私もそのパーティーに行ってもよいでしょうか?」

 あれほど断っていたステファン自ら申し出てきた。


 ルドルフは一瞬驚いた目をしたが、すぐににやにやと微笑んだ。


「ほう。いくら誘っても首を縦に振らなかった君が、どういう心境の変化かな?」

 ロッテの頬から手を離し、ステファンを見つめた。


「いえ……、1人で行く勇気は無かったのですが、フロリスと一緒なら是非とも私も人脈を広げてみたいと思いました」

 ステファンは真っ直ぐルドルフを見つめる。


「ふーん。君はあまり出世には興味がないのかと思っていたが……。

 それとも……出世ではなく、別の心配事でもあるのかな?」

 ルドルフはとぼけたように、今度はステファンに近付いて、そのおかっぱの金髪にさらりと指を通した。


「出世に興味のない男などいません」

 ステファンは挑むようにルドルフを見上げた。


「ほう。これは面白くなってきた。

 いいだろう。君も招待しよう」


「ありがとうございます」

 ステファンは右手を胸に当て、深々と頭を下げた。


 ◇


「ステファン、どうしてあんな事言ったんだ?

 あれほどルドルフ様を警戒してたのに……」

 テオと3人だけになってから、ロッテはステファンに尋ねた。


「もしかして、私を心配してくれたのか?

 だからって君まで危険を冒して付き合わなくても良かったのに……」

 ステファンが面倒見がいいのは知ってたが、ここまでとは思わなかった。


「うん。僕も……なんであんな事を言っちゃったのか……。

 でも……、君1人で行かせられない気がしたんだ」

 ステファン自身も、自分がここまでお節介とは知らなかった。


(僕もイザークの病気がうつったのかな。

 どうしてだか……フロリスをほうっておけない……)


 いつも冷静沈着なステファンが戸惑うように心の中で呟いた。


次話タイトルは「東大公家の庭園パーティー」です

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