神々の宴会
ちょっとふざけました
「えっと…」
アイは混乱していた。
何故ならカレン達の家のベットで寝ていたはずなのに何故か目を開けば目の前では青空の下、大きな丸机を囲んで六人の男女がお酒を飲んでいるからだ。
しかも、手招きしている。
「何をしておるのじゃ。ほれ、早く来んかい。」
今話しかけてきたのは白髪と白髭が一体化して顔の周りをもじゃもじゃと覆われているお爺さんだ。
目が青々として気力に溢れているので少し気後れしてしまう。このお爺さんは黒の上布で作られた作務衣がよく似合っている。
「もう、ニードったらアイちゃんが怖がってるじゃない。アイちゃん平気よ?覚えてない?私、ジュナミード、よ。ジュナミード。」
今話しかけてきたのは頭に、胸まで伸ばした髪と同じ金色の獣耳を二本立て、白の上着に茶色のスカート着た女性だ。
スカートの下からはこれまた髪と同じ金色の尻尾がのびている。オレンジ色の瞳の瞳孔が細まるとまるで猫のようだ。
「えっと、獣神様なの?それにニードって…カキニード?鍛冶神様なの?」
「称号で呼ばないで名前で呼んで上げて?様もいらない。アイちゃんはここに来た時点でもう私達のお友達だもの。あ、私の事もニャーシテールって名前で呼んでね。出来ればニャシィって仇名で呼んで欲しいな。」
今話しかけてきたのはブルーサファイアの様な髪を腰まで伸ばしている女性。
紫色の目はまるで水晶をはめ込んだかの様に透き通っている。服は薄虹色のワンピース。
「ニャシィでいいの?…ニャーシテールって精神様?だったらメイ達を生んでくれてありがとうなの!」
「おう、おう。そんな話してねぇで。早く飲めよぅ。」
酔っぱらった風に話しかけてきたのは真っ赤な髪をショートヘアにした男性。
目はまるで全てを見透かしているかのような濃い黒色で目の色に似た甚平を着ている。
ただ顔を赤らめてヘラヘラと笑っているので緊張したりはしないが。
「ドリィはまた気分酔いしてるのかい?あぁ、アイちゃんは気にしなくていいよ。パム、また頼むよ。」
そう言ったのはクリーム色の髪を顎まで伸ばしている男性。
目はまるでアクアマリンをはめ込んだかの様に美しい。
藍色に白の模様の入ったローブを着ていてとても知的に見える。
「全く…。私の武力は酔いを覚ますためにあるわけではないのだが…。まぁ、いい。はあ!」
そう意気込み手刀をドリィと呼ばれた男性の頭に振り下ろすのは鎧を着た女性。
朱色の瞳には力が宿っていて肩まで伸びた赤茶色の髪は後ろで紐で縛りポニーテールにしている。
「がふっ。…ん?あぁ。また酔っちまってたのか。でももう少し優しくしてくれないか?パムは武神なんだぞ?あー頭がジンジンする。お?君がアイちゃんか。さっきはごめんな。気分酔いしてたんだ。えっと、皆。まず、きちんと自己紹介しよう。俺は魔神・ドラリューズ。皆の間ではドリィと呼ばれてる。」
女性に殴られ一気に神らしくなったドラリューズが場を仕切り直してくれた。
「私はアイちゃんも知ってる通り、獣神・ジュナミードよ。皆にはジュナって呼ばれてるわ。」
ドラリューズの後に続いて尻尾と耳を立て、ジュナミードが再び自己紹介をする。
「儂はさっきアイちゃんが言っておった通り、鍛冶神・カキニードじゃ。皆の間ではニードと呼ばれておる。」
続いてカキニードが自己紹介をした。
放っている迫力に反してアイの事をちゃん付けするものだから耳を疑ってしまったが。
「私はさっき言った通り、精神・ニャーシテール。仇名はニャシィだよ。」
ニャーシテールはきちんと席を立って自己紹介した。
「私は武神・パミオンだ。皆からはパムと呼ばれている。」
ドラリューズを殴った位置でクルッと周りアイの方を見たパミオンはそう言うと綺麗にお辞儀する。
「撲が最後になってしまったね。僕は知神・ミルスウェル。皆からはミルスと呼ばれているよ。」
パミオンにドラリューズを殴るよう指示したミルスウェルは座ったままそう言った。
「もうアイちゃんは皆の仲間だ。皆の事は仇名で呼んでくれ。」
どうやら神の中ではドラリューズがまとめているようだ。
「分かったの!ならアイの事も呼び捨てにして欲しいの!」
「そうか、そうだな。ところでアイ、君を神界に呼んだ理由だが…。」
「宴会の為よ!」
「皆で楽しくお酒を飲むため。」
「酒だ。酒。新しい酒が飲みたいのじゃ。アイの魔力の酒はどんな味がするのか…。」
「いつも観ているだけだったからね。話を聞きながらのお酒も美味しそうだと…。」
ドラリューズが説明しようとしたのだが他の皆に横入りされた。
「…まぁ。そういう訳さ。ただアイは一緒に楽しく飲んでくれればいいだけだ。」
「でも、アイはメイにお酒は駄目って言われてるから…。」
「あー。それね、平気よ平気。今のアイは魂だけだから体に害はないわ。それに神界じゃなくて現界でもアイちゃんには【父の願い】があるから、お酒のアルコールも毒とみなされて排除されるわ。だから、私達みたいに飲みたいだけ飲めてそれに酔わないわよ。だからほらこっちへ。」
ジュナミードはそう言って再び手招きする。
「? アイも皆も酔わないの?でも、ドリィは…。」
「あー。あれは気分酔いだ。気分酔い。よく俺、なっちまうんだよ。そのたびにパムに殴られて…。」
そう言ってなんだかブツブツと言い出したドラリューズを置いて、アイは一番困っている事を言う。
「そういう事なの。でも、こっちて言われても、椅子が六つしかないの。」
そうなのだ。
ある椅子全てに神達が座っているのでアイの座る場所がないのだ。
「あぁ、忘れておったわい。ほれ、これでいいじゃろう?」
カキニードが机に触れるとカキニード以外、皆(ブツブツ言っていたドラリューズも)立ち上がり椅子下げる。
すると丸机が大きくなり(カキニード側には広がらない)一つ椅子が出てきた。
「ほれ、そこに座れい。」
変化が止まると皆椅子を元に戻して座り、カキニードは出現した椅子を指差してそう言う。
皆はカキニードの右にジュナミード、その右にニャーシテール、その右にドラリューズ、その右にミルスウェル、その右にパミオン、という順番で座っており、アイの席はカキニードとジュナミードの間だ。
「凄いの!流石、神様なの!」
「お、おう…。これは神器と言っての。儂しか作れんのじゃ。これ以外にもこの世界の物は全て儂が造ったのじゃ。」
キラキラとした目でアイにそう言われたカキニードは少し顔を赤らめてしまう。
当のアイは気分酔いでもしたのかと首をかしげているが。
「それより早く座っちゃいなさいよ。早く飲みましょ!」
なかなか座らないアイに焦れたのかジュナミードがそう言ってきた。
「分かったの。」
やっとアイが席に座ると何故かドラリューズが空の酒瓶を押し出してきた。
「アイ、これに魔力を注いでくれないか?」
「? これも何かあるの?」
「そうじゃ。それも儂が造った神器じゃよ。魔力やら神気やら聖気やらを注ぐと酒にするのじゃ。」
カキニードが胸を張っているように見えるのは気のせいだろうか。
「じゃあやってみるの!」
そう言ってアイが酒瓶に魔力を注いでみると空だった酒瓶に何やら液体が満ちていくのが分かる。
「クンクン。やっぱり美味しそうね!魔力のお酒は初めてだけどアイの魔力だし、高位魔力だものね!」
なんだかジュナミードが興奮しているがアイには何を言っているのかよく分からない。
「高位魔力ってそんなに美味しいの?」
「あぁ。それね。高位魔力は…。」
「名前通り高位の魔力でとても良い【匂い】を放っていて現界ではドラゴンと忌み子や忌獣しか持ってないの。味も【匂い】通り美味しいよ。」
「ニャシィ!私のセリフよ!」
言おうとしていた事をニャーシテールに言われてしまったジュナミードが尻尾を逆立て、頬を膨らませてニャーシテールに詰め寄った。
「早い者勝ちだもん。」
「…もういいわ。それでね、どうやら忌み子や忌獣は【魔力増幅化】の際に魔力が高位魔力に変わってるらしいのよ。魔獣達がアイを食べようとするのはその所為ね。私達だってヨダレが垂れそうで大変だったもの。」
「なら、なんでドラゴンは魔獣達に襲われないの?」
「それはね…。」
「魔獣達に魔力をばらまいてるからだよ。あとは、アイとは違って見た目や気配から強い事が分かるから、とかかな?」
「もう!また!」
再び言おうとしていたことを言われてジュナミードが頬を膨らましているがニャーシテールは涼しい顔をしている。
「ぷはっ!こりゃーうめーぞ!」
ドラリューズがまたアイのお酒をラッパ飲みして顔を赤らめていた。
「また気分酔いしているのかい。もういい。皆飲もうじゃないか!」
そう言ってミルスウェルは六つの空の酒瓶をアイに差し出してくる。
「分かったの。」
そう言ってアイは渡された空の酒瓶に魔力を注いでいった。
「それじゃあカンパーイ!」
音頭をとったのはミルスウェル。
皆も(ドラリューズ以外)それに続き乾杯し、ラッパ飲みした(アイ以外)。
「えっとラッパ飲みするの?」
「ぷはー。ん?そうよ。わざわざコップ創るのが面倒臭かったんだって。」
「むぅ。やってみるの。」
メイの教育によりコップ以外から飲み物を飲んだ事のないアイは若干の抵抗を覚えながらもラッパ飲みしてみる。
「これがお酒なの?なんか不思議な味がするの。というか苦いの。」
一口飲んだアイはすぐにそう言い、うへ~と舌を出した。
「そうかな。私は美味しいと思うけど。フルーティーで。」
「ま、初めてならそうなるじゃろ。ましてやアイは子供じゃしの。」
そういうとカキニードは何やらゴムらしきものと細い棒の様なものを取り出す。
「?何をやってるの?」
「ん?神器じゃ、神器。苦味を消す物を創ろうと思ってな。これからアイが酒を飲めないというのは面白く無いからな。」
「ありがとうなの!」
「っ、ほれっ。これを口に含んで酒を飲めい。魔力は勝手に取るから注がなくて良いぞ。」
アイがそうお礼をいうとカキニードは顔を赤らめて不躾に神器を押し渡してきた。
「? ありがとうなの。」
「魂じゃ神界から現界にはもってけんからな。帰る時には置いてくんじゃぞ。また、天罰を下しに行く事が出来れば儂が現界にもって行くんじゃが…。」
「本当。最近、現界ったら平和になっちゃって暇なのよ。」
「だな。私ももっとニードの造った武器を試してみたいし本気も出してみたいのだが…。」
「なぁに言ってんだよぅ。パムが本気出したら俺達の造った世界が壊れらうだろぅー。この破壊の女神めぇー。」
完全に気分酔いしてしまったドラリューズがそんな事を言う。
『プチッ』
「ん?あれ、なんかプチッて聞こえた気がしたの。」
『ズッドーン』
そんな音が響き知らない内にドラリューズは椅子から消えていてその隣には足を振り上げた状態のパミオンがいた。
「ド、ドリィが星になっちゃったの。」
「ふっ、あれだけ強く蹴れば酔いも覚めるだろう。」
「…オーバーキルだと思うの…。」
「アイ!?俺、死んでないよ!?殺さないで!?」
流石、魔神。転移してきたようだ。転移するには空精がいないと出来ずそして神界に精霊はいないようなのだがきっと魔神だからこそできるのだろう。
「あ、ドリィ生きてたの。丈夫なの。凄いの。」
「あははは。そんな所で褒められたくないな。ったく、こんな事するから破壊の女神って言うんだ…。」
『……ズッドーン』
「はは、まだ足りなかったようだ。」
「まぁ、ドリィは置いといてお酒飲みましょう?」
「お、音の方がドリィが飛ぶより遅かったの。」
「そうだ。映画、見ない?」
そんな事を唐突にニャーシテールが言い出す。
「映画?何なの?」
「あぁ。他の世界の神達から聞いたんだ。目で見ているものと耳で聞いているもの。これらを記録してその後も観れる様になる。というものだ。
これを聞いてな、ニードがそういう神器を造って…私達は加護を与えた者の聞いてるもの見ているものを観る事ができるのだが…これらを脳内で編集してその神器に記録するのだ。暇だからなこれをよく皆で観るのだ。」
パミオンはドリィの事など忘れた様に涼しい顔をしてアイに説明してくれた。
これを見て決してパミオンの事を【破壊の女神】とは呼ばないと心に誓うアイ。
「私達のお気に入りはアイの映画よー。皆で代わる代わる造ってるのよ。最初は私とミルスだけだったけど最近は他の皆もどんどん加護を与えてってそれぞれの癖?があって観ていて面白いのよね。」
「皆の加護を受け取る条件が揃ったアイも凄いと思うな。」
「アイの映画は…。」
カキニードは丸机の上にあった箱に手を突っ込んで言った。
「これも神器での。ここに全ての映画が入っておるのじゃ。」
カキニードがなんだかさっきから色々と自慢してきている様に感じるのは気のせいだろうかとアイが首をかしげていると声がかかる。どうやらアイの映画を全て出し終えたようだ。
「ほら、これ全部アイの映画だよ。一から三百五十一(351)まであるよ。」
そう言って腕を広げるニャーシテールの前には掌サイズの本の様な物が沢山並んでいる。その全てにアイの絵が描いてありアイはちょっと、いや凄く、いやもの凄く引いてしまったが。
「観るかい?」
ミルスがそんな事を聞いてきた。アイの答えは勿論決まっている。
「いや、いいの。」
「残念。私のおすすめはアイのお母さん達の願いのギフトを手に入れる所だよ。
普通、ただ願っただけじゃギフトなんてもらえないもの。それだけ強く強く願ってくれたって事だよね。
特にお義父さんのあの『やっぱりお前は俺の娘だった』がおすすめだよ。」
自分の事についておすすめだとか言われ、とても引きつった笑いを浮かべるアイであった。
「でも、皆の話を聞いてるとまるでずっと飲んでるみたいなの。神様にはお仕事ないの?」
「ん?勿論きちんとあるぞい。ただ儂等の容量が良すぎて本体が出向くまでもないだけじゃ。」
「本体、なの?」
「あのね。今、アイと一緒にお酒を飲んでるのは私達の本体であっちの建物で魔力の調整をしたり、魔法によって増えた物の量を調整したり、命を作って母に送ったり、精霊を作って【精霊の木】に送ってるのは私達の分身達なのよ。」
ジュナミードは遠くの建物を指差して言う。
「この世界ができたばっかの時は色々とやる事があって楽しかったものだ。」
ジュナミードが説明していると、パミオンが思い出す様に呟く。
「ドリィが魔力を作って、ニードがその魔力から土や石や色々な物を造って、私がドリィの作った魔力を使って精霊達を生み出して、ジュナが生き物を生み出して、パムがその生き物達に戦う力を渡して、ミルスがこの世界の事を全てまとめて、ドリィがジュナの生み出した生き物に魔力を与えて魔獣にしてみたり、私はその魔獣達にスキルやギフトや加護がつくようにしてみたり、ニードがジュナの生み出した生き物に鍛冶をするのに長けた力を与えてみたり…。」
それに続いてニャーシテールが目を閉じて言い出した。
「ドリィが一つの所の魔力量を増やして、ニードがそこを洞窟にして更に魔石を入れた宝箱をおいてその宝箱を中の宝石がなくなれば自動的に空気中の魔力を吸収して同じ属性の魔石を創る神器にして魔石増設所をつくって、後からそこに魔獣達が住み着いてダンジョンって呼ばれるようになったり。ジュナが生み出した木にニャシィが精霊を神界から受け取る力を与えてみたり、ね。あぁ、楽しかったね。」
ミルスウェルはお酒を飲みながらそう言う。
「…皆、もう少し俺の事も心配しろよ!」
ドラリューズが転移で戻ってきた。
「ドリィの丈夫さはアイも認めたの。」
「それよりアイはこれからどうするの?」
「おい!」
ドラリューズの事を無視してアイに話しかけたニャーシテールにドラリューズは文句を言うがニャーシテールは涼しい顔をしている。
「取り敢えずまた町から離れた所で魔法を使う予定なの。今回は沢山魔法を使ったから早くしないとまた魔獣大群が来ちゃうの。」
「ならついでに魔法学校に行ったらいいんじゃないかしら。ちょうど魔法の国、シュワリューズにいるんだし。それに魔法学校に行けば期限がもっと長くなる方法が分かるはずよ。これ、神からの助言。」
そっちの方が映画も面白くなるし。と聞こえたのは幻聴だ、とアイは頭を振った。
「分かったの。行ってみるの。でも、魔法学校は大体、十三歳から十五歳の人達が入学するの。アイだと目立っちゃうの。」
「それならニャシィがなんとかしてくれるはずよ。」
「もう、今回だけだからね。《我、精神・ニャーシテールの名においてこの者にスキル【変身 上級】を与える。》…これでアイも変身できるようになったはずだよ。声は私が直接与えたから聞こえないけど。後で確認してみて。」
私も映画が面白くなるのは賛成だしね。と聞こえた気がするが、いや聞こえなかった!
「あれ?これ何なの?」
急に光りだした自分を見てアイが言う。
「あぁ。もう帰ってしまうのか。アイは覚えてないだろうが来た時もそんな風に光ってたのじゃ。」
『コロン』
アイは神器を残して消えていた。
精神・ニャーシテールの容姿の説明を
ブルーサファイアの様な髪を腰まで伸ばしている女性。
目はまるで水晶をはめ込んだかの様に透き通っている。服は薄虹色のワンピース。
から
ブルーサファイアの様な髪を腰まで伸ばしている女性。
紫色の目はまるで水晶をはめ込んだかの様に透き通っている。服は薄虹色のワンピース。
にしました。
投稿するのが遅くなるかもしれません。
もともと遅いのにすみません。
次は13日に投稿したいと思います。