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忌み子〜魔獣を呼び寄せる少女〜  作者: もち猫
第一章 少女の得た帰る場所
3/18

魔獣大群

今回は長いです。

とてつもなく長いです。

私の感覚だと三話分程です。

いやこれまでが短かったのでしょうか?

 少女は肩に子猫をのせて町を歩いていた。

あと三日で新年を迎えるこの町は冒険者達もいなくなり、代わりに町の人々で賑わっている。


「ねぇねぇ、おかあさんあれかって~。」


男の子が母に何かをねだっていた。町の様子は子供を見れば分かるという。男の子の様子はこの町が平和であることを表しているのだろう。


「駄目よ、あれ買ったら新年のご馳走が少なくなっちゃうわよ?」


「それはやぁー。」


「だったら我慢なさい。」


「わかったぁ!」


(新年、か。ここの国は年の節目にご馳走を食べるんだったの。お母さんとお父さんの国とは真反対なの。お母さん達の国では一日前から断食して身を清めてから新年を迎えるんだったの。お義父さんの国は模擬戦をしながら新年を迎えてたはずなの。)


そんなことを思い出していると一人の女に話しかけられた。


「あ、アイちゃん、よね?新年のご馳走何がいいかしら?お金はこれくらいしかないのだけど。」


「二万シンパーなの?ちょっと待つの。」


そんな事を頼まれた少女は無詠唱の応用で声を出さずに周りの精霊達に話しかける。


『皆、調べて欲しいの。この人の家族の状態とこの人の状態、その状態でのおすすめの料理、その材料を二万シンパーで買うためにおすすめのお店。これ魔力なの。えっとこの人の命精はアイツなの?家族は夫と息子で、命精はタンダとクイムだったと思うの。アイツ、教えて欲しいの。』


すると、赤茶色の髪のショートヘアで黒色の目をした掌サイズの小人が、女の中から飛び出てきた。

服は純白のワンピース。前髪はない。服も体も半透明で目を凝らすと後ろが透けて見える。精霊だ。服が純白である事から命精である事が分かる。女は全く反応しない、見えていないようだ。


『あいよ!うちの子の状態は…、少し疲れてるね、夫の仕事がうまくいってないからやね。あと、妊娠してるよ!あと八ヶ月くらいやな。鑑定表は要らないやろ?ご馳走に関係あらへんし。あと、その子の命精(めいせい)まだアイちゃんに名前もらっとらんから欲しがったらあげてやってくれ。』


『ありがとうなの。アンツ。えっと、命精さん?名前、欲しいの?』


そう聞くと、女のお腹辺りからもう一人、純白のワンピースを着た精霊が飛び出てきた。

藍色の髪のショートヘアで目は青色。前髪は眉毛まで伸ばしている。やはりこちらも半透明で目を凝らすと後ろが透けて見える。


『ふぅん。君がアイねぇ。まぁ消えてしまう可能性が減るのは撲も嬉しいからね。頼むよ。僕にできる範囲だったら君のお願いも聞くから、さ。』


そう言われると少女はずっと横に浮いている薄緑色のワンピースを着た精霊に話しかけた。

薄緑色の服は空精だ。この精霊は身長以上もある黄緑色の髪を後ろで一つの三つ編みにしていて、前髪は耳まで伸ばして耳にかけている。目はエメラルドグリーン。やはり半透明で目を凝らすと後ろが透けて見える。

黄緑色の髪の精霊が頷くと少女の前に薄緑色の陣が現れ、紙をまとめたもの(ノート)が出てきた。

少女はまだ何も書かれていないページを開く。


『分かったの。フウ。契約帳第二百万三千十、出して欲しいの。…ありがとうなの。印を示せって言われたら契約書に掌を押し付けて欲しいの。それじゃあ《我、汝を従精とする。名は『シャイン』。我は、我が死ぬ、又は汝が名を捨てる、などがない限り魔力を与え、汝を決して消滅させない事を誓う。汝は、我が助けを求めた時、汝の出来る範囲、助けることを誓うか?誓うならばこの契約書に印を示せ。》』


少女が話すとその何も書かれていないページにつらつらと契約内容がひとりでに記されていく。藍髪の小人は掌をそのページに押し付ける。


『これで終わったの。シャイン、よろしくなの。』


『よろしく。』


『アイ!タンダ達に聞いてきたわよ!夫は疲れてたわ。仕事がうまくいっていないらしいの。鍛冶屋なんだけど…。でも、腕は良いのよ、私は彼は武器よりアクセサリーを作った方がいいと思うわ。スキルにデザイン達人と小細工達人があったもの。子供は元気いっぱいだったわ。』


住宅街側からもう一人、純白のワンピースを着た精霊が飛んで来た。

胸まで伸ばしたピンク色の髪を少しだけ取って横で結んでいて、前髪は目の高さまで伸ばしている。目はオレンジ色。他の皆と同じ様に半透明で目を凝らすと後ろが透けて見える。


『ありがとうなの。メイ。』


『娘のいうことですもの!へっちゃらよ!』


「えっと、ミランダさんなの?おめでたなの!」


「そう、私はミランダだけど話した事あったかしら?私はよく見てたから知っていたけど。で、おめ…、え?」


「だから、おめでたなの!あと八ヶ月くらいしたら生まれてくるの!ミランダさんとは話した事ないけどこの町の人達の家族構成と名前は大体、頭にはいってるの!」


「そうなの?でもこんな忙しい時に…。」


「それでね、ミランダさんの旦那さん、ジークさんなの?は武器を作るよりアクセサリーを作った方がいいと思うの!考えておくの!」


「そ、そうなのね。アイちゃんの情報量は凄いのね。そのノートに書かれているのかしら。さすが、貴重な紙を使うだけのことはあるわね。あら?でもそのノートはどこからだしたの?それに私でも分からなかったのになんで妊娠している事分かったのかしら?もしかして、精霊魔法が使えるのかしら?空間魔法とか鑑定とか…。」


「か、か、勘なの!何度か妊婦さん見たことあったの!ノートは服に入れてたの!そ、それともアイが宮廷魔導士レベルに見えるの?」


精霊魔法は精霊を感じる事が出来、なおかつ命令出来ないと使えないので精霊魔法が使える者はそれだけで宮廷魔導士になれるのだ。普通の魔法もあるのだがそれは誰でも出来、また魔力の消費が多いのでやはり精霊魔法が重視される。

実は少女は、本当に精霊魔法(しかも無詠唱)なのだが少女にはバレてはいけない理由があった。


「そんなに必死にならなくても本気で思ってはないわよ。」


『アイ?おすすめの料理とおすすめの店、リストアップできるよ?』


ピンク色の髪の精霊が帰ってきてから商店街側に飛んでいっていた精霊達が帰ってきた。

今、少女に話しかけたのは薄青色のワンピースを着た精霊だ。薄青色の服は水精である。この精霊は肩まで伸びた水色の髪を顔の横に少しだけ残し、後ろで一つのお団子にしていた。前髪は眉まで伸ばし、左にピンで留めている。目は紫色。


『わたしもやったー。このまちのせいれいたちもてつだってくれたよー。』


今の精霊は薄黄色のワンピースを着た精霊だ。薄黄色もワンピースは光精である。この精霊は肩まで伸ばしたレモン色の髪を二つ結びにしていて前髪はない。分け目には触覚のようなアホ毛が二本はねている。目は銀色。


『ありがとなの。スウ、ピピ、他の皆も。ヒナ、スウから情報もらって木の板に書いて欲しいの。フウ、ここから木の板出して欲しいの。…ありがとうなの。フウ。』


今度は服の下から出しているように見えるように服の下で出してもらう。


『またぁ?アイはちょっとお人好しなんだよぅ。文字、焼き記すのあたしなんだよぅ?まぁそんなアイだからあたしもどんな事があってもアイについていこうって決めたんだけどぉ。スウ情報ちょうだぁーい。なるほどなるほど。よぅーし、とう!』


黄緑色の髪の精霊と共にずっと少女の横に浮いていた薄赤色のワンピースをきた精霊が腕を振ると薄赤色の陣が木の板に現れ、文字が焼き記されていく。

この精霊はオレンジ色の髪をショートヘアにし横髪だけ肩まで伸ばしている。前髪は眉までの長さ。目は栗色。


『ありがとなの。ヒナ。』これにおすすめの料理と材料を買うお店、書いてあるの。どれも赤ちゃんと疲れた体にいいの。ジークさんと一緒に頑張ってなの。」


「ありがとうね。はい、これ。少ししかないけど、百シンパー。」


女が金を渡してきたが少女はそれを押し返す。


「これは家族の為に使うの。」


「でも…。じゃあせめて、これ。ただのお菓子だけど。」


「いいの!このお菓子美味しそうなの!」


「じゃあね。」


「うん、ばいばいなの!」


女が立ち去ると少女は『ふぅ』と溜め息をはき、そして、悲しそうに空を仰いで言った。


「お母さん、お父さん、お義父さん。もうそろそろ年が開けるの。もうそろそろアイの五百十六回目の誕生日なの。」


「にゃー。」


悲しそうな少女にずっと少女の肩でくつろいでいた真っ白な子猫が慰めるように擦り寄ってくる。


「うん、そうだったの。アイにはミミがいたの。一人じゃないの。」


『ちょっと、ちょっとぉ?私も常に一緒にいるわよ?』


『メイだけじゃないよ?私も皆も常に一緒。それにお母さんとお父さんとお義父さんだってちゃんとアイの心の中にいるよ?』


『スウの言う通りだよぅ。あたしも一緒ぉ。みぃーんな一緒ぉ。』


『……私も。』


『わたしもだよ!』


「ありがとうなの。メイ、スウ、ヒナ、フウ、ピピ。」


『あ、アイ。こえでちゃってるよ~?』


「あ、『ありがとうなの。ピピ。ちょっと気を抜いちゃったの。』


『無詠唱は精神力を使うんでしょ?アイは常にスキルの【魔力高速変換】で精神力を使ってるし、ミミにも私達を見れるように【精霊感取】でも精神力を使ってるんだもの仕方ないわよ。』


『それでもバレると大変なの。気をつけないといけないの。』


そんな少女達の雰囲気を打ち破る声が響いた。


「ま、魔獣大群が!魔獣大群が押し寄せてきてる!」


その男の様子から嘘でないことは分かる。

その言葉をきっかけに和やかな町の雰囲気が一変した。


「どうして、こんな時に!」


「冒険者が全然いないのに!」


冒険者も新年に向けて故郷に帰ってしまったのだ。


「シェ、シェルターに入れ!」


「「「わー」」」


「「「きゃー」」」


「もう、来たの!思っていたより早いの…。いや、もう期限過ぎてたの。しばらく山に引きこもってたから時間の感覚が変になってたの。」


驚く少女の前で一人の男の子が転ぶ。

さっきの母親に何かをねだっていた男の子だ。


「うわ~ん。いたいよぅ~。おかあさん、おかあさん。どこぉ~。」


「大丈夫なの?ほら治してあげるの。怪我見せるの。ちょっと染みるかもしれないけど我慢するの。」


少女は同じくらいの背丈の男の子を起こすと擦り傷に手を重ねて、また無詠唱の応用で声を出さずに精霊に話しかける。

魔法を使える事は隠し通したいのだが男の子が泣いており、またそれを自分はどうにかする事が出来るのに放っておくなど少女には出来ないのだ。

それを少女はもう魔獣大群が来てしまったのだし、と理由付ける。


『スウ。ここ、洗って欲しいの。はい、魔力なの。』


そう言われると水色の髪の精霊は手を叩いた。

すると薄青色の陣が現れ、そこから水が出てきて擦り傷を洗った。


『できたよ。』


水色の髪の精霊がそう言うと水が消え、水があった場所から少しの砂がポロポロと落ちる。


『ありがとうなの。スウ。えっと、この子の命精はミラなの?』


『せいかーい、せいかい、だいせいかーい。この擦り傷、治せばいいんだよねぇ?』


『お願いなの。はい、魔力なの。…ありがとうなの。ミラ。』


「ぐす、ありがとう。」


「君は…ライトくんなの?お母さん、スーシャさんなの?探すの。『えっと、スーシャさんの命精はネイだったはずなの。よし、《従精ネイ、我を汝の元へ導きたまえ。》』…分かったの。こっちなの。」


「ほんと?」


「本当なの。ついてくるの。」


「うん。…ねぇ。て、つないでもいい?」


「はい、なの。」


「ありがと…。」


「もうすぐなの。」


「ライ~。どこ、どこなのぉ~。」


「おかあさん!」


母の声が聞こえると男の子は少女の手を放して走りだした。


「ライ!」


母と子が抱き合うのを見ると少女は安心したように呟く。


「ここはもう大丈夫なの。魔獣大群の方に行くの。きっと兵士さん達が決死の覚悟で待ち構えているはずなの。」


(兵士さんの命精に場所を教えて貰えばいいの。三人くらいやった方が確実なの?なら、チイとターニャとトイにするの。)


『《従精チイ、ターニャ、トイ。我を汝の元へ導きたまえ。》分かったの。フウ、情報を渡すの。そこに転移させて欲しいの。魔力なの。「ミミ転移するの。魔力、いっぱい使うの。【魔力高速変換】するけど一応ここ周辺…半径十キロ程、聖気で覆って欲しいの。あと、肩から降りないの。」


「にゃー。」


少女の言葉に子猫は「任せて!」と言うかの様に胸を張った。


『もう魔法が使える事を隠す必要がないからって転移するのを見たらきっと腰抜かしちゃうの。だから、アイは認識障害を発動するの。《認識障害・最適化・レベル2》…これで転移の瞬間は認識されないはずなの。』


『…転移する。三、二、一。』


少女の足元に薄緑色の陣が現れる。次の瞬間、少女は消えていた。


・・・


「なんて数だ…。あんなの俺等になんとかできるのか?」


「できるのか、じゃない。できなきゃならないんだ。町には俺等の家族だって、友達だっているんだ。」


「でも、俺等三十人しかいないんだぞ?見た所魔獣は数千といるんだ。それに、討伐難易度・上級の魔物もいるんじゃないか?」


討伐難易度とは冒険者ギルドが決めている魔獣の討伐の難しさの基準で下級から神級まである。


「く、言うな。」


(皆、ひどく青ざめてるの。アイの所為なの。)


『《認識障害・最適化・解除》フウ、町全体と兵士さん達を結界で覆って欲しいの。魔法耐性と物理耐性、それに音声遮断も。アイが離れてからでいいの。これ、魔力なの。「兵士さん達ごめんなさいなの。これはアイの所為なの。だから、ちゃんとアイが始末するの。」


「アイちゃん?どうしたんだい?ここは危険だから隠れてないと…。え?何?アイちゃんの所為って…まさか?」


「そうなの。アイは【忌み子】なの。石を投げるなら投げていいの。恨むなら恨んでいいの。…殺されてあげることは出来ないの…。でも、今は魔獣なの。兵士さん達はそこで待ってるの。」


それだけを少女は言うと兵士達から離れていく。

少女が離れるとすぐに三つの薄緑色の巨大な陣が町と兵士達を覆い、結界が張られた。

陣は精霊を見る事が出来ないと見る事が出来ず、更に黄緑色の髪の精霊が少女の魔力を使い慣れているため魔力が殆ど漏れずまた、少女が【魔力高速変換】によりその漏れた少量の魔力までも空気中の魔力に変換しているので殆どの人が気が付いていない。

だが兵士達は違った。

少女の方に駆け寄ろうとした兵士が結界に阻まれたのだ。


「アイちゃん、ちょっとま…。こ、これは結界?」


兵士達は驚愕した。

全く魔力を感じさせずに結界を張るには普通の魔法でも普通の精霊魔法でも出来ず、高度な精霊魔法でないと出来ないのだ。

いや高度な精霊魔法でも少しは魔力を感じる。

これは学校で学んだりしていない兵士達でも知っている一般常識だ。


「もしかして魔獣が?」


兵士達は魔獣が少女を食べるために兵士達が近づけないよう結界を張ったのだと思った。

こんなに高度な精霊魔法が使える魔獣が群の中にいるのならいくら荒れくれ者や悪人を倒せるからと言って五歳程度にしか見えない少女が勝てるはずがない。


「魔獣さん達の命精さん!ごめんなさいなの!これからアイは皆の子供を始末しなくちゃいけないの!皆に自分の子供を殺せとは言わないの。ただ、アイが殺してしまうことを許して欲しいの。」


少女は音声遮断の結界が張られているからと大声で堂々と命精達に話しかける。音声遮断の結界があるためもう兵士達には聞こえない。


『君が噂のアイちゃんかい?仕方ないさ。こいつからアイちゃんを食いに行ったんだ。ただ、これが終わったら名前を貰いたいね。』


『だな!』


『私も!』


『ここのみーんな頼むよ!』


「皆、ありがとうなの!」


『いつも思うのだけど皆もうちょっと子を愛しなさいよ。承諾してもらわなきゃ困るけど、私だったら断固拒否するわ。』


『メイは自分の子を愛しすぎてると思うよ。もともとの愛にアイの【精霊魅了】が足された結果かな?』


「メイ、スウ。喋ってないで行くの。メイは、魔力は命精の権限で勝手に取っていいからアイが怪我したら直して欲しいの。」


『私は?それに他の皆も。』


「スウは右の前の方を倒して欲しいの。後でこの町にプレゼントするからあんまり傷はつけないで欲しいの。

フウは結界の維持に集中して欲しいの。あと、シェルターにも一応結界を張って欲しいの。魔法耐性と物理耐性。【気配察知】では町の人達はもう全員シェルターに入ってるから平気なの。

ヒイは左の前の方を素材に焦げ目をつけないように倒して欲しいの。

ピピは右の後ろの方を素材に焦げ目をつけないように倒して欲しいの。

他の精霊さん達はスウ達を補助して欲しいの。

アイの従精じゃない精霊さんはいるの?…いないの。 なら、魔力は従精の繋がりで要請して欲しいの。そうしたら送るの。

ミミは聖気で覆うのに力を入れて欲しいの。【匂い】は防げないけど出来るだけまたここに魔獣大群が来ないようにしたいの。

覆うのはこの場所だけでいいの。

結界はアイが一番力を入れて【魔力高速変換】するから安心していいの。でも、ここは出来ないからミミも本気でやってほしいの。

アイは左の後ろの方を担当するの。」


『アイは平気なの?スキル使いながら皆に必要な量だけ魔力供給して、更に魔獣を相手までして。』


「心配してくれてありがとうなの。メイ。でも、平気なの。

【魔力高速変換】は日常的にやってるのを結界にも掛けるだけなの。

魔力供給はアイには【知神・ミルスウェル】の加護と【天才頭脳】で、処理能力とか思考速度が上がってるの。誰にどれくらい送るかはちゃんと整理できるの。

それに何かあってもアイには皆が付いてるの。」


『勿論、私が付いているからにはアイに傷跡一つ残さないわ。でも、私にできるのは怪我を治す事だけ。怪我を防ぐことは出来ないのよ。だから、心配なの。』


『メイ!アイにけがはわたしがさせないの。それにメイはアイはなにをいってもむりするのしってるでしょ?』


『………私も何があってもアイには傷一本つくらせない。』


『私もアイが無理するのはやめさせられないけど、絶対、守るよ。』


『あたしもぉー。メイの分も頑張ってあげるよぅ。』


『分かったわよ。もう、アイはいつも無理するんだから、見てるこっちの気持ちも考えて欲しいわ。』


「? 無理してないの。あ、もう魔獣大群がこんな所まで来てるの。戦闘開始!」


少女は近づいてきた魔獣大群を指差して言った。

・・・

兵士達は自分が夢を見ているのかと思った。

何故なら五歳程度にしか見えない少女が一人で魔獣大群に突っ込んでいったかと思ったら(一人の兵士はここで町長を呼びに行った)右の前の方では水と魔獣を入れた氷の球がいくつも浮き(水球を氷で包んでいるのは逃げ出させないためだろう)、

左の前の方では千余りの魔獣が頭から湯気を出して倒れている(恐らく加熱魔法によって脳の温度を上げているのだろう)。

右の後ろの方では光の糸がいくつも現れ、千余りの魔獣の胸を貫いている(恐らく雷魔法の弱いもので心臓を貫くことで素材を傷つけず倒しているのだろう)。

更に五歳程度にしか見えない少女は左の後ろの方で魔獣の攻撃を全て避けながらも魔獣達の首を折りとてつもない早さで倒しているのだ。

兵士達のいる場所は戦場から少し上の所にあった。

それだけに少女が何をしているのかよく見えるのである。

少女以外に魔法を使っていると思われる者は周りを見渡してもいない。

一匹子猫が端の方で座っているが子猫にこれができるとはとてもじゃないが思えない。

ということはこの四千あまりの魔獣達は全て少女が倒しているのである。

少女は魔法の発動している場からかなり離れた所にいる。

それなのに確かに魔法が発動しているのだ。

また、これだけの規模の魔法に必要な魔力を全て少女が補っている事にも驚きだ。

兵士達は無意識の内に自分の頬をつねったり、隣の兵士をつねったりしていた。


「夢じゃないよ、な。」


「い、【忌み子】とか言ってたな。【忌み子】って強かったのか?」


「いや、その体質故に強くないと生きられなかったんじゃないか?」


一人の兵士のその言葉からそこにいる兵士達は皆、驚きの表情から同情の表情に変わる。

一つ書き加えておくと他の町ではこうはならないであろう。

「【忌み子】は悪」それがこの世の常識なのだから。

この辺りからこの町の者達の人柄が分かるというものだ。

・・・

『素材に傷をつけずに…。冷却魔法だと駄目になる素材もあるから…。そうだ【水球地獄】にしよう。』


少女に言われて大群を四等分した右前に来た水色の髪の精霊はそう呟くと従精の繋がりを使って少女に遠くから話しかける。


《【水球地獄】をやるよ。大きさは聖気で消されるギリギリの大きさ。》


そう言うとすぐに必要な量の魔力が送られてくるのが分かった。送られてくるとすぐに魔法を発動させる。


『包めたのは百匹くらいかな?』


そう、確認するとすぐに他の精霊に指示をだす。


『皆、こんな感じで魔獣達を水と氷で包んで、溺死させて?こうすれば魔力を散らせば水も消えるし素材が駄目になる心配はないよ。アイには【水球地獄】と言えば伝わるはず。大きさはこれが限界。これ以上は聖気に消されちゃうから。これと同じくらい魔獣が入るならあと九個くらいでいけるはずだよ。』

・・・

『焦げ目をつけずに、ねぇ。やっぱり脳の温度を上げるしかないかなぁ?脳は素材になる奴もあるらしいけど結局は乾燥させて使うらしいしぃ。』


少女に言われて大群を四等分した左前に来たオレンジ色の髪の精霊はそう呟くと従精の繋がりを使って少女に遠くから話しかける。


《加熱魔法で脳の温度を上げる事にしたよぅ。他の火精は十九人くらいだからあたしは五十匹くらいかなぁ?》


そう言うとすぐに必要な魔力が送られてくるのが分かった。送られてくるとすぐに魔法を発動させる。


『とう!』


魔法を発動させると他の精霊に指示を出す。


『皆もこうしてぇー。一人五十匹ねぇー。』

・・・

『そざいをきずつけないように…。やっぱり【雷糸】しかないの。』


少女に言われて大群を四等分した右後ろに来たレモン色の髪の精霊はそう呟くと従精の繋がりを使って少女に遠くから話しかける。


《【雷糸】でまじゅうたちのしんぞうをとめることにしたよ》


そう言うとすぐに必要な量の魔力が送られてくるのが分かった。送られてくるとすぐに魔法を発動させる。


『うん!うまくいった!』


自分の魔法に満足すると他の精霊に指示を出す。


『みんなもこうしてね!アイには【雷糸】っていえばつたわるはずだよ!』

・・・

その頃、少女は色々な事を同時に行っていた。


《【水球地獄】をやるよ。……》《加熱魔法で………》《【雷糸】で……》《【水球地獄】を……》《ヒナと同じ……》《ピピちゃんと……》《スウと同じ……》《加熱魔法を……》《【雷糸】を……》《ヒナのやった……》《【雷糸】で……》《【水球地獄】……》《【雷糸】…》《【水球地獄】…》《加熱魔法…》《ヒナちゃんと…》《ピピ…》《【雷糸】…》《【水球地獄…】…》《加熱魔法…》《ヒナ…》《スウ…》《スウさん…》《ピピちゃん…》《【雷糸】…》《ヒナ…》


(スウにはこれくらいの魔力でヒナにはこれくらいの魔力でピピにはこれくらいの魔力で…右から魔獣!首折って!左の魔獣と後ろの魔獣と前の魔獣も。

水精達はスウよりアイの魔力に慣れてないからこのくらいで…半径百キロ内にいる魔獣の首を折る!

火精達もヒナより多く…。左から魔獣!折って、折って、折って。半径百キロ内にいる魔獣全員折る。

光精達もピピより多く…。全方位から魔獣!回し蹴りで対応。その後ろに更に魔獣、魔獣、魔獣。跳び上がって【魔力手】で折る、折る、折る。着地した時に踏みつけないよう【魔力手】で避難。着地。

?シェルターの結界から漏れる魔力が増えた?とりあえず【魔力高速変換】の量を増やす。フウに渡す魔力も。

右から魔獣。折る、折る、折る、折る、折る。)


《フウ、結界に何かあったの?》


《…シェルターの結界内の中の人が結界を叩いてる。一人の兵士がやってきて何か話してたからその所為かも。》


(怒ってるの?直ちに魔獣達を始末して謝罪する。

走って首を折る、折る、折る、折る、折る、折る、折る。一匹、魔獣が跳んだ。上から魔獣。避けて、折る。走りの勢いは止めない。折る、折る、折る、折る、折る、折る、折る、折る、折る、折る、折る。)


「ふぅ、終わったの。他の皆は…。」


《【武神・パミオン】から加護を与えられました。ギフト【神々に愛されし者】を手に入れました。》


『アイ!おわったよー。』


『あたし達もぉー。』


『私も。』


「そういえば最近、状態確認してなかったの。後でメイに見せてもらうの。

魔獣達を解体するの。フウがいないから、作ったナイフは出せないの…。

スウ、氷でナイフ作って欲しいの。四千個程。これ魔力なの。」


水色の髪の精霊は魔力を受け取ると手を叩く。

すると宙に四千個程の薄青色の陣が現れ、ナイフがそれぞれの陣に一個現れた。

それを少女の作り出した魔力の塊…【魔力手】が受け取り、倒れた魔獣達へ飛んでいった。解体しているらしい。


「ありがとうなの。スウ。…出来たの。この中の魔力を【魔力高速変換】するの。…出来たの。《フウ、結界解除していいの。》ミミも聖気、散らしていいの。」


少女がそう言うと子猫がかなりの速さでかけてきて肩にのってきた。子猫は魔獣であり、更に【獣神・ジュナミード】の加護を持っているため運動神経は普通の猫よりとてもいいのだ。


「じゃあ謝りに行くの。素材は…ここに置いといてもきっと平気なの。」


少女は町の方を見てそう言った。

やっぱり長いですよね。

見直しにすっごい時間がかかりましたよ。

読んでくださってありがとうございました。

少女の過去などはもう少ししたらやるつもりです。

この世界の一般常識もその時に、と思っています。




次は25日に投稿します。

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