獣人の国 ジュナード ③
ついに獣人がだせました!
まだアイの夢は続きます…眠り、深いですね!
『いい?アイ…』
「なんで魔獣はまだこんなにくるのかしら?」
『だから、アイは…』
「何か他に理由があるのかもな。」
アイはメイにお説教をされながら、メアリーとダイはアイがアイの魔力を完全に消しているにも関わらずこの前二人で旅した時より多くあらわれる魔獣を警戒しながら街道を歩いていた。
街道を歩いて行けばその内町が見えてくるだろうという算段である。
アイはフウに一番近くの町を聞いたのだが、直線距離を行くには魔獣のすみつく森を突っ切らなくてはならずこうする事になった。
『アイはもっとね……』
「すみませーーん!そこの旅人さーーん!話があるんですー。」
アイが段々とメイのお説教をきちんと聞くのに飽きてきて聞き流す様になっていた時、前の方から頭から獣耳をはやし、お尻から尻尾をはやした十歳くらいの女の子がそう声をあげてこちらに走ってきた。
女の子は毛の色は蜜柑色で胸まで伸ばした髪は二つの三つ編みにしている。前髪は目の上までの長さ。目は藍色でよく澄んでいる。
耳と尻尾の形から犬か狼の獣人だろう。
女の子の声が聞こえてからはメイの意識もそちらに向いたのかお説教も止まった。
「…なにかしら?追っ手、ではないわよね。」
「あぁ、流石に子供に追っ手はやらせないだろう。」
「えっと、あの子に害意はないの。だから、悪い人じゃないの。」
アイがそう分かったのは魔力を察知しようとして身につけた【気配察知】によるものだ。
「そうなのか?アイが言うならきっとそうなのだろうな。話を聞いてみるか?」
「そうね。」
そう話し合ってアイ達は女の子の方を向いて止まった。
「ありがとうございます!」
止まってすぐに追いついた女の子は息も乱さずに尻尾を振っている。
「あんなに走ってたのに疲れてないの?すごいの!」
アイもきっと同じくらい走っても疲れないのだがそんな事は忘れているのか本当に憧れるというように目を輝かせてそう言った。
「へへ、ありがとう。私は狼の獣人だから長距離走は得意なんだ。」
「へー、なの。」
「えっと、貴方は?」
「あ!そうでした!私は行商人の娘、アーニャ・ボルク、です。よろしくお願いします。…お名前、お伺いしてもよろしいでしょうか。」
「あ、そうなの!アイは、アイ・クリスティン、なの!よろしくなの!」
メアリーとダイは目を見合わせると苦笑いした。
偽名を使うかどうか話し合おうとしたのだが先にアイに本名を言われてしまったのだ。
ダイか、まぁアイが害意がないと言ったのだから平気だろう、と呟き、メアリーが、アイが言ったのなら私達も本名を言わないとね、といい、顔を女の子、アーニャに向ける。
「私は、メアリー・クリスティン、よ。」
「俺は、ダイ・クリスティン、だ。」
「アイちゃんにメアリーさんにダイさんですね!よろしくお願いします!」
「それで、話ってなにかしら?」
「はい、あの…メアリーさん!魔力、くれませんか!?私、そんな美味しそうな匂い初めて嗅ぎますぅ。…あぁ、よだれが。」
さっきまで落ち着いていたアーニャが急にメアリーの手を握って尻尾をブンブンと音がなりそうなほど振りながらそう言った。
「魔力?」
「そういえば、獣人やエルフは週に一度は魔力を食べないと生きていけないんだったな。」
「はい!エルフさんは空気中の魔力が多い島に住んでいるのでそこになっている果物などを食べればそれだけでいいらしく魔力の匂いを嗅ぐ事は出来ないらしいのですが、獣人はここに住んでいるので嫌な匂いは分からないですけどいい匂いの方は嗅げるんです!
いつもは父や母の魔力を食べているのですが遠くから漂うメアリーさんの魔力の匂いがとても美味しそうで。中級魔獣くらい美味しそうです!他の人は大体下の上位くらいの魔獣くらいなのに凄いです!
アイちゃんからも近づけばとてもとても美味しそうな、メアリーさんを超えるほどの、とってもとってもいい匂いがするのですが、匂いが弱いので魔力量が少ないのでしょう?アイちゃんの魔力は我慢しておきます。…ですのでメアリーさん!魔力をください!」
目の前にお菓子を置かれた子供の様な顔をしてアーニャが更にメアリーに詰め寄る。
アイは何も感じないがアーニャにとっては本当に美味しいお菓子を目の前に置かれた様なものなのだろう。
「わ、分かったわ。…どうすればいいのかしら?」
「わぁ!ありがとうございます!魔力を普通に出すだけでもいいですし無属性魔法で魔力を出すのもいいです!ただ、魔力を出す方だと余計に匂いが漂ってしまい魔獣が多くくるかもしれないのでできれば無属性魔法の方がいいです!ただ、指から魔力を出してもらい私が直接指をしゃぶればそちらの方が匂いは漏れないのですが…。」
「む、無属性魔法の方にさせてもらうわ。…はい、これでいい?」
アーニャの言葉にメアリーは焦った様に両手一杯分、無属性魔法で魔力の塊を出した。
「ありがとうございます!私の手に移して貰えますか?」
アーニャは尻尾を更にブンブンと振りながら両手を器型に出す。
…尻尾がちぎれないか心配だ。
「はい。…そういえばお父さんとお母さんは?」
「はむはむ…お父さん達は後ろから来ます…はむはむ…あれです…はむはむ。」
「後ろ?」
「どこだ?」
「あれなの?」
後ろからと言われアーニャの後ろに目を向けたアイ達はメアリーとダイは見えず首を傾げ、アイは加護により視力があがっている為アーニャが指している先に人影を見つけ首を傾げた。
「はむはむ、ごっくん。アイちゃんは見えるんだー。目、いいんだね。」
「ありがとうなの。それにしても結構な速さなの。ぐんぐんと近くなってくるの。」
「本当ね。私にも見える様になってきたわ。」
「本当だ。俺も見えてきた。」
やってくる人影は一つである。見た所男の人である様だからアーニャの母はどこかで待っているのだろう。
「……はぁ、はぁ。あぁ、アンが急に走りだしたと思ったらこういう事ですか。すみません。僕はアン…アーニャの父、カルル・ボルクです。」
アーニャとは違い肩で息をしながらやってきたのはアーニャとよく似た男だ。
背の高さと髪の毛が耳までしかない事以外はほとんど同じでアーニャの大人の男版と言われれば納得してしまう程。まだ、アーニャの母は見ていないがきっとアーニャは父似なのであろう。
「ごっくん。し、失礼。」
物欲しそうな目もよく似ている。
「魔力が欲しいならあげましょうか?」
その目に耐えられなくなったのかメアリーが自ら申し出た。
メアリーがそう言った瞬間カルルの顔がパッと輝き、尻尾がブンブンと振られる。
さっきのアーニャとほとんど同じだ。
「いいんですか!?あ、でもリナが…。あ!そうだ!皆さん、この街道にいるという事は少なくとも近くの町までは同じですよね!?僕達の馬車に一緒に乗りませんか?幸いさっきの村で品物が売れたので場所は空いていますし。」
「お父さん!いい案だね!皆さんあっちです。」
「え、えっと。どうしましょう?」
「これは……行くしかなさそうだな。」
「勝手に決められちゃったの。」
『自由な親子ね。』
『ほんとうによくにてるね。』
『自由だなぁ。』
『本当だね。』
『………うん。』
親子で勝手に話し合って歩き始めた二人を見て、アイ達三人はもちろんそれに人の前だからと話しかけるのを控えていたメイ達五人もそう呟いたのだった。
ーーーーーーーーー
「おかーさーん!お客様ぁー!」
馬車らしき影が見えてから暫くして、もう声が届くだろう、という所にきてからアーニャは手を大きく降って大声でそう叫ぶ。
「…結局乗る事になってしまったな。」
前を歩くボルク親子に聞こえない様にダイがそう呟いた。
獣人は耳もいいのだが、あんなに叫んでいたらそう簡単に聞こえないだろう。
「まあ、そっちの方が疲れないのは確かだしいいんじゃないかしら?それに匂いの時に気になる事を言っていたし…。」
「気になる事?」
「ええ、私から見てもアイからは魔力は漏れてないわ。でも、アーニャは近付けばとても美味しそうな匂いがすると言っていたわ。もしかしたらそれが……。」
「今もなお、多く魔獣がやってくる理由、か。」
「ええ。もう少し聞いてからでないと確実だとは言えないけれど。」
「そうか…。」
二人の話が終わった時、ちょうどアーニャが振り向いた。
「皆さん、私のお母さんの、リナ・ボルク、です。」
どうやら普通に話せる距離まで来たらしい。
アーニャの母は先に馬車から降りて待っていた。
アーニャがさっき叫んで知らせたからだろう。
毛の色はアーニャやカルルと同じ蜜柑色で髪は肩までの長さだ。目の色はアーニャやカルルと違い、銀色である。
やはりアーニャは母、リナとも似ていると言えば似ているがどちらかというと父、カルルと似ている様だ。
「お母さん、こちらはアイちゃん…アイ・クリスティンちゃんとメアリー・クリスティンさん、それにダイ・クリスティンさんだよ。」
「…なるほど、この匂いはそういう事。鼻のいいアーニャが走り出した意味も分からなくもないね。それでも私を一人寂しく残すなんて酷いよ。」
一人寂しく、という事は護衛はいないのだろうか?と、アイは【気配察知】を発動させる。
【気配察知】は魔力の方は一度見つければ継続して察知し続ける必要はない為、普段は発動していない。初めは発動し続けようとしたのだが、メイに叱られたのだ。
それはともかく、【気配察知】によると本当に護衛はいない様である。
「リナさん、一人でいたの?」
アイは心配そうな目でリナをみた。
街道は普通ならばあまり魔獣は来ないとはいえ女性一人でいるのは危険である。ましてやアイの中では多くの魔獣が来るのが普通なのであるのだから心配に思うのも仕方ない。
「ん?あぁ、魔獣に襲われないかって事?大丈夫。私、この三人の中で一番強いし。」
「そうなの?」
「そうなんだ。お母さんは狼の獣人には珍しく魔力が多くて強い魔法も使えるし、狼の獣人らしく運動神経も凄いんだよ。」
アーニャがまるで自分の事の様にアイに自慢する。
「そうなの?リナさん、凄いの!」
「お母さんは人付き合いもうまいから今、流行ってる物とかも調べてくれるし人に物を売るのも上手いの。」
アーニャがアイに母を褒められ更に胸を張ってそう言った。
「リナさん、凄いの!尊敬しちゃうの!」
「ふふ、ありがとう。」
「お父さんとは大違いだよね。」
「酷いな、アンは。僕だって仕入れをしてるしこの馬車だってずっと僕が御者をしていたのに。」
「それだったらお母さんでも出来るもん。」
「アン、それくらいにしといたら?泣き虫なお父さんが泣いちゃうよ?」
「そうだね。」
「僕は泣き虫じゃないよ!」
ボルク家族が仲良く話しているのを見ているとボルク家族から白い精霊がそれぞれ一人、奥の方から色とりどりの大群がやって来るのが見えた。
これは、嫌な予感がする。
『アイちゃんだよね!名前頂戴!』
『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』『頂戴!』
『え、えっと…。』
『ありゃりゃ、メイがおこっちゃうよ?』
『危険だね。』
『……今の内に避難する。』
『あたしもぉ。』
メイを見ると顔を真っ赤に染めてプルプルしていた。これは…危険だ。
『こらーーー!!アイが今、話してるのが見えないの!!ちょっと待ってなさい!!そこの命精三人はこのボルク家族の命精なんだからついて来れるでしょ!他の精霊達も自由に動けるんだからアイが一人になるまで待ってなさーーい!!!!!』
『『『『『ひ!わかりましたー。』』』』』
メイのおかげで命精達はそれぞれの子の元に戻り、他の精霊達は馬車の屋根に乗った。耳が少し悪くなりそうな気がするがまぁ、仕方ないだろう。
『はぁ、はぁ、はぁ。ただ、皆、アイに名前貰ったらきちんと此処に戻って来るのよ?皆して居なくなったらこの地が荒れちゃうからね。』
『『『『『『わ、わかりましたー。』』』』』』
なんだかメイが隊長のようだ。
精霊軍、隊長!なんちゃって。
『アイ?なんか変な事、考えてない?』
『か、か、考えてないの。それよりアイはお話しなくちゃいけないの!』ね!お母さん!」
嘘が下手なアイである。
「?何が、ね、なのか分からないけどアーニャちゃんが馬車で呼んでるわよ?」
どうやらもう、メアリーが魔力をボルク家族に渡した後らしい。幸せそうな顔で透明な魔力を頬張っているボルク夫妻の隣でアーニャが元気に手を振っていた。
精霊達の大群によりアーニャ達の姿が見えず、メイの怒声によりアーニャ達の声が聞こえなかった為、気づかなかったのである。半透明な精霊とはいえあんなに集まれば後ろも見えない。
「あ、今行くのー。」
因みにアーニャが言っていた悪い匂いはミミの聖気とかの下位魔力より質が悪い魔力(聖気は質が悪すぎて生物の魔力が消せるようになってしまった魔力なのに魔力とは別物の何かです)からします。
すみません。誤字を直したらなんかバグって後半が消えてました。
旅商人を行商人に変えました。