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忌み子〜魔獣を呼び寄せる少女〜  作者: もち猫
第二章 学園へ
11/18

王都

お金の設定です

シュワリューズ(アイが今いる国)

単位 シンパー

十シンパー = 一円

「ちょっと、緊張するの…」


アイは生まれこそはルラミカーニャの王都だが、生まれた日以外は王都とという場所に入った事はないのだ。

それはどの国の王都も警備がきちんとしていて入る事は危険であり、転移もアイやメアリーならば出来なくもないのだがわざわざそんな危険をおかしてまで王都に入る必要などなかったからである。


『平気よ。王都も町もそんなに変わらないわ』


『…それはない。王都はもっと近代的』


『おうとはまちよりもひとがおおいよー』


『建物も大きいしね』


「みー。(見た事ないけど違うと思う)」


『もう!皆、アイを緊張させる様な事言ってどうするのよ!』


『大丈夫なの、メイ。ちょっと緊張しただけなの。それじゃあ入るの』


今のアイはベルタに貰った服を着て、十三歳の姿だ。

流石に五歳程度の少女が一人で並ぶのは不自然だし、学園に入るのなら王都に入った時点で十三歳の方がいい、と思ったからである。

因みにベルタのくれた服は胸元に青いリボンのついた水色のワンピースであった。


アイの順番が入ると、とてもだるそうな顔をした騎士達が出迎えた。

王都では騎士団が都の人の出入りを管理している。

年明けと言っても王都なので何人かは出入りする人がおり、年明けなので休みたいのに仕事が入りだるいのだろう。


「はい、じゃ、これに手を置いて」


騎士はそう言うと透明な球を差し出した。


「これはなになの?」


「ん?魔道具さ。ダンジョンでとれる無属性の魔石を使うんだ。これにこの国に害意のある者が触れれば赤くなるんだ」


「魔道具、なの?」


実はアイが山に籠る前もあったのだが、かなり高額である為アイは知らなかったのだ。


「魔道具はだな、あれだ、神器を真似て作られた物だよ。神器と違ってダンジョンでとれる魔石が必要だが。ま、とにかく手を置いてくれ」


「分かったの」


当然アイに害意はないので赤くはならない。


「よし、じゃ、なんの為に王都に入るのか聞いていいか?」


「学園に入る為と、そのお金集めの為なの」


「そうか、大変だな。それなら家もないんだろ?なら【小鳥の涙】って宿にいくといいよ。俺の友達がやってんだ。年明けもきちんと営業してる。場所は冒険者ギルドの近くだ。あの辺では珍しい木造の三階建てだからすぐに分かる」


「ありがとうなの。行ってみるの」


・・・・・・


「…すごいの…」


門から入ったアイはそう呟いた。

町では殆どが一階建てで二階建てが珍しいくらいだったのに対してここでは殆どが二階建てで中には三階建てもあり、お城などは高すぎて遠いここからでもよく見ることができる。その隣にあるお城より少し低い建物は学園だろうか。

それにしてもこの高い建物を隠せる程の城壁はどれ程高いのだろうか。


『アイ、これからどうするの?』


『多分、冒険者ギルドもきちんと働いてないと思うし、日も暮れはじめてるから騎士さんの言っていた宿に行ってみるの』


アイはそう言うと三階建ての建物の上に【冒険者ギルド】と看板の建てられた建物に向かう。


「…あったの。きっとここなの」


騎士の言う通りすぐに【小鳥の涙】は見つかった。

アイは恐る恐るドアを開ける。

お金は情報屋をやって貰った少しのお金と四百年前のお金しかない。

お金が足りなかったら…都の何処かで【認識障害】でもかけて眠るしかないだろう。


「あ!おきゃくさんだ!おかーさーん!」


ドアを開けると店番だろうか。五歳程度のショートヘアの女の子がカウンターに居てアイを見るなり大きな声で母を呼んだ。


「はーい。…いらっしゃい!泊まりかい」


奥から現れたのは長い髪を後ろで一つにまとめてエプロンをつけている女性。

女性はエプロンを取りながらそう言った。


「そうなの。…えっと、ここは一泊何シンパーするの?」


「朝、夜、食事付きで一万五百シンパー。食事なしで一万シンパーだね」


アイのお金は約二万シンパーである。

二泊しかできない。

他国のお金はあるがこの国の子供としている今、それを出すのも憚られる。

それでもここはかなり安い値段だろう。

二泊の間に宿代も貯めるしかない。


「…取り敢えず二日分お願いなの」


「ん?なんだい?お金がないのかい?」


少しの間で何かを感じたのだろう。

女将さんがそう聞いてくる。


「そうだけど、大丈夫なの。明日で宿代も貯めるの」


「ふーん。なら、うちで働かないかい?ここ、年明けも開いてるものだから、料理のできない奴らが結構きて忙しいんだよ。それに、君なら客寄せにもなりそうだしね」


「いいの!?ありがとうなの!」


実は、襲うな、という契約をした今、冒険者になって襲われもしていないのにこちらから襲いにいくのはどうかと思っていたのだ。


「ふふふ、じゃ、宿代は無料で朝昼夜の食事付き、それに一日千シンパーで忙しくなる昼や夜に働いて貰おうか。あぁ、お客から貰った物は君の物だよ。…そういえば名前を聞いてなかったね。私はマルシア・サティ・ムーレン。皆にはマリィって言われてるよ。この子が娘のハンナ・ムーレン。お客の中には中にはハニーとかけてハニィと呼んでる奴もいるね。此処にはいないけど奥で今日のご馳走の準備をしてるのが旦那のダニエル。後で紹介するよ。君は?」


「アイなの。こっちはミミなの」


「じゃ、これからよろしくね。アイちゃん。ミミちゃんも」


「よろしくね!アイおねーちゃん!猫さんも!」


「よろしくなの」


「にゃー」


「じゃ、今から今日の仕事をいうから覚えておくれ。

…今日はご馳走だから皆でご馳走を食べるんだ。だから料理ごとにお金を貰うんじゃなくて店に入ったら貰うんだ。一人二万シンパーね。これはハンナがやるよ。アイちゃんには私と一緒に料理を運んでもらいたいんだ」


「分かったの。頑張るの」


「それじゃあ、旦那に紹介したいからついてきておくれ」


「分かったの」


でてきた方へ歩き出したマルシアの後につづいてアイは奥へ行く。

恐らく厨房だろう。


「ダニー!話があるからでてきておくれ!」


マルシアは色々な音がなっている扉の前で止まるとそう叫んだ。


「…どうしたんだ?」


いまだにグツグツだとかジューだとかなっている扉から疲れた様な顔をした男の人が顔をだした。

この人はこの国の男の人では珍しく髪を伸ばして後ろで結んでいる。

恐らくダニエルだろう。


「この前から言ってた手伝いをこの子に頼もうと思ってね。アイちゃんとこっちの子がミミちゃんだ」


「おお!それはよかった!俺はダニエル。よろしく」


マルシアが、手伝いを頼む、と言った瞬間ダニエルの疲れた顔が喜びに変わった。


「……言っとくけどアイちゃんは接客だからね?」


それを見てマルシアが釘をさす様にそう言うとダニエルが可視化できるのではないかと言うほど周りに暗い空気を漂わせて中に戻って行く。


これをみてマルシアはため息をつくと


「はぁ、仕方ないね。アイちゃん、私も手伝ってくるからハンナの相手でもしてやっていておくれ。」


と言ってダニエルを追って中に入っていった。


・・・・・


「アイちゃん!こっちの皿も空になったよ!」


「今行くの!」


「アイちゃん!こっち向いてくれー!」

「アイちゃん…お小遣いだ。」

「それっぽっちしかあげられないのかよ、俺はこれくらいあげるぜ!」


「ありがとうなの!」


「猫ちゃんも可愛いなぁ。ほら、お肉あげるからこっちおいでー」


『ぷいっ』


「ぎゃはっは、アイちゃんの方がいいってよ!」


沢山の人…きっと料理のできない独身の男の人達がほとんどだろう…が十時程から集まってきて十二時の今ではこんな感じである。

料理を運んでも運んでもすぐに空になって返ってくる…なるほど、こんな量の料理を準備していたのならあの疲れた顔にも納得がいく。


「よし!俺もご馳走、食べるぞ!」

「お!いいぞ、いいぞ、こっちにこい。一緒に年をあけようじゃないか。」


厨房からダニエルがでてきて一つのテーブルに混ざってご馳走を食べ始めた。

ハンナはすでに店のドアに、もう一杯です、の札をかけてお客さんの中に混ざってご馳走を食べている。

十二時なので眠ってしまってもおかしくはないのだが、こんな喧騒の中では眠気も吹っ飛ぶのだろう。


「まったく、仕方ないね。アイちゃんも厨房にある料理全部こっちに持ってきたらご馳走を食べよう」


マルシアはそう言って厨房に向かう。アイもそれについていく。

厨房にいくとあれほどうるさかった厨房が静まり返り大皿が四つほど置いてあった。


「一人二つだね。」


料理を運び慣れている人でないと片手に一個づつ大皿を持つなど力がなく、できないものであるが、そこはアイ、力に問題などないようで軽々と持ち上げる。

マルシアも運び慣れているので軽々と持ち上げ、食堂へ向かう。


「お!マリィもアイちゃんもありがとよ!もうこれで最後だろ?アイちゃんこっちにきなよ!」

「いや!こっちの方がいいぜ、アイちゃん!」

「いや、こっちだ!」


そんな声も上がったが、アイはマルシアが用意してくれた席へ向かう。

すると他の場所にいたハンナもダニエルも集まってきた。

ミミにはアイが魔力をあげている。

普通の食事も食べるには食べているのだが、ミミが満足するまで食べると料理がなくなってしまうので食べている殆どがアイの魔力だ。


「ダニエルさん、美味しいの、これ。」


「ありがとう。」


「アイおねーちゃん!こっちもおいしいよ!」


ハンナがそう言って、あーん、をしてくる。


「…ん、美味しいの。」


「でしょでしょ!ハンナ、これ、だぁーいすきなんだ!」



そんなこんなでワイワイガヤガヤとご馳走を食べているとマルシアが窓の外をみて、


「あ、もう年が明けてるね。」


と言った。

窓の外には上り始めた太陽がある。

それを聞いたハンナが残念そうな顔をした。


「えー、もうおしまいなの?」


「そうさ、こいつらを起こすの手伝ってくれ。アイちゃんもお願いね」


こいつらとは酔い潰れたお客さん達だ。

三人で叩き起こして水を飲ませてから外にだす。

因みにダニエルは他の客と同じ様に酔い潰れている。

マルシアもアイも勿論ハンナもお酒を飲まない為、無事なのだ。

叩き起こされたお客さん達は何やら叫びながらマルシアに追い出された。


「ふー。じゃ、ダニーはおいておいて寝よう。風呂は、もういいだろう。…アイちゃんの部屋はここだよ」


マルシアは、パッパ、と手をはたきながらそう言うとポケットから一つの鍵をだした。

三、と書かれている。


「ありがとうなの」


「アイおねーちゃんおやすみぃ」


最初は嫌がっていたが眠気が戻ってきたのだろうハンナは目を擦りながら奥に歩いていった。

きっと厨房の更に奥にマルシア達の部屋があるのだろう。


「部屋は二階だよ。…それじゃあ、私も寝るよ。今日は朝はなしで昼早めに始めるからを十時には降りてきてくれ」


「分かったの」


アイはマルシアと別れると木の階段を上る。

三号室はカレンの家の部屋と似た様な感じであった。

メイに言われて魔法で体を簡単に洗ったアイは部屋に鍵をかけ、小さくなってカレンに貰ったパジャマを着ると倒れこむ様に寝る。

メイのお陰で早寝早起きが習慣になっているアイにも日の出、いつも起きるのと同じくらいの時間まで起きているのはきつかったのだ。

ブラッシングを忘れられたミミもその事は分かったので文句も言わずにアイの横で丸くなる。

メイ達も光の玉となった。




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