また進化、そして新しい武具
う、うーん。なんだか体が軽い。今の時間は0時50分
というか俺が気絶する前何か聞こえていたような……。
ちょっとアナウンスのログを開いてみよう。
確かあれは昨日の……22時10分ぐらいだったか。
うわ、すごいバグってる。ていうか魂の量が減っている何?俺消滅するのか?
そして何者からかの介入って?
極めつけにはこれだよ
《ステータス確認。種族マンスケルトンから種族アサシンスケルトンに進化しました。》
《称号:進化する者(魂の量の入手効率アップ) を手に入れました。》
《「世界という意思」から介入を受けました。システムの権限、複製権を受け渡す代わりに願いを1つ叶える権利を手に入れました。》
どういうこと?進化の方は体が軽くなって本体、骨の方が少しサイズダウンしたから実感が湧くけど、世界という意思?システムの権限?複製権?願いを叶える権利って何?
意味が分からないぞ。
ちょっと待ってくれ。周りにある財宝を盗み……一度預かりながら整理するから。
よし、よく分からないもの以外はほぼ全て手に入れた。
持ってきた袋が小さいからあんまり入らなかったな。金に換算して150枚ってとこかな。
今日は美味いもの食いに行こう。
しかし例の貴族も変なものを集めていたな。俺には分からないが価値があるであろう陶器から変な紋章の入った指輪、ぐちゃぐちゃな絵画、只の薄汚い箱。
一体何でこんなものをマロンに盗ませていたのか。
まあそれはいいか。
今重要なのは願いを叶える権利だな。
あれから整理してみたが、ログが残っていた。そこには俺が並列思考の8番から12番を使って作ったアナウンスシステムが「世界という意思」とやらに乗っ取られて俺の手元を離れた旨が書いてあった。またその代償として俺に願いを世界が許す限り何でも1つだけ
叶えてくれるんだとさ。
元の世界へ戻ること……はやめよう。スケルトンとなり肉体の操作から制御までほぼ全てを魔法的な物質に任せている俺が地球でも存在できるかどうか分からない。
だったら今の俺の強化だ。そして今の俺に足りていないものといえばこれだ。よし決めた。
「俺は自分の為だけの特別な武具を望む。」
俺に足りていない力。それは武器だ。
一応他にも進化だとか力の増強とか能力の増加とかも考えた。
それも駄目ではないが選びたくない。進化はこれからLVを上げていけばまた出来るだろうし、力の増強も同じ理由。能力の増加は2つ以上の能力を魂に宿した場合何が起こるか予測は不可能だと通知が来た。
正直いきなり降って湧いたこの幸運に少しでもデメリットがある選択をする意味が無い。
元々無かったチャンスなんだから高望みをするのもおかしな話だろう。
という訳で無難な武具を所望した。
世界から与えられる武具なんて多分一生の内一回も手にすることが無いだろうから。
《願いを確認。……了承しました。制作まで1分掛かります。》
《……カウントダウン。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0。制作完了。》
《転送します。》
俺の足元が光り、それが収まるとそこには黒い鞘に入った刀身55cm程の刀と青黒の地に赤線が入ったローブが在った。
忍刀を鞘から抜くと白とも黒とも灰ともつかない不思議な色をした刀身が現れた。
《願いの権利に基づくアフターケアとして贈り物の説明をします。》
《1つ目。浄穢不仁の刀:世界が願いの権利に基づき作った全世界で唯一の刀。人としての比較的浄化されている魂と魔物としての穢れている肉体を持つ者の為の刀である為、聖なるもの、邪なる者の両方に大きなダメージを与える事ができる。また浄化することも侵食することも出来ない。
勿論普通の刀としても最高峰である。》
《2つ目。無色の法衣アルケー:世界が願いの権利に基づき作った全世界で唯一の防具。世界の起源の一部から切り離されたモノを編んで作った衣である為、何物にも染まり、染まらない事が出来る。分かりやすく言えば染まればどんな物とも同化し受け流し、染まらなければどんな物でも跳ね返し万物の起源へ戻し消滅させる最高の防具。効果の発動には使用者の意思が必要。世界の起源である為壊れる事がないので普通の防具としても最高峰である。但し纏っていない場所は範囲外なので気をつけるべし。》
なんかチート臭いな。取り敢えず装備するか。
ローブは俺のガッチリとした体を被えるサイズだった。
前方は開けておこう。動きにくくなると困るからな。
忍刀を左肩から背中に紐で納める。
確認の為に一度左手で少し引き抜き右手で完全に抜き取る。
ちょっと紐が長いな。紐を短く調節して……よし。
さて、これで装備も金も証拠も手に入れた訳だしさっさとずらかろう。
もう1時だ。
明日も活動しなきゃいけないんだし少しは休まないと。
隠し部屋を出て執務室まで来ると何者かがこちらへ向かってくる気配がしたので早速手に入れたアルケーを使って周囲と同化して隠れる。
しばらく待っていると扉を開けて何者かが入って来た。
「ご主人様…あれいない?」
どうやら只のメイドだったようだ。メイドが部屋から出たのを見て引き出しからマロンが盗みを働いている写真とカモフラージュの為幾つかの書類を盗み出す。
廊下の奥に進むメイドを尻目に俺は部屋の外へと出る。今度も来た道と同じ道を辿って館の外へ脱出した。
そこからは人通りが少ないが警戒して誰にも見つからないように宿の自分の部屋まで帰った。
ふぅ。結構疲れたな。明日はマロンに報告と後は依頼を受けよう。Fランクは1週間に依頼を5回やるのが義務だとか聞いたしな。
じゃあおやすみ。
おはよう!いい朝だ。只今の時刻7時30分。この世界に来てからぐっすり眠れるようになって嬉しいな。
前は学校とかで毎日自分で決めた訳でもない時間に無理に起きなきゃいけなかったしな。
さて、さっさとギルドに行くか。マロンへの報告は後でいいだろう。朝から言っても迷惑だろうし。
ギルドに来た。さあ依頼を見よう。今日の依頼はどんなものがあるかな。
出来れば簡単なのが良いな。
……おっ!これにしよう。はぐれウルフの討伐。
詳細は、街の東の大草原で群れからはぐれたブラウンウルフが暴れているから討伐して欲しい、特徴は耳が白く顔に右斜の傷が付いているか。
手順を踏み依頼を受ける。期限は今日の18時まで。証拠としてそのブラウンウルフの耳を取ってこい。もし普通のブラウンウルフの耳を持ってきてもすぐに分かる。そんな注意をされて依頼を受注した。
「さて、資料室はどこか教えてもらっていいか?情報は多い方が良いしな。」
「なぜ俺に聞きに来た。俺も暇じゃないんだぞ。」
というわけで近くに居たクレイマンに資料室の場所を聞きに来た。
クレイマンは元Aランクと云うし何か役立つ情報を教えてもらえるかもしれないし。
「だが、情報に目を付けたのはいい。お前が受けに行くブラウンウルフには厄介な特性があるからな。資料室はこっちだ着いて来い。」
クレイマンに資料室に連れて行ってもらう。
「うわ、結構デカイんだな。これはもう図書館じゃないか。」
「その言い方も正しいな。大本部と呼ばれるこのギルドは他のギルドから資料や本が多く納められる。
そしてこの資料室は重要資料を置いている部屋以外は銀貨4枚で一般公開している。
……もちろん人間だけじゃなくて他の種族も許可してるからな。」
「俺達は払わなくて良いのか?っていうか何でそんな念を押した?」
「俺達のようなギルド職員や冒険者には無料開放だ。ちなみにAランク以上になれば無料で貸出しも出来る。もちろん期限はあるがな。
それと念を押したのは時たま人間至上主義の奴がいるから、お前がそうじゃないかの確認の為だ。」
へえ、そんな奴が居るのか。獣人の獣耳とか魔人族のミステリアスな風貌とか鳥人族の羽とか良いと思うけどな。
クレイマンに蔵書の探し方を役に立つ情報が書いてある本を幾つか教えてもらった。
クレイマンは「俺はもう600年もこのギルドに勤めているからこの資料室にある資料はほぼ全て識っている」とか言っていた。
クレイマン一体何歳なんだ。
ちなみに教えてもらった本は「魔物大百科5000年版」、「魔法薬精製術」、「丘陵地帯、山岳地帯の歩き方~エルシエム王国編~」、「危険な植物、菌類」、「どんな無礼者も30分で紳士の一歩を」だ。
この世界は今年で暦5008年だ。つまりこの図鑑は新しい物だ。
魔法薬については俺も魔力回復薬や肉体と肉体を繋ぎ止める為の特殊な接着剤とか独自で開発していたから少し興味がある。
魔法薬は魔力を持つ材料を元に作られた効果を持つ薬のことだ。火が着きやすいだけの物もあれば、中には飲むだけで魔力を回復させたり、掛けるだけで繊維質の布だけを溶かす薬とかもある。
他のは現代でも作られてた物だな。時間を作って読んでみよう。
最後は俺への文句だと思う。クレイマンは俺より大分年上なのに敬語使いにくいんだよな。親しみやすいとも言う。
とりあえず魔物大百科のブラウンウルフなど草原に出てくる魔物について読んで記憶しておく。
今の時間は10時過ぎ。さて行こうか。遅れると最悪マロンへの報告が明日になってしまうからな。
東の門から草原に出る。膝の上の高さの青草が生い茂り、狼ぐらいの大きさの生物なら身を屈めれば隠れることが出来るだろう。
門から出てそこらをウロウロしているとスライムが出てきた。
俺の元々いた迷宮にも居たのでよく見知った魔物である。属性を持つ魔力に感化されやすいので魔法薬の材料によく使う。
しかしあの迷宮に居たのと違ってこのスライムは青緑の色をしている。迷宮に居たのは無色だったはずだ。
取り敢えず研究の為にも採っておこう。スライムは足が遅く中距離攻撃を持っていないので魔法で撃てば直ぐに終わる。
ってうおおおお!?
危ねえ今のは魔法か。
スライムがプルプル震えたかと思えば体から風弾が出てきた。
魔法使えるのか、スライム。
これは更に研究の幅が広がるな。
まあ、魔法を使えるといっても所詮はスライム。連発が出来ないので隙を見計らってこちらから魔力の矢を格に核に撃ち込んで維持できなくなった体を回収した。
それからもぐるぐると草原を回りながらスライムやゴブリン、コボルト等の下等魔物を討伐しているとやっとさまようウルフを見つけた。
特徴とも一致する。
こちらの敵意を確認してブラウンウルフは戦闘態勢に入る。
飛び掛かって爪を立てて来たのをアルケーを纏わせた左腕でガードする。
爪は布で防ぎ止められウルフの動きが少し止まる。少し痛いが爪が突き刺さることも無い。
俺の横を抜けようとするウルフに合わせ俺も体を動かし後ろに回る。
腰に挿していた浄穢不仁の刀でウルフの心臓当たりを狙って突き立てる。
刃は簡単に毛皮を突き抜け肉を突く感触が伝わってくる。正直あんまりいい感触ではなく迷宮でも何度かゾンビを斬った時にも感じているが未だ慣れない。
刃はウルフの肉を貫通し腹部から飛び出る。そのまま引いて再び今度は心臓を逃さないように突き立てる。
「グル……ルアァ」
耳を取りギルドへと帰る。
世界から受け取った武具の試しに来たのだが俺の稚拙な技量でも凡そ同レベル帯の魔物に魔法すら使わず簡単に勝てたのは予想以上だった。
ただ、防具の方の同化、消滅させる効果は使い方が分からなかった。
これが使えるようになれば敵はいなくなるんだろうが、残念だ。
まあ追々出来るようになるだろう。
依頼報告をして体内時計を見ると今の時間は12時39分。
飯食ったら丁度いい時間になるだろう。
そうしたらマロンに報告に行くか。
とりあえず書きだめてた分はこれで終わりです。
多分まあ続きは書かないと思うけど、皆さんが少しでも楽しんでくれたのなら幸いです。