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偽善のお仕事

さて、依頼は終わったことだし例の貴族を消しに行くか。

魔法を使うと魔力でバレる可能性が上がるから魔法は使えないし魔法を付与した道具も使えない。

今の内に準備をしておこう。

まずは下見をしに行こう。こっそりと。

貴族街を周りよく調べていく。侵入用の人通りが少ない道。

例の貴族の家を外から見て回り構造からおおよその内部構造を並列思考で割り出す。

幾度と無くシュミレーションを繰り返し必要な物を最低限に削っていく。

必要な物はナイフ、丈夫なロープ、細い糸、持っている靴と違う靴、これだけだ。

靴は今の靴だと音が立つので魔法が使えない状況だと潜入には向かないからだ。

ロープは店で買うとして細い糸は自分で作った物を倉庫から出すだけでいい。

ナイフは新しく買おう。闇市で買えば足はつかない。


その前にギルドに行って資金調達だ。今の手持ちだとちょっと心許ないし置いてきた金貨を取りにわざわざ宿に取りに戻るより早い。

様々な音が響きあう職人街を通り抜けてギルドに到着だ。

扉を開けて依頼関連の受付に依頼完了表とギルドカードを渡す。


「昨日受けた依頼が完了した。」

「ギルドカードお預かりします。では少々お待ち下さい。……どうぞ、こちら依頼の銀貨30枚です。」

「どうも。」


業務的な会話を交わしてそのまま商店に行き靴を買おうと踵を返すと後ろに冒険者登録のときに世話になった男、クレイマンが立っていた。


「ようカギヒラ。初めての依頼は無事成功したんだな。おめでとう。」

「ありがとうクレイマン。それで、何か用事か?」

「ああ、無事完了したことを祝って酒でもどうかってな。」


ふむ。酒か。昼間から飲むことに抵抗もないし、こちらではもう成人だから気にもしない。

でもしかし、ここで飲むと計画に少し遅れが出るな。マロンとの話で時間がかかったのかもう16時だ。2時間か1時間飲んでれば店が閉まってしまう。

しょうがない。元Aランクの冒険者に話を聞くのは勉強になるかもしれないと思ったけど言ったことを覆す訳にはいかない。


「すまない。これから少しやらなければいけないことがあるんだ。」

「そうか。残念だけどしょうがない。じゃあな。」


クレイマンは立ち去って行った。

ちなみにあいつは俺の使った魔術を全部体を少し動かすだけで躱していたヤバイやつだ。……聞く話によるとギルドの3階にはああいう化け物がワラワラ居るんだよな。

気をつけなければ。

暗殺の途中に見つかったら逃げきれる気がしない。月世沈弱は範囲があるからな。

ギルドから出てちょっと離れた道具屋に行く。前回行った店とは違う所だ。

殺しの道具に使う物を知った顔から買うのは少し抵抗がある。

そこでロープとナイフを買って隣りにあった靴屋で裏が柔らかく音の出にくい靴を買う。

銀貨10枚だった。

そして倉庫から大樹の線維と死んでいた冒険者の毛皮の装備から抜き取った毛を組み合わせて作った丈夫な細い糸を出す。

準備は完了だ。後は時間を潰すだけ。作戦開始は21時から。今の時間は18時。

1時間前に下見をするとして、後2時間は一旦宿に戻って飯でも食おうか。


宿に帰り飯を貰う。


「お帰りなさい。お仕事は頑張れましたか?」

「レイラさんか。そうだな、初めての仕事だったから不安だったけど上手くいったよ。」

「そうなんですか!おめでとうございます。あっ、これ今日の夜ご飯です。どうぞ。」


レイラは俺に飯を渡すと自分の仕事に戻った。宿屋の娘というのも大変そうだ。

飯を食い終えてレイラさんとおかみさん達に挨拶をすると自分の部屋に行き準備を整える。

ナイフに丈夫な細い糸を括りつけて投げ飛ばせるようにする。

ロープは束ねて腰に吊る。靴もちゃんと履き替えて置く。

よし、行くか。

自分の部屋の鍵を閉め窓からこっそり外へ出る。

この宿にはクレイマンとかのような化け物はいないからそこまで慎重に行く必要はないよな。

現在時刻19時50分。市民街の外れにあるこの店の近くだと流石にもう帰った人も多いのか人通りが少ない。

飲食街、商店街と過ぎて行くと貴族街への大通りに出る。

ここを通れば10分も掛からず例の貴族の元へと行ける。

しかし今回は人に見つからない事を優先するので多少遠回りになるが大通りは通らず裏道を駆使していく。

何事も無く貴族の家に着く。

予定通りに1時間使って周囲に人の目がないかの確認。そして中の警備を目視で確認。


人がいなくなった所で中に進入する。

周りが門で囲まれているので入るには準備していたロープを使う。

どうせ警備とか魔法での罠があるんだろうが俺の作った肉体を舐めるなと。

俺の目は頭蓋に設置してある魔法宝石と同種の石を砕いた粉を網膜に細かく散らしてある。

よって自分が魔法を使っていない時という条件があるが、魔法宝石に貯められていく魔力を感知することで光以外にも方向性を持った魔力を視認出来るのだ。

上手く地雷原のように無造作に張り巡らされている魔法陣を踏まないよう駆け抜ける。

勿論魔法陣のコピーも忘れない。魔法の効果が分からないのでこのままでは使えないが解析して自分用に書き換えれば使えるようになる。

庭を抜け館の裏に着いた、予想ではこの3階が奴の寝室のはずだ。特殊な性でもない限り多分あそこだ。

1階から中に侵入する。

音を聞いている限り中を警備しているのは2人。

まずはそっちから片付けるか、暗殺の最中に邪魔されたら腹が立つ。

何、気絶させるだけだ。関係ない奴まで殺すことはしないさ。


片方は1階。ホールを挟んで俺と反対側に居る。こちらに向かってきているようだから通りがかった所を後ろから処理しよう。

……来た。今だ!


「何だって夜に警備なんかしなきゃいけないんだか……早く帰りたい…ムグッ!」


後ろから輪のようにした細い糸で首を絞め、口を塞ぐ。

少しの間抵抗していたがやがて動かなくなった。

侵入した部屋の中に隠し先に進む。

もう1人は2階の警備をしているようだ。

階段を上がり耳を澄ますと声が聞こえてきた。


「……ハックション!!くそう。最近冷えてきたな。いくら警備の為とは言ってもこの装備は寒すぎてなあ。」


何かここの警備は独り言が多いな……。まあ場所が分かるから嬉しいんだけど。

後ろから近づき先程と同じ工程で気絶させる。

近くに従者がいないことも確認済みなので近くの部屋に押し込んでおく。

さて、ここからが本番だ。

仮にもこのそれなりに大きい館の主だ。警備は厳重だろう。

3階に上がり再び魔力の視認を始める。

予想通り寝室と仮定した所には多くの肉眼では視認できないよう加工した魔法陣が書き込んであった。

これからこの魔方陣を解析して分解しないといけない。

その間何をして置くか。分析に関してはもう魔法陣を記憶したから並列思考の一部に任せておけばいい。


《ステータス確認。能力:並列思考がLV14に上がりました。》

《増えた思考を設定しますか?》


お、能力がLVアップした。そうだな、増えた思考は得た技術の最適化に使おう。

今使ってた糸で相手の首を締めたりとかそういう技術の新しい使い方を考えるんだ。


《意思を確認。設定完了しました。》


ちなみにこのアナウンスの声は実際に鳴っている訳じゃなくて俺の脳内で創り出された妄想とか想像とかそう言った部類の幻聴みたいなものだ。

最初は俺の声でやろうかと思ったけど気持ち悪いからやめた。


で、解析を待つ間何をするかだったな。

そうだな、彼女、マロンに無理やり盗ませた盗品の確認にでも行くか。あれがあれば自分の物を盗まれた貴族の恨みって事で済まされそうだし。

多分寝室には無いだろうな。メイドとかが中にはいった時偶然見つけてしまったら騒ぎになるし。同様の理由で従者達の住む場所となっている2階にも無さそうだ。

ということは1階か3階だな。

人が物を隠すのは自分以外の人が入りにくい場所、また自分の近くである事が多い。と何かの本で読んだ。

よって俺の予想だと盗品については途中で見つけた宝物庫以外の隠し部屋に置いてあるはず。

執務室や書斎といった場所を探そう。そこが一番物を隠しやすい。

扉の前から離れて探索を始める。隣の部屋からだ。物音を立てないよう注意を払いながら中に入る。

当たりだ。どうやら執務室らしい。窓を背にして長机と椅子が配置され、それらを囲むように本棚がある。

幸いにも床にはカーペットが敷いてある。地面すれすれで観察すれば歩いた跡が見える。

これも探偵小説とかで読んだんだ。

……見える。見える足跡の種類は4つ。1つは俺の物でこれは入り口から俺の立っている部屋の中央まで、1つは少し小さい。記憶が確かならマロンが履いていた靴がこんな大きさと形だったはずだ。ここで盗品の受け渡しをしていたらのだろうか。きっと今日も盗んだものを渡しに来たのだろう。

残り2つはデカ足の俺より小さいが大きさからして男の物だ。

片方は執事か何かだろう。もう片方の跡は机周辺にある数が多いため例の貴族の物だと考えられる。

例の貴族の足跡を追っていると不自然な足跡を見つけた。

本棚の前に立っていただろう足跡はその後戻った痕跡がなく途切れているのだ。

つまりここに隠し部屋への道があるということか。

思い出せばここは外から見ればもう1つ部屋が有ってもおかしくない筈だ。

要するにこの間のあるはずなのにない部屋が盗品の隠し部屋という訳か。


本棚を探っていると棚の奥に魔法陣が視えた。

中心に不自然な大きさの空白が在ることを考慮すると恐らくこれは指紋認証とかの個人認証システムなのだろう。

困ったな……。これじゃあ入れないじゃないか。まさか壊して強行する訳にも行かないし。


「どうしたものか……。」


そう呟いた時だった。

ガチャという音がした。


「っ……!!」


誰かが入って来たのかと後ろを向くが扉は開く気配すらない。

一体何なのかと警戒しているとズズズと何かが引きずられている音が響いた。俺の目の前で。

まさかまさかもしかして、この棚を挟んだ向こう側には先に盗品用の隠し部屋に入っていた例の貴族がいて今まさに出ようとしているのか?

ゴクリと唾を飲み込みながらジッと待っていると棚は回転を始めた。ぐるりと回り始めた棚は半回転すると止まり、隣の隠し部屋への道が現れた。


「な!何者だきさ……」

「クソッ!こんな突発的になるなんてもっと慎重にすべきだった……。」


そして現れた道に立っていた貴族が曲者の俺を見て叫びそうになったのを見て思わず俺の体は隣の部屋へと貴族を巻き込み転がり込んだ。

隠し部屋は2階まで吹き抜けていたようで道の先は階段になっていた。

ゴロゴロと貴族ともつれ合いながら階段を転げ落ちていく。

4回転ほどして階段の下へ着いた時貴族は息を荒げていた。


「おい!お前少女を脅して無理やり盗みをやらしているだろう?」

「そ、そんなものは知らんな。私はそんなことをしていないぞ。」

「とぼけるな!脅しのタネはどこにある。言わないと貴様の目を抉る。」

「ふん、脅しには屈しないぞ。今すぐに私の傭兵が貴様を捕らえに……。」

「傭兵達にここの存在を教えているのか?それに叫んでみろ、傭兵が来る前に貴様の首を切り落としてやる。」


貴族は俺の下で顔を青ざめていく。


「分かったのならさっさと言え。」

「……わ、私の執務室の机の上から4段目の引き出しだ。そこの鍵はここに……。」

「そうかありがとう。」


俺は腰に差し込んでおいたナイフを取り出し床に転がっていた貴族の首を掻っ切り完全に息を止めた。

始めての人殺しだったが罪悪感は感じなかった。

俺がそもそもそういう人間だったのか、魔物になったからか、相手が悪人だったからか分からない。

だが、やはり精神的にダメージを受けていたのかも知れない。

貴族のポケットから鍵を取ると俺の意識は切れてしまった。


《ステータス確認。魂の量が15に上がりました。》

《ステータス文章化No.8かラ緊急伝達。魂の量が減少中……魂の量が1になりました。》

《アナウンス兼情報処理No.12から緊急伝達。何者からカのシステむヘノ介入を察知シましタタタタタタタタタタタタタタ……》


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