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盗みの理由

あれから調査を進め、数々の魔法を使い、ブラックルナの後を監視した結果分かったこと。

まずマロンが泥棒であることは間違いない。例の泥棒が黒い外套を脱いだ下がマロンだった。

次に何故盗みをするのか、だがこれについては時間がなくて詳しく分からなかった。

が、仕事を終えた後のマロンの呟きを聞いた所やりたくてやっている訳では無さそうだ。

最後に付けられた通名。ブラックルナだがどうやらマロンは夜にわざと姿を見せることで泥棒が夜に出ると思わせているらしい。昼間に仕事をしているのに誰も警戒をしていなかったのはそのせいだったか。


さて、そろそろ昼過ぎだ。仕事をしているマロンに会いに行こう。

今日もきっと市民街を狙うんだろう。貴族街は週に1回のペースで狙っているみたいだ。今週はもう一度入られているみたいだ。確か俺の依頼主の友人だったな。

そして聞いた所によると市民街にも上級市民街、普通市民街があるらしい。

普通市民街の人はわざわざ盗むほどのものを持っていないだろうから上級市民街だろう。

そうして見回っている内にほら、マロンがいた。

上空に飛ばしていたスフィアを消して、上級市民街の裏道から屋根へと飛びマロンの前へと移動する。


「……仕方がない。少し眠ってもらうぞ。」


ナイフを構え飛びかかって来た。腰をかがめて躱す。

ご丁寧に声も変えているみたいだ。ガラガラとした高いとも低いともつかない声が出ている。


「お前マロンだろう?」

「っ!!……何でバレた。」

「昨日直接見たからだ。お前が外套を脱ぐ所を。」

「くそっ!」


マロンは俺にナイフを投げてきた。


「待て!俺はお前を捕まえに来た訳じゃない!」

「嘘をつけ!じゃあ何でここに来たんだよ!」


ナイフを躱している隙にマロンは拳を俺に叩き込む。

腕を構えて防御しながら話し続ける。


「俺はお前の話を聞きたいだけだ。お前が何でこんな事をするのか。」

「……好きでやってるんだよ。」

「それこそ嘘だろう。お前は昨日こんな事はしたく無いと呟いていた、だろ!」

「くっ!それも聞いてたのか。」


俺の放ったフックを体をのけ反らせ躱したマロンは後ろへと下がると、またナイフを取り出し突っ込んでくる。

半身で躱してナイフを取り上げ足を引っ掛け転ばせる。


「何故こんな事をするんだ。お前には姉がいるんじゃないのか。」


俺の言葉にマロンは顔を歪ませると口を開いた。


「……その姉さんの為だ。」

「姉のため?それはどういう……。」

「居たぞ!あいつらだ!捕まえろ!」


やばいまた警備隊の奴らだ。いつもいい所で来やがって。


「逃げるぞ!」


顔を見られないよう煙弾を放ち背を向け走る。マロンもしっかり着いて来ている。

そのまま屋根から降りて倉庫に保管していた服に着替える。顔は見られていないが服は見られていたからな。


「マロン。服を脱げ。」

「は、はあ!?お前何言ってんだ!」

「姿を見られていただろう。顔は見られていないが服は見られただろう。」

「あ、ああそういう事か。」


何を勘違いしているんだマロンは。昨日の事と云い少し勘違いしやすぎじゃないか。


「それで本当にあんたは私を捕まえる気はないんだな?」


外套を脱いだマロンが聞いてくる。


「ああ、さっきも言ったが俺はお前が何故こんな事をするのか聞きたいだけだ。何故親切にも人に忠告するような奴が義賊とはいえ盗みをするのか。」

「ここじゃ話しにくいことだよ。誰かに聞かれでもしたら大変なことになるしな。私の家に行こう。姉さんはこの時間は医者に掛かりに行ってるから。」


マロンに連れられて市民街を歩く。重要な事を話す前だからか言葉は交わされない。

重い雰囲気のままマロンの後に続いていると、上級市民街を抜けた。

やがて小さなボロ屋に着くとマロンは中に入って行った。

ここか。


「入ってくれよ。」

「お邪魔します。」


中は綺麗に掃除されていて外程汚くはないようだ。


「そこに座っといてくれ、お茶を淹れてくるから。」

「ああ。」


部屋の真ん中にある机に座る。

入ってすぐに四角い部屋があり入って右側と左側、そして前に扉、階段がある。

左側はさっきマロンが入って行ったから台所だろう。

部屋を見回している内にマロンがティカーップとポッドを持って帰ってきた。

マロンはカップにお茶を淹れると俺と自分の前に置き、椅子に座った。

俺はお茶を一口飲み話す。


「じゃあさっきの続きを聞こうか。さっき姉が医者に掛かりに行ってるって言ったことについても。」

「分かってる。全部話す。

話す前に一つだけ言っておく。この話は誰にもするな。誰にもだ。

話したらお前を殺しに行く。

絶対にだ。」


殺すと言ったマロンの目は本物だった。俺が誰かに、たとえ彼女の姉に話したとしてもマロンは俺を殺しに来るだろう。そんな覚悟が見て取れた。

俺はそんな覚悟を汚さないためにも大人しく黙って彼女の話を聞くことにした。

そこからの彼女の話は驚くべきものだった。

まず彼女の姉は病気らしい。それの病院代、薬代、諸々でこんなボロ屋に棲んでいるらしい。これは大して重要な事じゃなかったと思う。


そしてここからが重要な事だ。とある貴族が彼女の姉に惚れた。

その貴族は彼女の姉を娶りたいと言い出した。

最初は彼女も彼女の姉も乗り気だった。何故なら彼女の姉が病気だと知っていてもその貴族は彼女の姉を娶りたがったのだ。


これで彼女は1人自由に成れ彼女の姉も幸せになれる、と思っていたのだが。

いざ入籍という時悪い噂が耳に入った。

その貴族は前にも何人か娶っていた。これは良かった。この国では妻を何人も娶ることは別におかしい事ではない。

だがしかし。例の貴族の前妻達は不審死を遂げていたのだ。

1人は高さ20mの大樹の枝に吊られ殺されていた。1人は全身の血を抜かれ死亡。1人は家にの中で何か牙のあるものに噛まれて死亡。もちろんそんな危険な生物は買っていないと使用人達も証言していた。


これを聞いた彼女達は入籍を断った。

しかし例の貴族の方もただでは済まさなかった。貴族は彼女達に条件を出したのだ。

1つ目は自分が彼女の姉に求婚したことを黙ること。

これはもちろん彼女も快く受け入れた。貴族の求婚を断ったことを話したら他の人々が妬み等で自分達へ攻撃してくるかもしれない。

2つ目が問題だった。

貴族は彼女に自分の為物を盗んでくるように言ったのだ。

これについても彼女は断った。

しかし貴族は言った。「貴族である自分にとってお前達はどうにも出来る。無理やり娶ることも出来るのだ」、と。

渋々彼女は貴族の出した条件を飲んでしまった。


最初に盗むよう言われたのは軽いものだった。大した価値の無い他国のコイン。

それがいけなかった。彼女は自分が物を盗んだことをネタに脅され盗みを働くように強制された。

それが2ヶ月前のことである。

ついでに言っておくと、彼女が汚い奴らばかりを狙っているのは、盗むよう指示されていた物を持っていたのが彼等だったからという理由だけらしい。

市民は義賊と言っていても当の本人はその意識はなかったのだ。


と、まあ彼女の状況はこうだ。なるほど。腹が立つ。

何故世界にはこういった理不尽が消えないのだろう。

前の世界でも、そういう奴は沢山いた。他人を騙し欺き陥れ傀儡にし利用するだけ利用する。益を搾り取ったら今度は玩具にして遊ぶ……。

俺の中学の頃の元親友もそういう奴に壊されてしまった。

思い返すだけで腹が立つ。


「クソッ。あの貴族さえいなければ……。」

「…………。憎いか?」

「は?」

「その貴族が憎いか?殺したい程に。」

「……ああ。憎いさ。恐らく姉さんを殺そうとしたあいつが。私に汚い真似をさせるあいつが!殺してやりたい!首を切って、毒を飲ませて、何でもいい。あいつに死を味あわせてやりたい!」


マロンは興奮して言う。しかしやがてその意気も無くなっていく。


「でも無理だ。あいつは慎重で私と会う時は何時も部屋の外に部下を立たせてる。警備は厳重だ。殺したら私はすぐに捕まる。姉さんを悲しませる訳にはいかない。

私じゃ、どうしようも出来ないんだ。」

「なら俺が殺ってやろう。お前の代わりにそいつを殺そう。」

「な!で、でも私はお前に何もやれないぞ?私は見ての通り貧乏だし……。」

「いらない。昨日の忠告の礼だ。」


マロンの家から出る。

さて、どうしようか。既にその貴族をバレずに消す方法は考えた。

次は必要な事をしなければいけない。


例の貴族の住んでいる貴族街へ向かう。

この街には城を中心として周りに時計の頂点から市民街と飲食街、スラム街、上級市民街、

貴族街と商店街、職人街と墓地、遊郭やギルドや2つ目の商店街、職人街と2つ目の商店街の間に貴族用の学園といった配置になっている。

今は市民街にいるのでそのまま飲食街、商店街と上級市民街の境の大通りを通り貴族街へ向かう。


まずは先に自分の依頼を済ませるとしよう。

場所はギルドの地図に貴族の家のみ名前付きで記してあったので分かる。例えば俺の依頼主だとカーライル邸と地図に書いてある。

その邸宅に行くと所々金泊を使った成金趣味の豪邸だった。

調べた所によるとカーライルは元々弱小だった貴族が権力を乱用し弱い商店を操り1代で中級貴族まで上り詰めたやり手らしい。まあだからこそ義賊を警戒してこの依頼を出したようだが。

ていうか今思ったんだがこの依頼は初心者向けじゃなかったような気がする。

ともかくだ。

ギルドカードで身分を証明すると応接間に通された。

そして待たされること30分。やっと奴が着た。

でっぷりと太り脂ぎったその体を綺羅びやかな宝石や服で装飾しているがむしろ汚く見える。

立ち上がり出迎えると、フンと鼻を鳴らし対面の椅子に座った。


「お前はギルド員だそうだな。私の出した依頼を受けたとか云う。それで?ここに来たということは調査は終わったのかね?」

「はい。調べてみたところ、その盗賊はこの街に住んでいるわけではないようです。

見かけた盗賊を追いかけていた所服を着替え正規の手段で門から出て行くのを見ました。」

「ふむ。ということは顔も見たのだな?どんな顔だった。」


やはり頭がいいようで俺の言いたいことを先取りして聞いてくれる。話が早いな。容姿は醜いが頭はいい出来だ。


「はい。盗賊は人間族の男でした。鼻は低く、耳は尖り、背は高め、少し痩せぎすでした。」

「そうか。それだけ分かれば十分だ。ご苦労。さっさと出て行け。」


訂正。自分に都合のいい事だけについては頭がいいようだ。


「カーライル様。その前に依頼完了表を頂けますか?」

「……執事に持たせておく。さっさと出て行け。」


少し機嫌が悪くなったようだが、もう会うことはないだろうからどうでもいい。

礼を言い部屋を出て門の前で待っていると執事がやってきて完了表を渡してきた。

これはギルドから依頼者へ渡されるものでこれがなければ目的を達成しても料金を貰えないばかりか期間以内に提出できなければ依頼失敗となってしまう。


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