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こそ泥を捕まえよう

こそ泥が出るのは確か市民街って言っていたな。ギルドの地図によると……あそこか。



市民街に来た。やっぱり朝は仕事なのか人の気配は少ない。

たまに子どもが遊んでいるのを見る以外外に出る人間はいないようだ。

今でも盗みは出来そうだがまだ十分な安全がない。

俺がこそ泥なら家に残っている人間が買い物に行くような昼を少し過ぎたくらいの時間に

仕事をするだろう。

……しかし、ここらは広すぎるな。俺1人じゃ泥棒探すのは無理か

この街で家を持っている人間がほぼ全て集まっているんだから当たり前か。

しょうがない。街の中で魔法使うのはダメだから使いたくないんだがな。

設置した魔法は2種類。

【小結界・鈴鳴りの巣窟】

広範囲に多数の結界を設置し、範囲に入った者があれば術者の下に鈴の音で知らせてくれる。それだけの効果だ。

【眺望と遠隔操作の宝玉】

こちらは俺が好んで使うスフィアを使った魔法だ。設置したスフィアと出したスフィアをリンクさせ視覚情報を飛ばす事ができる。更に遠く離れていても魔力を噴出することで精度は悪いが動かすことが出来る。


さて、罠の設置は完了だ。俺の仕事はこそ泥の調査であって捉えることじゃないからな。

こそ泥が罠にかかるまで暇になるな。街の探索にでも行くか。

そうだな、露天商でも見に行くか飯はまだ早いし、服とかは昨日買ったし。

市民街の裏に行って薄汚い裏通りを通り抜ける。そうすると露天商が広がる通り道に着く。

露天商をやっている奴は店を買えない奴か、もしくは普段からは商売をしていない奴が珍しい物を手に入れたから売りたいかのどちらかだ。

だからここは玉石混交。時間を潰すのにはちょうどいい。



碌なもんがなかった。ゴミのような価値しかない物を高額で売られそうになったし。

でも時間は潰せたな。そろそろ飯屋にでも行くか。

市民街を挟んで反対側にある区画には飲食街がある。露天だったりちゃんとした店だったりが色々と立ち並んでいる。

露天の方は昨日も行ったな。

では食いに行こう。

最初はどの店にしようか脂っこい肉やソース物は昨日食ったし、今日はサンドイッチでも食うか。食のバランスを気にしているわけではなく、味のバランスを気にしているのだ。

せっかく異世界に来たんだからいろんな飯を食いたいしな。

パン1つ銅貨2枚か。3つ買おう……と思ったが銅貨は5枚しかないんだった。

2つでいいか。


「おう、パン2つくれよ。」

「はいよ。ちょっと待ってくれよ……ほらよ。」


パン屋のおっさんからサンドイッチを受け取る。

少し食ってから話しかける。


「なあ、おっさんや。最近この街に出る、怪しい黒い奴っての知ってる?」

「あん?……ああ、こそ泥とか呼ばれてる奴か。」

「そうそう、それそれ。そいつについてなにか知ってる事他にない?」


おっさんは少し考え、俺の格好を上から下まで眺めそして顔をじっくりと見つめると言い出した。


「あんたは貴族とかじゃ無さそうだし、それにあんまし悪い人間にも見えないから言おうか。」

「おう、なんだ嬉しい事言ってくれるじゃないの。」

「そのこそ泥なんだがな。狙うのは決まって汚え手段で金を集めてる奴ばっかりなんだ。」


見事にスルーされたな。まあいい。それよりもだ。


「汚い手段ってなんだ?」

「横領だとか脅迫だとかそんなんさ。人に迷惑かけて稼いだ金さ。」


ほう、義賊みたいなものなのかね。それならあんまり邪魔はしたくないんだけどな。

……ああ、だから依頼人が国の警備隊だとかじゃなくてただの貴族だったのか。

納得納得。


「うん、ありがとうな。それじゃおっさんも商売頑張れよ。」

「ああ、お前も気をつけろよ。その黒い奴は裕福でない市民からは結構感謝されたりしているからな。」


市民から感謝されるとはやっぱり俺の考える義賊みたいだな。

……腹ごしらえっていうかエネルギー補給が終わったし他の所見に行くか。

っと。


「すまんな。」

「…………。」


何だったんだ今のは?ぶつかってきたのに目を合わせもしなかった。

不思議な奴だ。

……ん!?財布代わりにしていた袋がない!?

もしかしてさっきのはスリか!

クソ!絶対に逃がしてたまるのものか。


「ほらっ!」

「っと。何だ?」


スリを捕まえようと後ろを向いた俺の眼前に布袋が差し出された。

これは俺の財布……。


「あんた無防備すぎだよ。そんなんじゃブラックルナを捕まえるのは無理だよ。諦めな。」

「ブラックルナ?それがあのこそ泥の名前か?」


財布を受け取ると小さな猫獣人族の娘が現れた。


「うん。それがそいつの名前だよ。」


ブラックルナか……もしかしたら夜に出てくるんだろうか、だとしたら凄い間違いをしてしまった気がする。


「そんなことより。飯おごってくれよ!」

「ん?なんで俺がそんなことを……。」

「ほらあんたに忠告してやっただろ!その授業料だよ。」


授業料ねえ。まあいいか。仕掛けはまだ鳴らないし。今ちょうど昼になった頃だ。夜に出るにしろ俺の予想通り昼過ぎに出るにしろこそ泥もまだ来ないだろうな。


「そうだな。じゃあ好きな所を選べ。だがあんまし高い所はダメだぞ。俺の生活費なくなっちゃうし。」

「やった!じゃあ、あそこ行こう。私美味しい場所知ってるんだ!」

「おい待ってくれよ。まず名前を教えてくれ。今から一緒に飯を食うのに名前を知らないなんておかしいじゃないか。」

「……私の名前はマロン。あんたの名前は?」


マロンか。かわいい名前だな。


「カギヒラノボルだ。君の名前はマロンっていうのか。君に似合う名前だ。」


何か照れているみたいだな。なんでだろうか。


「似合うなんて言われたのは初めてだ……。私は見ての通りガサツな性格だからさ。」


ああ、そういう事か……。俺が似合うって言ったのはその亜麻色の髪に結びつけたからなんだが。

そうか、俺は今この娘にかわいいって言った事になったのか。言葉には気をつけないとな。


「あー。うん、じゃあ飯食いに行こうか。」

「あ、うん。行こうか。」




「ここがマロンの言っていた場所か。」

「ああ、主人も気のいい人なんだ。」


マロンは俺を先導して店に入っていく。

それに続き俺も店に入る。カウンターと机が数個ある程度とそんなに大きな店じゃないようだ。人も少ない。

カウンターの向こうには厳ついおっさんが立っている。


「いらっしゃい。」

「レガードさん!いつもの2つな。私とこの人の分。」

「分かった。好きな所に座ってくれ。」


奥にある机に着く。マロンの対面に俺が座る。


「なあマロン。ここはどんな料理を出す店なんだ?」

「秘密だ。けど1つだけ言っておくとここの料理は凄く珍しい。」


珍しい料理ねえ。

その後もマロンと談笑していた。

「これは姉さんから貰った物なんだ。」

と腕に着けていた腕輪を見せてくれた。

銀色の細い腕輪で細部まで彫刻がしてある結構高そうなものだ。


「へえ、お姉さんねえ。どんな人なんだ?いい人なんだろう?」

「ああ!凄く優しいんだ。それに綺麗で魔法だって使えるんだ。この腕輪も姉さんが魔法で削って作った私だけの物なんだよ。」


ほう魔法ね。ぜひ会ってみたいものだ。学があるんだろう。この世界では魔法は自分の力だけで使えるものじゃない。と俺は感じた。

……俺は例外だ。自分で言うのは傲慢かもしれないが、結構な努力をしたんだからな。

一日ほぼ休みなく半年ぐらい魔法陣の解析だった。

これはどういう意味なのか。文節はこれでいいのか。文法的な意味は。そしてそれらをどうやって陣に書き換えるか。それらの法則を何時間も何日も掛けて1つずつ解き明かしていった。

最近は文の意味以外にも純粋に物や概念にさえ宿る純粋な魔力の力が魔法に関係することも分かってきた。

本当に不思議だな魔法っていう物は。


「待たせたな。唐揚げ定食だ。」

「あっ来た。ほら見たことない料理だろ?」

「……ああ、見たことがない料理だな。」


見たことがないの前にこの世界では、と付くが。

今はこの久しぶりの飯と味噌汁を堪能せねばならない。

飯が白米でなくパンなのはちょっと気になるが。



美味かった。パンと味噌汁が結構合うことが分かった。

でも気になることがある。

この料理誰から教えてもらったのか。

流石に自分で創作したとは思えないしな。


「なあ、おっさん。この料理自分で創作したのか?それとも誰から教えてもらったのか?」

「1年ぐらい前に若い奴らがやってきてな。男3人と女2人の5人組だ。

そいつらに頼まれて作ったんだよ。材料もあいつらから貰った物を東の方の国から取り寄せてる。」


確実にあいつらだろうな。なんだか楽しそうなことしてんなあ。羨ましいぞ。

少し休んで店を出るとマロンはこちらを向いた。


「じゃあ、カギヒラ私はこれから仕事だから失礼するぞ。」

「仕事か。俺もそろそろ仕事が始まるかもしれないな。じゃあお互い午後からも頑張ろう。」


マロンと別れたが何をするか悩むな。鈴が鳴るまで俺はやること無い訳だし。

……本屋にでも行こう。

金はあるんだしな。他の魔法について知りたいし。

本屋はこっから少し離れた場所に……有ったな。あれだ。

よし入ろう。魔法関係の物は奥か。


「1冊金貨3枚か。高いな……。」


円に換算すると約15万だ。庶民の手に渡るようなものじゃないな。

確かこの国の平均年収は金貨17枚。日本円にして約85万円。

魔法の本1冊で魔法を実際に使えるレベルで習得するのは無理だろうから最低でも3冊は必要だろうから魔法習得には約45万円近く必要ということだ。

この国の物価と比べると、到底買えるものじゃない。


「しかし種類も多いな、「基本的な魔法言語について」、「火炎の魔法の極意」、「魔法使いの心得」、「魔法使いへの道」、「生活に役立つ100の魔法」、「詠唱短縮の短期習得法」……結構面白そうな本もあるな。」


金が溜まったらまた来よう。他の本なら買えるかな。これとか良いかもしれない。

遥か昔の王の物語。値段も銀貨5枚と魔法の本に比べれば安い。

本を買って近くの喫茶店で読む。

・・

・・・

・・・・

うん、なかなか面白かった。

要約すると昔の王様が自分の国が栄えないのを自分の国民や大臣達が無能だからだと思った。それをなんとかするために王様は国に仕えていた大魔法使いに人の能力を目に見えるようにさせた。

大魔法使いは王様の命令通りに人の能力を筋力、体力、魔力、知力、知識量、器用、魅力、運、魂の量の9つに分けランクや数字で表し、異能を解析し言葉で表す魔法を創り、それを世界中に発動した。

王様は喜び能力の低い者を直ぐ様処刑するように命じた。

しかし王宮の中で一番能力が低いのは王様だった。王様は魅力以外が低かったのだ。

王様を恨むものも多く王様は処刑されてしまった。

しかし一部の王様の国を想う心に忠を尽くしていた騎士達が王様を助け出そうと反乱を起こした。その結果大魔法使いは死に発動されていた魔法は退化し人の魂の密度を表す機能以外が失われてしまった。

それが今のステータスである。

という物語だった。


王様を助けに騎士達が立ち上がる場面は素晴らしかった。

ちなみに王様は助けられた後再び王に返り咲き国を豊かにしたとさ。


チリリリリリリリ!!!!

おっと鈴が鳴った。

どうやら泥棒が罠にかかったらしい。ここでは魔法を使えないな。裏道に行くか。

スフィアを出して鳴っている結界とセットで置いておいたスフィアと繋げる。

さて、どんな奴かな。

大きな館の近くに設置していたスフィアから周りを見回すと、かなりのスピードで動く物体を捉えた。あれが泥棒か。

泥棒は窓から館へと入っていく。

しばらくすると違う窓から出てきた。

何とか顔を見ようと近くに行く。黒い外套を纏った泥棒は俺より小さいようだ。

気づかれないように近づいているから速度が出せない。早くしないと逃げてしまう。


「そこで何をしている!」


うおっ!後ろから警備隊員が。


「煙弾!」

「何だこれは……ゴホゴホッ。」


煙弾はどこかに着弾すると色の付いた煙が発生する弾を出す魔法だ。今回は白だった。

今の内に逃げよう。


「ん…?今のは……。」


スフィアを消す寸前映った泥棒の腕には銀の腕輪が付いていた。

今のは俺の見間違えでなければマロンの物だった。


「待て!」


今は逃げる事に徹しよう。マロンに話を聞くのは明日有ってからにしよう。

今日は帰って色々と調べ事がある。

本当にマロンが泥棒なのか。

だとしたら何故マロンが盗みをするのか、わざわざ他人に警告するような人が盗みなんてするんだろうか。


色々と探し方はあるが今日は魔法の実験も兼ねているんだし魔法で行こう。

本当は使っちゃいけないんだけどもう守らなくてもいいだろう。

ていうか俺そもそも魔物だから人の法を守る必要もないし。

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