魔法習得の日
さて、先日の戦闘で幾つかの魔法陣をコピーして、その解析はもう既に終わったのだが。
「魔法が全然発動しない……。というか、魔法陣さえ出てこない……」
魔法の発動の仕方が分からないのだ。
地面に魔法陣を書いてみても何も起こらないし、駄目元でスライムの液を垂らしてみたりもしてみたが何も起こる気配はない。
「一体何が悪いんだろうか。いきなり躓くなんてなぁ」
ちょっと魔法解析終えた思考も使って、考えてみるか。
付与魔法を使っていたカロン、攻撃魔法を使っていたアレットは詠唱をしていたが、同じ攻撃魔法を使っていたリッチは詠唱をしていなかった。
魔法の発動に必ずしも詠唱が必要というわけではないようだ。
Q.では魔法の発動に最低限他に必要な物とは?
A.1やっぱり魔力
2どんな魔法を放つかのイメージ
3気合
ふむ……。
一番目の答えはあり得るな、何かを起こすのにノーリスクで出来るわけがないだろう。そのリスクが魔力だとしたら納得も出来る。
二番目の答えもあり得なくはない。
前世にあった黒魔術とかそんなのもイメージが大切だとか、そういう事をどこかで聞いたような気がする。
三番目は……ないだろう。
精神的な物という意味ではあるかもしれなかった。
が、しかし。あのリッチにそんな高度な精神活動が出来ただろうか。いや出来ない。
なので、そういった精神活動が魔法に良い方向に影響することはなさそうだ。
イメージは魔法が発動するところをこの目で見たから問題ないだろう。俺、目ないけど。
問題は魔力だ。
魔力をどうやって手に入れるか……。
……うーん、駄目だ。中々良案が出ない。
そもそも俺に魔力が宿っているかどうかさえ、分からないんだ。
黄泉還りの効果で死霊魔法や蘇生魔法に適正があるらしいけど、魔力がないとしたら使いようがないな……。
「なぁここは、もう他の奴らが探索したんだろう?何でわざわざここに来させられるんだ?」
ん?声?
こっそりと岩の陰から見てみると、この間のブラック達のような武装した四人の集団が居た。
違うのは、メンバー全員男で持っている武器は杖、着ているのはローブって所か。全員が魔法使いなのか?
……そうだ!あの男達を観察していれば、前回分からなかった事についても分かるようになるんじゃないか?例えば魔力の事とか。
先頭を歩いている背の高い男が後尾の若い男の文句に対して、口を開いた。
「そりゃ、ゾンビとかスケルトンとかの血肉、骨は魔法の触媒になるからだろ。俺達下っ端はそういう雑用を仰せ付かるんだよ」
「だったら冒険者ギルドの奴らから買い取ればいい話だろう」
最初に文句を言った若い男が再び、文句を垂れる。
冒険者ギルドなんてあるのか。もしかしたら俺の他に生き残った奴らはそこに所属しているかもしれないな。
「冒険者ギルドの奴ら、俺達魔導結社を嫌っているからな。普通に取引したんじゃ、こっちが大損なんだよ。まあ、お前みたいな新人にはまだそこらへんは理解できないかもしれないけどな。」
今度は集団の真ん中二列の内右手の髭を生やした男が、答える。
若い男は納得したような、していないような微妙な顔をしながら曖昧な返事を返した。
さて……あいつらにどうにかして魔法を使わせたい。魔物が出てきてくれるとこっちとしては嬉しい。
「……敵の反応だ。向こう側からやってくるぞ。動きが遅い……ゾンビだな」
集団の真ん中二列の内左手のローブのフードで顔を隠している男が呟いた。
ずっと何も言わなかったがあのフードの男は探査役だったのか。
ということは、フードの男は既に魔法を使っていた?だとしたら魔力というものは俺には感知出来ない物だということになるな。
考えていると、フードの男の言った通り向こうからゾンビがゆっくりと現れた。
先頭に居た男は杖をゾンビへ向けると、ボソボソと小声で呪文を呟いた。
木でできた杖から魔法陣が、更にそこから黒い刃が飛び出てゾンビの首と体を断ち切った。
うーん、駄目だな。
魔法使っている所をじっくり見てみたが、やはり魔力なんて確認できなかった。
「よし、必要なのは脳と血だったな。持っていくぞ。新人、頼む」
「分かった。……魔物とはいえ人型の物を捌くのはいい気分じゃないな」
後ろに立っていた若い男が前に出て、ゾンビにナイフを突き立て始めた。
胸の辺りにナイフを突き当てた時、若い男は声を上げた。
「お、魔石が入ってたぞ!しかも結構大きめだ」
「よくやった!分け前は四等分でいいな?」
「いやいや、俺が見つけたんだ。四等分はないだろう」
男達は魔石とやらの配分について争い始めた。
それにしても、魔石か。
魔力の結晶だったり、魔力を貯め込んだり出来る物だったり、魔法の力を宿した物だったりするが……。
いずれにせよ、それを使えば魔力がどういった物か知ることができるんじゃないか?
そうと決まれば……。
「新人が欲張るんじゃねぇよ!……ぐわっ」
「どうした!……スケルトン!?あいつ魔石を奪っていきやがった!」
男達が後ろから魔法を放ち、捕まえようとしてくるがもう遅い。
急いで自分の拠点に戻り身を潜める。
……何度か声と足音が近くを通ったが、やりすごせたようだ。
「形はそこら辺の石と変わらないな、色は……表現しにくい色だな」
掌の中の魔石は半透明の黒水晶のようだった。
しかし、その黒さは人を引き込む魔性を感じさせる。
魔力なんていう神秘が宿っているからこんな色になるんだろうか。
何はともあれこれで魔法の研究の続きが出来る。
魔石を地面に書いた魔法陣の、魔力を注ぐ為の箇所にそっと置く。
「おおっ!」
魔石が黒く、光の混じった霧状の物を噴出したと思えば、それらが魔法陣へと降りかかっていく。
やがて魔法陣全体が薄く輝き、魔法陣からサッカーボール大の火炎球が飛び出した。
「よし!成功だ!これで魔法を使えるぞ!」
これから、どんな魔法陣でどんな魔法が使えるのか、魔法陣を構成する記号や文字の意味など様々な事について知ることができるようになる。
俺が魔法の知識を深める速度はこれまでとは比べ物にならなくなるだろう。
といっても、俺はまだ地面に書いた魔法陣に魔石を使わなければ魔法を発動出来ない。
俺の目標は、この迷宮から外に出て先に脱出した生徒達と合流することだ。
その途中には俺が死んだ時のように厳しい試練もあるだろう。
そんな時に魔法陣を広げて、魔石をセットして、なんてやっていたらまたあの時の二の舞になりかねない。
いつでも、どこでも、魔力を使えるような手段を考える事が今後の課題になるだろう。