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黄泉がえり

引きずっていく、皮膚の煤け落ちたそれを。

掘った穴に落とす。落ちた死体は積み重なった山の嵩を増やした。

これで最後だ。

俺が起きた時落ちていた死体の数は35体。

なかったのは鈴木、金田、有栖、木小鷺、そして女子の御手洗。

襲ってきたゾンビ達は4体だったから数はあっている。

多分あの5人は鈴木の転移でどうにか逃げたんだろう。うまくここから脱出できているといいが。

そんな思考を並列思考で処理しながら、土を被せていく。本当は燃やしたほうが良いんだろうがないものだから仕方がない。

何故こんなことをしているのかというと、答えは簡単だ。

死んだ者は生き返り他者を襲うゾンビになって蘇るからだ。

俺が目を覚ました時徘徊している元クラスメイトを見た。そいつは思考を持っていないようでふらふらと歩き回りながら他の奴らの肉を貪っていた。

思わずそいつに後ろから飛び掛かって馬乗りになった。そして何度も殴り気付いた時には相手は動かなくなっていた。

その後も蘇った他のクラスメイト達に二度目の死を与える羽目になった。

放っておいたらまた蘇るかもしれないのでこうやって埋めているのだ。

さてこれからどうするか。あの五人を追いかけようかとも思ったけどこの体じゃ無理だよな。

この骨の体じゃ……。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

マンスケルトンlv5


能力:並列思考LV3

称号:黄泉還り


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

黄泉還り

一度死んだ者が魂と共に現世へと戻ってきた証

死へと向かう道を知ることが出来る(死霊魔法・蘇生魔法の適正)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


起きた時自分の体を見て驚いた。体の肉が全てそげ落ちていたのだ。

いや、削げ落ちるというよりゾンビに骨以外を全て喰われたのか。

それで驚いた俺は自分の状況を確認するためステータスを見た。その結果スケルトンになっていた。どうやら俺は黄泉還ったらしい。

他の奴らはゾンビとなって復活したのに、理性や知性を感じさせる行動がなかったから、俺と違って魂まで復活したわけじゃなさそうだ。

けどそうしたらなんで俺だけ黄泉還れたのか少し不思議になるが、それは異世界特有の原理が働いたんだろう。

手がかりのない今考えていても時間を無駄にしてしまうだけだし。

レベルの方は他のゾンビやらを倒したお陰でレベルが5まで上がっている。 

体が軽くなった気もする。でもそんなことはいいんだ。


ともかく。


今俺にはやるべきことはないのだ。

この体じゃ人と交流を持つことも出来ないし、というか人がいるかどうかさえもわからない。

一応この体だと他の魔物には襲われないってことは、先のゾンビとの交戦で分かっている。

だからひとまずはこの洞窟で衣食住の内の住を作ろうと思う。

考え事をするには落ち着いた環境が必要だし、称号に出てきた魔法とやらについても調べてみたい。

そして何より魔物が徘徊するここでは、これから先過ごすには視覚的にキツイものがある。臭いの方は……この体になってから感じなくなった。

そうと決まればまずは何処か丁度よさそうな場所を見つけよう。

目指すは安住の地。衣食住のそろった生活。



~ここからはダイジェストでお送りします~


お!こことか良いな。地面とか平らだし、そのまま椅子に出来そうな岩もある。



机はこの大きさでいいか。後は角を削って平らにするだけだけど。どんぐらい掛かるんだろうこれ……。



あのスケルトンの剣欲しいなぁ。剣の扱いは一応知ってるし……。よし!強奪だ!



この岩に穴を作って扉に……硬え!



地面が堅い……そうだ削って板をはめ込もう!木はあそこの大木を使えばいいか。




~そして5ヶ月の月日が経った~


『何で洞窟の中で時間なんて分かるのか?』だって?

並列思考の1つを時間のカウントに当てていたからだ。

そのお陰で並列思考のレベルも6になったよ。

でもそんなことよりこの素晴らしい我が住処を紹介しよう。

最初の広場にある道を進んだ先にある分かれ道を右に曲がった所にある洞穴。

そこに一枚岩で出来た扉をはめ込み玄関を作る。

奥には3週間使って削り上げた大きな作業台。そして椅子。

天井には洞窟の中で取れた発光性のある石をこの洞窟の奥にあった大木の枝と組み合わせ作ったランタンのような物。

同じく洞窟の奥にあった草で作ったベッド。

そして一番時間を掛けたのがこの空間を囲む岩壁。

ゴツゴツしていて住み心地が悪かったので一旦全て角を削り上げ、そしてその上から木板を取り付けた。もちろん床も同じ舗装をしてある。

岩壁を削るのも時間が掛かったが、木板の加工や貼り付けるための特殊な素材の確保も大変だった。スライムの粘液に草や砂を混ぜ込み強い粘着性と硬化性を持つ液体を作るのは長い研究を必要とした。5ヵ月の半分ぐらいはこれの制作をしていたと思う。

さて、俺の住処の紹介も終わったし暇になったな。

よし、lv上げにでも行こう。

この5ヶ月はずっと住処作りで、倒したのは剣持っていたスケルトン(仮名ソードマンスケルトン)ぐらいだからlv5のままだし。


剣を持って家を出る。他の持ち物は即効性の粘着剤だけ。何の役に立つかわからないけど他に持っていく物もないからな。

向かう先は下の階層だ。

俺の技術ではゾンビの体は切れてもスケルトンの骨は切れない。スライムやゴーストはそもそも物理攻撃が効かない。しかしスライムは核を潰すことで躰を保てなくなりただの粘液となる。

何が言いたいかというと俺がこの洞窟の中でlv上げの主な材料とするのはゾンビとスライムぐらいだということだ。

奴らはあの広場以外はどこにでも湧いて出てくるので、一度倒したのをもう一度発生するまで待っていればほぼ動かずにlv上げが出来る。多分。

でも今の俺の目的はlv上以外にもこの洞窟がどんな場所なのかという事を知るというものもある。

今回は切った敵が再発生する前にどんどん先に進んでいっていた。


「なんだこのスケルトン。同じ魔物同士で戦ってるぞ」


そうすればゾンビの死骸やスライムの粘液で俺の通った道には跡が出来るのは当然だった。


「怪しいスケルトンだな。希少種かもしれん。慎重にいけよ」


そしてその跡を辿ってきていたのだろう。少年二人少女二人で構成された四人組が俺の後ろに立っていた。


「ここまでの道のりにあった魔物の死骸もあのスケルトンの仕業でしょうか……」


4人組はこちらにそれぞれが持つ得物、剣や槍、杖といった物を向け戦う意思があるようだ。


「そうでしょうね。この道まで他の冒険者には合わなかったし」


だが今の俺が、若いが戦闘に慣れてそうな4人組と戦って勝てるとは思わない。

ここは逃げるしかないな。

右手に持っていたゾンビの死骸を投げつけて駆け出す。


「あ!逃げるぞ!」

「どうする?追おうか?」

「そうしましょ。あんまり強くなさそうだし私達でも倒せるわ」

「では、魔法で足を止めましょう。『ファイアーボール』」


ぐわっち。足が焦げた。しかも衝撃で倒れてしまった。


「よし!ケイン!突っ込むぞ。カロン!魔法で付与頼む。アレット!トドメ用に魔法の準備を。」

「「「了解」」」


うわ、やばいこのままじゃ倒される。

……そうだあの粘液で足止しよう。

倒れた体制のまま肋骨の間に挟んでいた樹の皮袋から粘液を投げる。


「うわ、何だこれ!?ベトベトしてるぞ」

「しかも手がくっついて動けない!」


前衛の男二人は足止め出来た。後衛の女達は引っかかった男を助けるのに手間取っている。

今の内に逃げよう!



後ろを見る。誰もいない。耳を澄ましても俺の骨が擦れ合い軋む音しか聞こえない。

良かった。無事逃げ切れたようだ。でもがむしゃらに逃げたせいでここが何処か分からなくなったぞ。あの住処に戻る道を忘れてしまった。

……とりあえず進んでみるか。結構走ったから洞窟の奥ももうすぐだろうし。


ここはどこだろう。天井まで10m程、直径18m、壁は黒い。見たところ出口は俺の入って来た所しかない。そして今までとは違う重厚な雰囲気。もしかしてここが最奥部だろうか。

あの場所から歩いて休憩もいれて3時間程、思ったより奥は深かったようだ。

それにしても最奥部だから何かないんだろうか。宝箱とかボスとか。


「…………すぐ、最奥部じゃないか?」


うん?何か声が聞こえてくるな……。俺の来た方向からだな。


「そうね、そこにいるこの迷宮の守護者を倒せば依頼は完了よね?」

「いや、今回は討伐じゃなくて調査だから倒す必要はないだろう」

「でも倒せるなら倒したほうが良いですよね」

「俺はあんまり乗り気じゃないなぁ。金にならないし」

「そういうなよケイン」


この声はあの時の少年たちかな。どうやらここに向かっているみたいだけど、ここには誰も居ないぞ?

……いや俺がいるのか。見つけられたら俺が守護者とやらと勘違いされそうだ。隠れとこう。

慌てて岩の影に身を隠すと彼等の足音が大きくなってきた。

それと同時にこの広場の中央に王冠を被り右手に金色の棒に骸骨を付けた杖を持った黒いスケルトンが現れた。


「あれは……もしかしてリッチか!?

こんな中級迷宮にいるような魔物じゃないはず……」

「皆撤退するぞ!俺達じゃ被害出さずに勝つのは無理だ!」

「瞬脚の付与をしたわ!皆走って!」

「皆さん駄目です。もうリッチはこの広場に結界を張ったようです!それも高位の結界を!」


結界?ああ、あの入り口にある透明の青い壁みたいなのか。


「な……!じゃあ戦うしかないのかよ」

「しょうがない、ケイン!あいつに魔法を使わせないように攻撃を畳みかけるぞ。カロン!いつものと俺達の支援、そしてアレットの護衛を。アレットは特大の攻撃魔法を」


三人はそれぞれ返事をすると、戦闘態勢に入った。

見たところあの黒髪黒目の少年が司令塔なんだろうな。俺との時も指示出していたし。

ケインという少年は槍で、黒髪の少年は剣でリッチに斬りかかる。

カロンという少女が何か呟くと魔法陣が持っていた細い剣の切っ先に現れ少年達の元へと2つに別れ飛んでいった。

少年たちの体に当たると溶け込むように消え、目に見えて少年たちの行動が早くなった。

あれが付与という奴か。


彼女達の魔法を学びたいし、俺の新能力をここらでお見せしよう。

その名も『分割思考』。並列思考のlvが5になった時に派生として出てきた能力だ。

その力は並列思考の力で増えた思考を、一つの仕事に集中させる能力だ。

集中させてしまったらその間は他のことには使えないけどな。

今は空間把握能力に一つ、時間のカウントに一つ、情報の処理に一つ、見たもの聞いたものに対する記憶のための反芻に二つ、そして今こうやって色んな事を考えるのに一つ割り振っている。

つまり俺は記憶のため思考を二つ使うことで、通常の二倍以上の記憶能力を持っているのだ。

ただ、これだけだと今見た魔法の記憶はできても解析が出来ないので、時間のカウントに使っていた思考を解析に回しとこう。まずは魔法陣の分解、意味の把握からだ。


さて、戦闘観戦に戻るか。

リッチは突っ込んできたケインと剣を持った少年……髪も瞳も服も黒だからブラックと呼ぼうか。

ケインに対しては手に持っていた杖で、素早い突きを受け流し、ブラックに対しては突き出した右手から障壁を出し袈裟切りを防いだ。

しかしリッチはブラックに気を向けすぎて、ケインの払いをくらい吹き飛ばされた。あまり近接戦闘は得意ではないようだ。

だがしかし、距離を取ったことはリッチにとってうまく働いたようで、距離を詰めようとする彼等に対して杖から火の球や氷の球水の球、果ては雷の球と様々な魔法で牽制をしている。

今度はリッチが戦場の手綱を握ったようで、彼等を全く近づけず後衛に回っている少女達まで狙い始めた。

彼等は何とか防ごうとしているようだが如何せん密度が高い。躱せずに何度か球に当っては苦しんでいる。

ブラックがケインの方へと駆けながら口を開いた。


「ケイン!俺が魔法剣で遠距離攻撃をするから少しだけ俺を守っていてくれ」

「分かった。俺の後ろに立ってろ!」


む。魔法剣とな?どういうことだろうか。魔法とは違うのだろうか。

少しブラックを注視していると彼の持っている剣が光を帯び始めた。

なんだあれ。すごいカッコいい。

そうやってケインがブラックを守っているとブラックの持っている剣の光が点滅し始めた。


「ケイン。ありがとう。もう完成だ。離れていてくれ」


ブラックがそう言うとケインは迫っていた雷球を弾き、後退した。


「喰らえ!魔法剣・バーミリオン・ブレイド・キャノン!!」


振り下ろした剣から刃の形をした炎が飛んで行く。

わざわざ名前を叫ぶのか。恥ずかしくないんだろうか。

しかし中々強い技だったようでリッチの魔法弾幕を全て打消しリッチを飲み込んだ。

リッチもこれには堪えたようでリッチから放たれていた弾幕が一度止まる。

その間にケインが走り、リッチに向かって槍を一直線に突き出す。

しかし。


「障壁!?それに5つも重ねてやがる!」


先程の攻撃は、今まで本気を出していなかったリッチに全力を出させる事となってしまったようだ。

更にリッチの周囲にはゾンビやスケルトンといった魔物が続々と出現し始めた。


「魔法の準備出来ました!どっちを狙えばいいですか!?」

「リッチだ!あいつをどうにかしないとゾンビ達は増え続ける!」


アレットの特大の攻撃魔法の準備が出来たようだ。

アレットが持っていた杖を掲げると大きな魔法陣がアレットの頭上に飛び出る。


「ブロウオブスターライトレイ!!」


お前も技の名前言うのかよ。

アレットの頭上に展開された魔法陣は輝き、太い光線を放射している。

光線はリッチの前面へと突き刺さり、リッチの展開していた障壁を壊していく。

だが最後の一枚を破るには、後一手足りなかったようだ。リッチは壊された障壁を修復すると共に何やら魔法陣を構築していく。

何だかリッチの方も強い魔法を放つみたいだ。技術的な面のことはさっぱり分からないが、同じ骨同士大体の雰囲気は分かる。


「私を忘れてるんじゃないわよ!」


アレットに続きカロンが魔法陣を作り、そこから雷の矢を連続で射出しリッチへ加えていく。


「うらああ!」


更にケインが手に持っていた槍を振り被り、投げる。驚くべき速度で飛んで行くそれは群がっているアンデット達を軒並み貫き、リッチの障壁へとぶつかる。

ケインの槍はまるでドリルのように障壁を削り取っていく。


「もう一度!喰らえ!魔法剣・破魔天聖斬!!」


先は英語だったのに今度は漢字かよ。まあここは異世界だから、もしかしたら意訳されてるだけで俺の知っている言語じゃないのかもしれないけど。

振り下ろした剣から白い光が剣の形で飛んでいき障壁に当たる。

これが最後の一押しとなったようでリッチの障壁は完全に壊され、多分俺達アンデットにはキツイのであろう破魔の光に当たり苦しそうに呻いている。

だがリッチもまだ勝ちを諦めていないようで、先程から作成していた魔法陣を完成させ少年達へ発動する。

おどろおどろしい黒い気体が魔法陣から出たと思ったら、空中で急なカーブを描き彼等へと突撃していく。

彼等が各々その気体を受け止めたその瞬間、爆音が響いた。

どうやらリッチは爆弾のようなものを飛ばしたようだ。

煙が引いていくとそこには少年達が無残に倒れている姿があった。


「う、うう……」


倒れ伏した彼等にリッチが杖を上げ魔法を使おうとする。

俺はその状況を傍観しながら考える。

……もしかしてこれはチャンスなんじゃないか?

今ならリッチを倒しても彼等に狙われる事はないだろうし、もしかしたら友好的だと思ってくれるかもしれない、それにリッチを倒せれば俺のレベルは結構な上がりを見せるんじゃないだろうか。

まさしく漁夫の利、一石二鳥。

そうと決まれば実行に移そう。思い立ったが吉日だ。

剣を持ち岩に隠れながらリッチの後ろに回り込む。

奴はまだ俺に気づいていないようだ。

勢いよく飛び掛かって、剣を上から下へと振り下ろす。そのまま砕くように下に押し込む。

リッチの頭蓋へと剣が叩きこまれ、大きな音が響いた。

奇襲は成功し、リッチは崩れ落ちる。だがまだ終わっていない。

俺の攻撃だと力が弱かったようで、リッチは立ち上がろうと手を地面につけた。

俺はリッチの体の上に立ち、何度も頭部を剣で叩く。



気づけば俺の剣は先程から何もない地面を抉っていた。

夢中で叩いていたのでリッチの頭部が砕けていることに気付いていなかったようだ。

でもこれで俺のレベルも上がっただろう。

早速見てみるか。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

マンスケルトンlv12


能力:並列思考LV7

lv5能力:思考分割化

称号:黄泉還り 上位種殺し


上位種殺し

自分の上位互換である種を殺した証

レベルアップの効率が良くなる(レベルアップ時上昇する力量が増える)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


おお、結構上がったな。前が確か5だったから7も上がったのか。

能力の方も6から7に変わっているな。増えた分は魔法解析用に回しておこう。これで解析用の思考は2つだ。

魔法の解析も捗るだろうな。使えるようになるのが楽しみだ。

それじゃ、ここからも早く逃げるか。少年達と顔を合わせても今の俺に発生器官はないから声は届かないだろうし。






「……で、そのスケルトンは君達を助けてそのまま立ち去ったというのかね?」


目の前の高そうなソファに座る老人が俺達の話を聞いて口を開く。

彼はこの大陸全ての冒険者ギルドを統括するグランドギルドマスター。名前をクライン・ゼロシュレーと言う。


「はい。そのスケルトンは見た目はただのスケルトンと変わりませんが、明らかに技術化された剣技と不思議な物を持っていました。」


そう言って腰に付けていた布の小袋ビンを出す。


「これは?」

「これはそのスケルトンが持っていた不思議な道具です。彼は木で出来た袋からそれを私達に投げつけてきました」


マスターはビンを手に取ると中身を良く見始め、触ってもよいか俺に聞くと蓋を取り中身を取り出した。


「それは最初はネバネバとした粘液ですが、時間が経つにつれ段々と固まり物と物をくっつける様になりました」

「……ふむ。これはスライムリキッドという物だな」


マスターは目を細め中身をジロジロと見回し呟いた。


「スライムリキッドとは?」

「この大陸から離れた場所にあるものだ。俺も一介の冒険者だった時一度だけ行ったことがある。そこで一度だけ見たのだ」


マスターは世界を周り伝説の冒険者Sランクまで登り詰めた事がある。何か知っているのではないかと見せてみたがどうやら正解だったようだ


「どうやら本当に特別な個体が現れたようだな。報告感謝する」


ギルドマスターは袋を取り出し中から金貨を幾つか取り出した。


「これは報告に対する報酬だ。最初の目的の迷宮のボス調査の報酬は受付でもう既に渡していたな」

「はい。依頼の方の報酬は受け取りました」


ギルドマスターが机の上に置いた金貨を財布代わりの新しい布袋に入れた。

後でパーティーの皆と分けよう。


「さて、私はこれから特別個体のスケルトンについて他のギルド職員達と話し合う必要がある。他に何か報告することはないか?」

「……いえ、ありません。私はパーティーの仲間達に会ってきます」

「うむ。分かっているとは思うが、スケルトンの事については、他言無用だ」


言われなくても誰でも、よっぽどの考えなしじゃなければそうするだろう。

こういう情報は金になる。

そして軽々しく誰かに言いふらしたりする奴は、俺のパーティーにはいないはずだ。


「承知しています。では失礼しました」


部屋から出て仲間達の待つ酒場へと向かう。

皆は……居た、もう既に飲んでいるようだ。

歩きながらあの時の事を思い出す。


本当は、あのリッチの居た広場の奥には宝箱があった。

他のメンバーが気絶していたので、俺だけで宝箱の中身を確かめてみた。

宝箱を開くと、中から白い光が飛び出て俺の体に吸い込まれていった。

その時は何もなかったから俺の見間違いで済ませていたが、後でステータスを見てみると称号に勇者が追加されていた。

勇者……今この世にその称号を持っているとされている人間は、二人しかいない。

一人は先程のギルドマスター。もう一人は最近頭角を現し始めている冒険者、たしか名前は……キサギだったか。

まあ、ステータスは人に見せることはできない。

いずれも自称だったり噂だったりだ。

まだCランクの俺が勇者だと名乗っても、信用されずにバカにされて終わるだろう。

そもそも俺だけであのリッチを倒したわけじゃないからな。

……だったら、称号を得るべきだったのは?

俺?ケイン?カロン?アレット?それとも……。


もうこの事について考えるのはやめよう。勇者は人類がなるべき存在だ。

魔物が勇者になるなんてあってはいけないはずだから。



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