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転移と地獄

「くっせ!超くっせ!」


甘い、生ものが腐ったような臭いがして俺は飛び起きた。

周りを見ると俺の他にも大勢の人間が倒れている。

約38人。俺のクラスメイトと歴史の先生だ。

鼻を摘みながら周りを見るとどうやらここは大きな洞穴か何かのようだ。

前に行った石見銀山坑道跡の3倍位の大きさがある。

周りを見まわっていると他の奴らが起き出してきた。

案の定パニックに陥り騒がしい。


「ここはどこだよ?」

「そんなの知るかよ!」

「つーか、ここ臭くね?」


など好き勝手に叫んでいる。


「はい!静かに!」


低い声が響く。先生が声を上げて生徒を並べていく。

どうやら人数を確認するつもりのようだ。

皆も渋々といった感じだが他に確認できることもないので並び始めた。

全員いるのを確認したところで今ここが何処か分からなければ何もしようがないと思うけどな。

案の定全員がいるのを確認しただけに終わり、その後何をするかは決まらなかったようだ。

まあ新任の先生だししょうがないか。


「とりあえずここがどういう場所なのか確認しないか?」

「小鷺。確認ってどうやって?」

「4、5人で纏まってグループ作ってこの周りを少し見に行って帰ってきて途中で見た物とかの情報を纏めてみたら何かわかると思うんだ」


クラスの中心の小鷺の提案に皆が賛成し、ひとまずグループを作ることになった。

まあそうなれば仲の良い人で集まるのが当然で。

俺は鈴木と金田の3人でグループを組むことになった。

他のグループより少ないが、人数上あまりが出るのは分かっていた。

そして女子は危険だからという理由で、一部の男子より強い奴らを除きここに残って男子の持ち寄った情報やらを整理することになった。

そして男子は俺達が倒れていた広場から、広がるように伸びている5本の道をそれぞれグループで探索を始めた。

そうして皆と別れて広場から離れると鈴木が声をかけてきた。


「ねえ、もう二人共気付いているかもしれないけどさ、教室での突然の光といいこの非日常感溢れる洞窟といいこれってもしかして……」

「ああ、間違いないな」

「二人共何言ってんだ?俺達に何が起こってるのか知ってるのか?」


鈴木は分かっていないようだ。鈴木はもうわかっているみたいだけど。


「異世界転移……だろ?」

「ああ、やっぱり。分かってたか。」

「だから二人共何言ってんだ?」


金田はここまで言われてもまだ分かっていないようだ。

とりあえずこの状況のことについて話す。


「金田はそういうの読まないのか?ラノベとかネット小説とか」

「ああ、俺が読むのってジャン○とかだから……」

「ジャン○か。俺は逆に少年誌とかはあんまり読まないな。ああ、でもお前もサ○デー読んでたよな」

「ああ読んでる読んでる。そういえば今週のコ○ンだけど……」

「二人共。今はそういうことを話している場合じゃないよ」


俺と金田が漫画談義に花を咲かそうとしていると鈴木が割り込んできた。


「すまんすまん。本題に戻ろうか……。で、お前たちが言うにはここは異世界でこの世界では魔法があったり俺達には何か不思議な力が宿っているかもしれないっていうのか?

ちょっと正気とは思えないぜ」

「失礼なやつだな」


見せたほうが分かりやすいだろうと唱えてみる。脳内で……出なかったら恥ずかしいし。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

人間lv1


能力:並列思考lv1

称号:無し

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


思ったより情報が出なかったがやはりステータス自体は出たな。


「ほら見てみろよ。出たじゃないか」

「何言ってんだ?何も見えないぞ?」

「お前こそ何言ってんだ!鈴木。見えるだろ?」

「……ごめん。僕も見えないや」


なんだと……。どうしようか。このままじゃ俺は頭おかしくなったと思われるぞ……。


「俺達もやってみるか。なあそれどうやって出したんだ?」

「……頭の中でステータスって唱えた」


哀れな俺を見て同情したのだろうか、それとも興味が湧いたのか金田が聞いてきた。


「ふ~んステータスねえ。……うおっなんか出てきた!」

「僕も出たよ!これがステータスか。思ったより情報が少ないね」


どうやら金田達も出せたようだ。良かった。俺が頭のおかしい人間だと思われるのは避けられたようだ。


「で?お前らは何が書いてあるんだ?俺は人間lv1と能力に並列思考ぐらいだったけど」

「人間lv1と……能力に剣技だな」

「僕も同じで能力は転移だね。一度行った場所なら人でも物でも好きに送れて、lvが上がると転移できる範囲とか速さとかが上がるみたいだ」

「やけに詳しく説明するな。どうやってそんな詳しく知ったんだ?」

「ステータスの一部に、特に詳しく見たいとか思いながら注視すると詳しい説明が出てくるんだよ」


鈴木の言ったことをしてみると説明が出てきた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

並列思考lv1

lvの数だけ思考を追加する。思考に他の仕事を振り分けられる。幾つかの思考を束ねて1つの仕事を早く終わらせることも出来る。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


便利と言ったら便利なんだろうがイマイチだなぁ……


「金田。どんな説明が出てきた?俺のはlvの数だけ思考が増えるんだと」

「俺のはlvが上がるごとに身体能力に補正ついたり、剣の腕が上がったり後は技を覚えられるんだってよ。漫画みたいな技も出せんのかな!」


欲を言えば金田の剣技みたいに分かりやすいのが良かったな。

剣技使ってみたかったなぁ。

そのまま歩いていたが行き止まりだった。


「ここは行き止まりみたいだね。戻って報告しにいこう。ステータスのことも含めて」

「そうだな。多分もう他の奴らは戻ってる。俺達ステータス確認の為に少し止まってたから」


来た道を戻って広場まで来ると既に3グループ戻っていた。


「おー、金田達も戻ってきたか。じゃあ後は益田達だけだな」


クラス委員の柏木が声をかけてきた。

益田は嫌なやつだ。勝手に自分の中でクラス階級作って差別するからな。

そのせいで空気悪くして、皆から嫌われているのに全然気づいてないみたいだし。

まあそれは置いといてだ。俺達が見つけたことを早速報告しようか。

こういうのは後に言おうとすると他のやつに取られて、お前たち報告ないのかよみたいに思われるからな。

皆にステータスのことを報告すると早速試し始めたみたいだ。

各々自分の能力を口に出しながら「俺強いな」とか「もっと使えるのが良かった」だとか感想を述べている。

中でも気になったのが小鷺の能力だ。流石とでも言うべきか、超人だとか言われてた小鷺の能力は『万能武技』というもので、剣、拳、槍、弓、斧などの技系の能力を全て使えるのだとか。

逆に俺と同じように地味な能力の奴もいるようで、クラスでもそんなに目立たない後藤は『加速』という足がちょっと早くなる程度の能力だった。


「それにしても益田達遅いな、もう出発してから1時間経っているぞ……」


金田が呟いた時、大きな悲鳴が響いた。悲鳴は段々とこちらに近づいているようだ。

悲鳴につられて振り向くと、道の奥から男子が一人走ってきていた。


「あっ、相葉。お前益田と一緒に行ったはずじゃ……益田はどうした!?」

「はあっはあ、逃げろ!!化け物だあああ!」


相葉は広場を通り抜けて、俺達の行った道へと走りこんでいった。


「おい!待てよ!どこに行くんだ。何があったんだ!?」


先生や小鷺が相葉を追いかけると、他の奴らもそれに続いて行った。

まずいなあの道は行き止まりだった。相葉が何かに追われているとすると追っている奴があの道に入ったら追い詰められる。


「おい、何やってんだ俺達も行くぞ!」

「先に行ってくれ」


金田に肩を掴まれる。が、それを払う。


「なんでだよ!なんかヤバそうだぞ。」

「あいつらが逃げたのは行き止まりだ。あそこに追手が入ったら追いつめられる」

「……分かったよ。そういうことなら俺も残ろう。俺の能力だったらお前一人よりも生き残れる可能性は高い」

「僕も残るよ。そうすればすぐに逃げられるだろうし」

「二人共助かる」


残るのは俺と鈴木と金田か。戦闘技術は金田しか持っていないし、意外に肝が座っている相葉が悲鳴上げて逃げるんだ。

気を引き締めよう。


相葉の逃げてきた方を見つめながら待っていると、ひたひたと足音を立てて奴は来た。

それは人の形をしていた。だがそれはこの洞窟の臭いに慣れてきた鼻を麻痺させるような強烈な腐臭を放っていた。そしてその肉は腐り落ち、目玉など半分落ちかけている。

つまりそれは、ゾンビだった。


「うえっ……おぉぉ」


右隣にいた鈴木はゾンビの臭いか姿か、その両方に耐え切れなかったのか吐いてしまっている。


「あれは、ゾンビ?流石にあれを殴るのは気分悪いぞ……。」


金田も戦意を削がれたようだ。戦闘系の能力持っているのは金田だけだし、あいつの力量も分からない今、戦うのは避けた方がいいだろう。


「……金田!鈴木!逃げるぞ!」


幸い奴の足は遅い。

ここは逃げ道が幾つかある。俺達が背にしているクラスメイト達が逃げた道に逃げなければ大丈夫だ。

鈴木を立ち上がらせて走らせる。先を行く金田の背を追いかけて俺も走る。


「くそっここも行き止まりかよ」


1分も走っていなかっただろう。金田が急に止まる。

俺の運はなかったらしい。だがまだ大丈夫だ。


「鈴木、転移出来るか?」

「うん、どこに転移する?」

「さっきの広場だ。あそこに行けば巻くことはできるから、それから他の奴らのところまで行こう」


鈴木が手を上げると場が光りに包まれる。光が収まるとそこはもう広場だった。

三人共無事に転移できたみたいだ。


「今のはヤバかったな。さて、皆のところに行こうか」

「おう。相葉に事情聞かなきゃいけないからな。益田とかどうなったのか気になるし。

って鈴木どうした?」


鈴木が少しふらついている。


「なんか……転移すると体力の消耗が激しいみたいだ」

「そうか、あんまり連発すると何が起こるかわからないし、頼りすぎないようにしよう」


鈴木の体力が戻るまで少し休憩してから皆の逃げた道へ行った。

奥に着くと木小鷺達が相葉を問い詰めていた。


「金田達!どこ行ってたんだ!?」


小鷺は俺達に気づくと、今度はこちらを向いた。

金田が説明するため口を開く。


「俺達はこの先が行き止まりだって知ってたからな。追手が来たら追いつめられると思ったから他の道に追手を撒いてきた」

「ここは金田達が進んだ道だったか……ありがとう。助かったよ」

「相葉。あれは何なんだ?それにお前一人で帰ってきたが他の奴らはどうした」


俺は相葉に声をかける。相葉はこちらを少し睨んだが、周りの奴らの目が集まっているのに気づくと目線を下に降ろし口を開き始めた。


「俺と益田と浜田であの道を歩いていたんだ……。そしたら奥から誰かが歩いてきて……俺達を助けに来た人かもしれないって益田が言うから走ってその人の所まで行ったんだ」


浜田とは益田と相葉と仲の良い奴だ。声の異常にデカいやつだった。こいつら三人は卑怯の相葉、陰湿の益田、傲慢の浜田と俺の中で三人衆を作っていた。


「俺と浜田は危ない奴かもしれないって益田を止めたんだ。けどあいつ俺達の言うこと聞かなくて……俺達は止まって益田が走っていくの見てたんだけど、前から歩いてきた奴がいきなり益田に襲いかかってきたんだ!いきなりのことだったから見てることしか出来なかったんだけど、俺見たんだ。その益田を襲った奴は益田を食い始めたんだ。遂に益田を食い終えて俺達の方へ向かってきて逃げようと思ってさっきの広場まで走って逃げたんだ。気付いたら浜田は居なかった……」


話におかしい所はない。こいつはそれ以上は何も知らないみたいだ。

一つ分かることは、浜田はきっと死んだんだろう。俺達が転移で広場に戻った時、広場に来なかったってことはそういうことなんだろう。

辺りに重苦しい雰囲気が流れる。人が一人……いや多分二人死んだんだ。当たり前だろう。


そしてこういう追い詰められた状況になれば、ヒステリックになる奴は確実に出てくる。


「……フザケンナ!俺達がなんでこんな目に合わなきゃいけないんだよ!」

「おい、落ち着けよ山口!叫んだってどうにもならないんだ」

「……そうよ!なんで私達がこんな目に!」

「そうだ!ふざけるな!」


一度爆発が起きると他の人間にも連鎖して増えていく。逆にそれでも冷静な奴は熱くなってるやつを見て冷えていく。今の俺のように。

冷めた頭で考える。一つ誤算だった。クラスの奴らに能力があることを素直に教えたことは間違いだったらしい。


「……いい加減にしろぉぉぉぉ!!」

「なっ!うわあ!!」


クラスメイトの内、キレた奴が暴れ始めたのだ。

山口は持っていた『造炎』の能力で周りを焼き尽くし始めた。

そいつを止めようと他の奴らも能力を使い始める。

しかし1時間程前にはなかった力を、しかも混乱状態で操るのはあまりにも危険だった。


「やめろよ!」

「痛え!テメエ何するんだ!」

「す、すまん手元が狂って……」


飛ばした氷が暴れていない奴に当たり、当たった奴切れ始めた。

そんな騒動が広がり、さらに運の悪いことにこの騒ぎでゾンビやらスケルトン等の化け物まで集まってきた。

辺りはまるで蜂の巣をつついたような騒ぎだ。


「鈴木!金田!転移で逃げるぞ!」

「ああわかった!今そこに行くから動かないでくれ!」


相葉の話を聞くために遠くに行っていたので、鈴木と金田を集める。

だが、それは叶わなかった。


「ッ!後ろ!!」


鈴木が俺の後ろに目移し叫ぶ。

とっさに後ろを見るとそこには手を振り上げた、男の姿が。

今まで感じたことのない衝撃が頭を貫いた。


「ガッ……」


確かさっきの男は黒井。『鉄鋼化』という体を鉄に変える能力の持ち主だった。

それだけを頭に思い浮かべると俺の意識は落ちていった。



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