閑話:羽根の木の実り(樹の珍しくも?)
それは、まさに神秘的な光景だった。
今でも、目を瞑れば瞼の裏にまざまざとその光景が浮かび上がる。そう言える程にその光景は衝撃的だった。
年々、村の作物の収穫量が減る。これはもう厳然とした事実であった。
その事に気が付いた大人達が、必死に、本当に必死に働いて、少しでも広い耕作地を作った。
少しでも多くの実を成らせる作物も作り出した。
それでも、年々少なくなっていく作物を目にし、お父さんは王都へと出稼ぎにいった。
どの家でもそれは同じだった。でも、それは唯でさえ少ない村の貴重な労働力を削ぎ、村の収穫量をどんどんと減らしていく事となってしまった。
村長様のお話では、うちの村だけでなく全ての土地で同様の状態になっているって言っていた。
比較的南にある私達の国はまだマシな方なんだって、でも此のままだと遠くない未来にきっと村は・・・。
でも、そんな不安があの日を境に一気に消え去ってしまったの、空から幾つもの白い大きな羽根が降って来て、はじめは何が起きているのか解らなくって、でも気が付くと羽根は地面に落ちた後無くなってました。
落ちた周辺の土地に穴が空いていた為、もしかしたら地面に潜ったのでしょうか?
でも、あんなにゆっくりと落ちて来た物がどうやったら?
村中でこの羽根は目撃されていたのでしばらくは話題になった。
でも、誰もが日々の糧を得る事に必死で、いつの間にか記憶の片隅へと追いやられていった。
そして、羽根降りから1週間ほど過ぎた時、村中で見た事も無い植物が育ち始めた。
最初に気が付いたのは村にいる子供達だった。
大人達は、日々の生活に追われ周りを見る事が少ない、子供はどんな時でも楽しみを見つけようとする。
そんな違いなのか、見た事も無い植物が村中で生え始めている事に気が付いたのは妹達であった。
「おねぇちゃん、なんか見た事のない草?木?がいっぱい生えてきてるの、あれ食べれるのかな?」
「え?食べれる?!見た事のない木や草?」
妹の破れた服を繕いながら今日の出来事を上の空で聞いていたのですが、最初に食べれるという言葉で意識が戻りました。そして、次に草か木という言葉で混乱した。
「ええっと、何処に生えていたの?」
「あっちこっち?」
「え~~っと、昨日までは気が付かなかったの?」
「ううん、昨日までは無かったの」
「なかった?」
妹の言葉に疑問を覚えながらも、その後お母さん達が農作業から帰宅した為に翌朝一緒に見に行くことにした。そして、朝の作業が始まる前にと、急いで妹と一緒にその草を見に行った。
「・・・・草?」
「う、嘘じゃないよ?昨日はもっと小さかったの!」
目の前には、わたしの背丈ほどもある木が立っていた。
昨日までは絶対に無かったと断言しても良いです。あれば気が付いたはずです。
でも、一日で木がこんなに大きくなるのでしょうか?
わたし達姉妹が唖然として木を眺めていると、村のそこかしこで驚きの声が響き渡りました。
村を見渡すと、それこそ村の中、そこら中に木が生えている事に気が付いた。
そして、そんな中妹がぽつりと呟いた。
「おねぇちゃん、食べなくて良かったね、食べてたらお腹の中からおっきな木が生えてたかもしれないね」
「・・・・・うん」
妹の言葉に、一日でこんなに育つ木であればそんな事もあるかと思いました。
その後、お父さんに聞いた話では、村の者達が集まり相談した結果、もうしばらく様子を見る事が決まったみたい。
これだけ成長が早ければ、もっと育った時に切り倒せば、冬場の燃料になるのではとの期待をしての事で、でもその期待以上の効果をこの木は齎してくれたのです。
なぜそうなるのかは解らないのですが、この木が育った傍にある畑や田んぼが、ここ近年見た事も無い程の豊作を迎えたのです。この木から離れたところでは、例年通りの不作であった為、この不思議な木が恵みを齎してくれた事を疑いません、もちろんどちらかと言うとそうであって欲しいという祈るような思いであったのだと思う。
それでも、ここ数年はこの木の御蔭で誰も餓えることなく暮らす事が出来ている。
そして、この木の由来と思われる羽根に絡めて、この木は”天使の樹”と呼ばれるようになった。
「でも、いつかあの樹に成る木の実を食べてみたいな、すっごく美味しそうだよね」
「そうね」
天使の樹は3年目から実を付けるようになった。
しかし、その実は国の各地に配られ、国の法律で木の実を食べる事は固く禁止されていた。
それでも、このまま国中に広がればいつかは口にする事も出来るのでしょうか?
そんな思いを抱きながらも、わたしは木の側で今年に実った麦を収穫していく。