1-7:70年目が混乱中
樹です~お昼寝が削られてる樹です~
いつもは区切りの御挨拶をしたらそのままお昼寝にはいるのに、今年はそれが出来ていません!
悲しいです、眠いです、これからどうなってしまうのでしょう。
あ、オオワシさんが帰ってきました。
えっと、何か言ってますね・・・え、えへ?
何をおっしゃってるのでしょう。ニュアンスでは危機感がバシバシ感じます。
お、お?ウマさんも、その頭の上にはネズミンさんとリスさんも乗っています。
ん?えっと、足元でそれぞれに何かを訴えかけています。
なんでしょう?うん、うん、ごめんね~何言ってるかぜんぜん解んないわ。
わたしがそう思った時、みんなが一斉に、あ、こいつ駄目だわって感じで横を向きました。
ちょっと!いくら何でもその反応ってないんじゃないですか?
思わずそう抗議をしちゃいますよ!
そしてらですね、何と、わたしの前で信じられない光景が広がったのです。
え?え?え?何これ・・・
オオワシさんも、ウマさんも、みんながそれこそ角突合せて何か話し始めました。
え~~っと、もしかして皆さん種族違っても会話が出来ちゃうなんて、そんな事ないですよね?
わたしがそう尋ねると、みんなが一斉にこちらを向いて、溜息を吐いてまた会話を始めました。
う、う~~なんですかこの疎外感!っていうかなんで鳴き声違っても会話が成り立つのですか!
そもそも、種族違って会話が出来ちゃったら肉食系の方苦労するじゃないですか!
わたしがそう抗議をすると、まるで、五月蠅い、ちょっと黙っててっと言うように、リスさんが後ろ足でタシタシっとわたしを蹴ります。
が~~ん、リ、リスさんが!わたしはそんな子に育てた覚えはないですよ!
みなさん酷いんです、苛めるんです、仲間外れにするんです~っと遠くの森にいる子供達に訴えるんですけど、みんな呆れたような気配しか伝わってこないんです。
が~~~ん、そもそも、会話ができるなんてずるいんです。
わたしの努力が足りないんですか?
そりゃぁ70年の半分以上寝てましたよ?
日向ぼっこしかしてなかったですよ?
70年間ただ立っていただけですよ?
でも、でも、樹なんだから仕方がないじゃないですか!
そうですよね?
わたしがせっせと正論を皆さんに説きます。そうしている間にも話し合いが終わったのか、みんなが一斉に動き始めました。
あ、あの~どうなったのでしょうか?
恐る恐る尋ねると、オオワシさんの子供達がスリスリと慰めてくれます。
う、う~~ありがとう~~って、え?水下さいですか、そうですか、まだ飛べませんもんね。
◆◆◆
草原への入り口で野営の準備をしていた調査隊の面々は、それぞれにテントを張りながら会話を進めていた。
そして、その隊長と副官が共にその状況を確認している。
「あ、そういえば隊長、昨日いかにも大地に感謝をって感じを装ってましたけど、どうでした?」
「む?どうでしたとはどういう意味だ」
「ですから、ミランダの下着の色ですよ、さり気無く覗こうとしてましたよね?」
「ば、馬鹿を言うな!そのような不埒な事をこの私が考えていたとでも!」
「え?だって隊長そんなに信心深くないですし、こそっと下からミランダ見てたの解ってたし、で、白ですか?」
「嫌、あの距離では確認出来なかった」
少し離れた場所でテントを張る作業をしていた者達は、呆れた顔を二人に向けていた。
そして、そんなマッタリした雰囲気が流れる中、周辺を偵察していた騎兵が戻ってくる。
「戻りました!」
「うむ、ミランダ君、で、どうだね、水源はあったかね」
騎馬に騎乗する女性騎士にもっともな様子で隊長は近づいていく。
そして、まるでその隊長を蹴り飛ばすかの勢いで騎馬を降りたミランダは強張らせた表情で報告をした。
「残念ながら近くには水源は見当たりません。あるとすればあの森の中と思われます」
「うむ、水源を起点に森が広がったと考えればおかしなことではないな」
「はい、しかし問題があります」
「ん?なんだね?肉食獣でもいたか?」
「いえ、この地域に生息する生き物の、ほとんどが魔物化していると思われます」
ミランダはそう告げると、馬の後ろに縛り付けていた角のついた兎を皆の前に突き付けたのだった。