1-85:80年目の初春です
まだまだ肌寒い日が続いていますね。樹もまだモコモコに包まれながら、暖かい春が待ち遠しいです。
それでも、ようやく梅の花がちらほら咲き始めて、春の訪れを予感させてます。
前にも言ったかもしれないのですが、梅の花って好きなんですよね。
桜より梅の方が好きです、なんか儚げな美しさを感じちゃいます。まるでわたしの様ですよね?
可憐に咲く紅梅や白梅に包まれて、樹はご満悦なのです!
そんなわたしの周りにも、早めに冬眠から目覚めた熊さん達が、蜂蜜まだかな~っといった様子でハチの巣を眺めてます。まだまだ寒いですから、蜂さん達は巣を温めるのに一所懸命に翅や体を震わせています。
暖かくなってきて、花が咲き始めるまで蜂蜜は御預けですよ?
視線の先で小熊さんがうろうろと物欲しそうにしてるので、ちょっとだけ林檎を作って落としてあげました・・・ら?ちょっと!親熊さん容赦なく子供から林檎強奪してますが!
小熊コロコロ転がってますよ?良いのですか?結構バイオレンスな子育てですね?
しょうがないので追加で林檎を落してあげましたよ!
わたしは慈悲深いですから、ですので、今後も何かあったらわたしを守るのですよ!
わたし動けないのですから、生き残れるかどうかは皆さんの頑張りにかかっているのですから!
そんな事を思念で飛ばしていると、あら?森からエルフっ子達が走ってきますね。
んんん~~、あ、思念出してたので、わたしが起きたのに気が付いたみたいです。
え?なんか病人いっぱいなので林檎が欲しいですか?擦り卸し林檎ですか?病人の定番ですよね?
前世でもわたしは食べた事も、作って貰った事もないですけどね!べ、別に寂しくないよ?
定番なのはお話の中だけだって知ってますから!現実ではそんなの作らないですよね?
でも、病人がいっぱいってインフルエンザでも流行したのかな?
冬の定番ですよね?樹に生まれ変わってからは、病気って掛かった記憶がないのです。
樹の病気っていうのもありますよね?
良く考えれば、自分の木の実で薬作っても、わたし食べられないじゃないですか!
何か対策を考えとかなければいけませんか?
とにかく、エルフっ子達の村の様子を映像切り替えてみてみたら・・・えっと、簡易テントがいっぱいです。これって先日来た人族の方達でしょうか?あれってわたしの映像範囲から離れてたので、何が起きたのか解んないのですよね。
子供達と、いっぱい倒されるなら、倒される以上に人型木の実を作ればいいじゃない!との結論で、せっせと人型木の実を作ったのは良い思い出ですね。
久しぶりの子供との交流でした。うん、穏やかでほのぼのした良い時間でしたね。
まぁ、その後にちょっとだけ問題が無いでもなかったような?
まさに地面に隙間なく蠢く人型木の実、あれは何というか生理的に受け付けたくない光景でした。もう一つ一つじゃなく、蠢く何かって感じでした。
これ、ちゃんと予定通り減らして貰えるのでしょうか?ちょっと作りすぎじゃね?って子供達に言ったのですが、別に?って返されました。別にってそれ返答になってないですよね!さっきまでの家族団欒の時間を返せ!
と、ともかく、無事に侵略者さん達は撃退出来たようなので、当面安心です。
人族さんもいい加減にして欲しいですよね、素直に自分の国耕してなさい!って気分ですよね。
隣の芝は青いの精神が魂に刻まれちゃってるのでしょう、まったく困った者です。
平和主義のわたしを見習って欲しい物です。争いからは何も生み出されないのです!
わたし樹ですから、基本無欲ですものね。動けないから周りに迷惑かける事も無いですし!
やっぱり欲張っては駄目!まったり、まったりの精神です!
ところで、おそらく残ったんじゃないかな?の人型木の実さん何処行ったのでしょう?
・・・・・まぁ、あれもわたしの子供ですから、子供の自立は良い事です、ね?
◆◆◆
ゾットル達の村は、昨年冬からの病人流入に村人全員が介護に振り回される事となった。
幸いなことに、フランツ軍は物資を拠点から離れた場所に設置しており、今回の騒動で使えなくなる物が少なかったため、村への負担は労働がメインとなった事だろうか。
その離れた拠点においても、馬車2台の中で病人が発生していたが、それ以外の被害は確認出来なかった。
恐らくだが、この馬車は森付近の居留地から逃げてきて、その際に木の実に襲われたのだろう。
今後問題となるのは、このフランツ出身の者達を今後どう扱うかが、今もゾットルを始め幹部達で連日会議が行われている。そもそも、彼らが目を覚ました時に帰属意識が何処へ向かうのかが明確になっていない。
その為、会議は空転するばかりで、明確な対処はひとまず分散管理するといった程度しか誰も思いつかない。その分散管理をしようにも、そこまでの場所がない為、問題は更に面倒になって来ていた。
「そもそも、住むための居住地を作る材料が無い。それ以上に、一気に膨らんだ人口を維持する食料確保も重要になってくるな」
ゾットルの言葉に、ほぼ全員が同意を示す。ただ、ゾットルの言葉に何ら解決策は示されていない。
「現在の人数を維持するには森での採取が必須、可能なら狩猟も行い所ではありますが、余程の者でないと兎にすら負けそうですが」
「動物達も、年々強くなっています。我らとて以前より遥かに強くはなったのですが、それ以上に進化してますから」
「特に厄介なのは、こちらの意図を察して対応してくることです。もっとも、こちらも同様に動物達の遣りたい事を察する事が出来るのでお相子なのでしょうが」
集まっている者達から、それぞれの意見が出る。もっとも、どの意見もありきたりの意見しか出ていない。
その中において、普段は沈黙を守っているセリが手を上げて質問を行う。その質問に、問題は更に複雑になってくる。
「一つ確認をさせて戴きたいのですが、今回の事は本国へは連絡するのでしょうか?」
普段から、どちらかというと表情を出す事のないセリが、今日は更に表情を動かさない、というよりどことなく蒼褪めている気がした。その事にゾットルは若干の違和感を感じながら質問の意図を尋ねる。
「わたしの記憶間違いでなければ、そろそろ本国からの免税期限が来るのではないでしょうか?今年の秋の収穫の何割かは本国に送る事になるのではと試算しておりましたが、今回の事でその、税率を人頭税で行うと大変な事になる様な」
本国への税など、誰もが忘れていた。更には、国の基本税制は人頭税となる。
もし、今回のフランツ王国の者達を受け入れるとなると、その税額は一気に跳ね上がるだろう。
「不味いな、そうなるとフランツ国の者達の流入を説明し、免税期間延長をお願いせねばならんか」
現状、田畑の拡張による生産拡大を行っているが、今年の冬の収穫がいきなり数倍に膨れ上がる物ではない。種籾にしても限りがあるのだ。皆が飢えない様にするにはその種籾へと回す量も減らさねばならない。
「うっかりしていたな、税金か・・・」
しかし、考え込むゾットルに対し、サバラスは首を傾げさせる。
「徴税か、ただ徴税官ってこんなところに来るのか?この一年、本国の者など誰一人見てない」
「解らん、しかし可能性はあるな。こちらから使者を送った方が印象は良さそうだが、困ったな」
本国へと使者を送るには、自分達の姿は少々不味い気はする。誰もがその事は自覚していた。
その為にダルタス達の村を利用しようとしているのだ。しかし、本国から人が来るとなると話は変わってくる。一応だが以前トールズが報告書を送った様ではあるが、その後の話は誰も聞いてはいない。
「トールズはまだ帰らんな、しかし、困った」
皆が困った困ったと言いながら、夜は段々と更けていくのだった。




