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1-84:79年目が過ぎ去ろうとしています

フランツ軍は予備拠点より更に進駐し、魔の森より徒歩で約半日の場所に改めて拠点を構築した。

そして、その場所を起点に森に沿って斥候を放ち情報収集を開始する。

そして、3日目に各部隊長や貴族の面々を招集し、対策会議を開催した。


「それで、おそらく難民達が作ったと思われる村が1か所、村の人口は100~300という所なのだな」


「はい、目につく者が男達だけでしたので、女子供は隠れたと思います」


「周囲の畑は刈り取った麦の痕跡より、どこも豊作だったと思われます」


「それは上々ですな、で、戦力はどれ程と?」


「不明ではありますが、此度の遠征では占領は計画しておりませんぞ?」


「しかし、そこにいる者達を本国へ連れ帰れば良いのでは?」


「収穫物も併せて持ち帰れれば当面の対策になりませんかな?」


それぞれが、思い思いの意見を述べていく。

どの者達も、この地の豊かさに驚きと興奮を隠せないでいた。

それゆえに当初の計画を若干忘れがちではあった。


「皆そう興奮するでない。それで東へと向かった者達は帰還したのか?」


王国で、かつては内政を取り仕切るメンバーの一人でもあったローヌ元伯爵が、途中から願望とも言える意見が出始めた事もあり、会議内容を再度意識させるための行動に移った。


「いえ、その後もう2名を追加で斥候に出しましたが、こちらも帰還していません」


「ふむ、先の村はどうやら難民達が集まって出来た様だが、それ以外にまだ他国の息のかかった村がありそうじゃな」


「わざわざこちらの斥候を捕えるか殺している事を考えれば、そこそこの人数になると思われます」


ローヌ他の面々も、その意見に賛成であった。

規模がそれ程大きくないのであれば、戦闘の可能性を避ける為、外交的手段へと切り替えるのが普通である。此方への情報流出を警戒し対応するという事は、それだけで戦闘行為と捉えて間違いはない。


「これは厄介な事になりました。我々はあくまで調査が主体の構成をしています。もし他国の正規軍との戦いとなれば、真面に戦えるのは100名いるかいないかです」


「ですな、出来れば相手の規模を把握したい所ではありますが、まずは難民達からもう少し情報を得られれば」


「はい、現在、難民達の村にわざと一名程兵士が残りました。上手くすれば次の接触で更に情報が得られると思われます」


「拠点周辺の警戒は強めた方が良いですね、相手の数が不明な今、もし奇襲されればそれこそ壊滅しかねません」


「東を中心に、より面での警戒を強化致します。それと、何とかして友好的な接触を図りたいものですが」


ここに来た者達は、誰もがフランツ王国が直面している問題を理解していた。

その為、優先すべきことは本国における食糧問題改善である事も重々理解していた。それも、一時的なものではなく、恒久的な改善が必要であることを。


「とにかく、難民達の村へまず訪問しよう。そこで可能な限りの食料を譲って貰えるように交渉する事だ。併せて魔の森の情報だな、可能なかぎり作物を集めたい」


「生き物の情報も欲しいな、先の遠征報告であった角付の動物達の情報が」


「とにかく、東は警戒を強めるのみで、まずは難民達の村で情報を集める、それで良いな?」


「しかたがないな、で、作物の分配率はどうする?」


「ふむ、そこは国で一括分配しかあるまい、ただ森での個別収穫は要相談といったところでどうじゃ?」


ローヌの意見に、皆がしばらく考えた後に頷いた。ただし、森への侵入は難民の村との交渉終了後とし、譲って貰った作物を、まず国へと送った後とする事で決定した。

この会議を通して、一様に作物が譲って貰えない可能性をまったく考えていない一方的な内容ではあったが、一応戦闘は回避の方向で会議は纏まったのだった。


「さて、難民の村へはわしが向かうとしよう。一応、向こうとは今後の取り決めなどの話もでるだろうしな、まぁ今日は向こうで泊まるつもりで行って来るかの」


ローヌはそう告げると、側近2名を連れ立って駐留所を出立していった。

駐留所において、周囲を警戒する為の体制を整えるとともに、夜間の警戒態勢強化を指示、特に東方面に対しての警戒を等間隔にて配備したフランツ軍は、陽が落ちると共に篝火を惜しみなく灯していく。


「ローヌ卿は戻られませんでしたな」


「うむ、まぁあの方の事だ、上手く相手の言葉尻を捉えて潜り込んだのであろう」


ローヌ卿が現役であった頃の国での出来事を幾つか思い返し、各部隊長が笑い声を上げる。

他の者達も同様に、笑う者、苦笑を浮かべる者など様々な反応を浮かべている。

一頻り、皆が笑い終わると、場に思わぬ静寂が訪れた。


誰も言葉を発しない中、ふと、彼らは今この静寂を壊す事に何ゆえか解らない恐怖を感じた。

もしかすると、生き物の持つ本能が何かしらの異変を感じていたのかもしれない。


今自分達が集まっている天幕の外、そこには多くの仲間たちがいるはずである。しかし、その仲間たちがまるで居ないかのような、得体のしれない静寂に感じられ、誰もが思わず天幕の入り口へと視線を向けた。


「ああ、その、なんだな、もう遅くなった。そろそろ自分の天幕へと戻るか」


部隊長の一人が、この異様な雰囲気を破るように、無理に言葉を紡ぐ。


「そ、そうだな。それにしても、何か静かだな。ちと巡回でもしてくるか」


「俺も同行しようか。何かあってからでは遅いからな」


それぞれが、やはり何かを感じ取っているのだろう。誰もが、自然と側に置いてあった武器へと手を伸ばす。それぞれが視線を合せ、もっとも天幕の入り口に近かった者が、一気に天幕を跳ね上げる。


「!!!」

「な、何かありましたか?!」


天幕の外で警護をしていた2名が、突然の事に驚きの声を上げる。

その様子をに一瞬安堵の溜息を吐きそうになるも、この野営地を包み込むかのような異様な気配、または圧力の様な物を各部隊長はヒシヒシと感じ取っていた。


「「「何か来るぞ!急いで笛を鳴らせ!」」」


複数の部隊長の声が重なり合う。衛兵も、その様子に何かが起きようとしている事を感じ、懐に入れていた笛を吹きならそうとする。

そして、まさに笛を吹こうとしたその瞬間、この居留地の周囲すべてで草を掻き分けるような音か、又は何かが這うような音か、ざわざわ、ざわざわとした音が彼らを包み込むように響き渡る。


「何をしているか!笛を吹け!」


部隊長の叫び声が合図となったかのように、居留地全域で甲高い笛の音が響き渡る。


「篝火を増やせ!敵襲だ!」


「敵襲だ、武器を取れ!」


叫び声が響き渡る。

駐留所を守るように配置されていた兵士の一人が、機転を利かせ篝火の中の松明を一本取り、闇の中へと放り投げる。

すると、松明が落ちた場所を起点に、何かが火を避けるかのようにザワザワと闇の中へと逃げていくのが見えた。


「な、なんだよあれは!」


兵士も、その周りにいた者達も、自分の見た物が何か判断がつかなかった。

ただ、誰もがそれはこの世の生き物では無い、なにか邪悪な物であると思った。


「い、いまのは前に見た魔物じゃ」


一人の兵士は、闇の中にいた者と目があった気がした。

その魔物の姿をしっかりと直視していた。兵士は、自分の心臓が鋼を打つが如く鳴り響き、また手がまるで自分の物ではないかのように震えるのを感じた。そして、思わず一歩後ろへと後ずさる。

その時、まるで彼を追いたてるかのように周囲から叫び声が聞こえてきた。


「ば、化け物だ!」

「魔物だ!先日の魔物が攻めて来たぞ!」

「慌てるな!篝火を増やせ!」

「闇の中にいるぞ!」


様々な叫び声が響き渡る。それと共に随所から悲鳴も聞こえてくる。


「慌てるな!冷静に対処すれば勝てる相手だ!先日の事を忘れるな!」


司令官は、冷静に判断を下す。しかし、周囲の悲鳴はどんどん数を増やしていく。この闇の深さが先日と違い、奇襲を許し、また冷静な対応を阻害していた。


「天幕に火を放て!闇に阻まれては真面に撃退できんぞ!」


「火を放て!周囲を照らせ!」


「暗闇では勝てる者も勝てんぞ!」


司令官の指示に合せ、方々で声が聞こえる、その度に宿営所を照らす明かりが増えていく。

そして、その明かりに照らし出された先では、この野営地を取り囲むように蠢く人形のような姿が、それこそ大地を覆い尽くすかのように埋め尽くしていた。


「か、神よ!」


その光景を目撃した最前線にいた兵士の一人が、思わず神への祈りを呟いた。

その瞬間、闇から無数の人形が飛び掛り、押し倒され、人形の波に飲み込まれていった。

そんな光景は今や至る所で発生していた。

飲み込まれた兵士のすぐ後ろにいた者は、手にした槍を振り回しながら、飛び掛ってくる醜悪な人形を振り払っている。

しかし、このままでは時期に前にいた兵士の様に飲み込まれる事は解りきっている。


「し、死にたくない!俺は生きて帰るんだ!」


もはや訓練した兵士の動きでは無く、闇雲に槍を振り回す兵士、しかしその兵士は突然足元に衝撃を受け倒れ込む。


「た、たすグゥゥ」


すぐにくぐもった声が聞こえた後、何も聞こえなくなった。

そんな最中も戦いは続いている。


「油を撒け!火で牽制しろ!」


「馬車を出せ!逃げれる者から撤退しろ!」


様々な叫び声が響き渡る。しかし、その一つ一つが闇の中へと飲み込まれていく。

そんな中、中央から馬車と、騎馬が駐留所を切り裂く様に走り出した。


「ま、まってく、」

「お、おれ、も・・・」


とっさに馬車へと飛び乗ろうとした者もいたが、引きずられ地面に倒れ伏し飲み込まれる。

脱出を図った騎馬の数頭も、途中様々な障害物で転倒、同様に飲み込まれていく。

それでも、2台の馬車と4騎の騎兵が無事脱出をはたした。


「ほ、本国へ報告せねば、本国に、報告を、報告せねば」


調査団の責任者であった大学教授の一人が、走り去る馬車の中、体を縮めてブツブツと呟いていた。

その呟きは途中に作られた非常用の拠点につくまで続いていた。


何か、物足りないなぁ、ここは、あれ?ここをこう。などと随所に加筆してたら長めになってしまいました><

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