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1-80:79年目の冬です4

ポートランド領にロマリエの名前で戒厳令が発せられた。

すでにアルバートの妻が病に倒れた事は、使用人達を通じて領民達にも広まっていた。

そこに、ロマリエはアルバートとその息女も同様に倒れた事として発表、アルバートの回復まで自分が代官としてポートランドの統治を行う旨通達を出した。

家臣たちの一部において反発が予測されたのだが、不幸中の幸いか領内に発生した疫病によって、抗議を行うにも集団となり感染する事を恐れ個々の抗議に留まっている。

その最中にも、ロマリエは人の出入り及び都市の流通に対し厳重な監視を行った。

その行動は疫病の拡散を押さえる行為として領民達には受け入れられた。もっとも、この病気による死亡率は適正な対処さえ行えば、決して高くないとの発表が無ければ暴動となっていたかもしれないが。

それに合わせて、教会の協力の下患者たちの収容、別名隔離とも言える管理を行う。

これは、角の生えた者に対して、領民達が迫害行動を行う可能性が高かったのだ。


「第二次感染拡大は止まったとみて間違いは無いな」


患者の拡大推移を記載した報告書に目を通しながら、ロマリエは目の前にいる男にそう尋ねる。


「そうだな、まぁ落ち着いたんじゃね?」


「で、感染拡大の原因を教えて貰っても?わざわざお前が此処に出向いたんだ、理由があるのだろう」


ロマリエは、目の前にいる男の額へとおのずと視線が向く。そこには、10センチほどの一本の角が生えていた。


「まぁな、とりあえずこの騒動はもう納まるだろう。なんっていうかよ、まぁ天災のようなもんだと思ってくれ。俺達もこの騒動の原因は解っているが、死人が生き返るよりはいいだろ?」


「死人が生き返るだと?」


相手が何を言いたいのかまったく把握できないながらも、この一連の問題が収束へ向かうとの情報はありがたかった。結局、彼らは走り回っただけで何一つ原因を特定する事が出来なかったのだ。


「で、こっからの話だが、ロマリエはこの後どうする気だい?今ぶっ倒れている連中は、遅かれ俺の様に角が生えるぞ?こっちは引き取る事も検討に入れているが、倒れた連中も家族がいるんだ、そう簡単な話ではなかろうってとこがゾットルの意見だ。まぁ俺自身はどうでも良い」


「貴様は相変わらずだなトールズ、送られてきた報告書が多少まともになっていたので期待したのだが」


「あ、あれは原文は他の奴が書いた、文面考えるのが面倒でよ、異常なしって一文で終わろうとしたら泣かれたわ」


ケラケラと笑うトールズを見て、ロマリエは突然訳も解らない疲れを感じた。ついでに、頭痛も伴っているような気がする。


「貴様を見ると、角が生えたからと言って性格が変わる事は無さそうだな」


溜息まじりにロマリエがそう告げる。実際、話してみる限り相変わらずのトールズのように思える。

ただ、この後のトールズの話を聞き、ロマリエは自分の判断が早計だった事を知る。


「そこは何とも言えないな、性格はともかく身体能力は大幅に上がったぞ?まぁ面倒だからわざわざ見せてヤル気は無いがな」


トールズ自身は、角が生えた以外は特に筋肉がついたといった事は感じられない。しかし、わざわざ此処で嘘を言う意味は無いから真実なのだろう。そう思った瞬間、ロマリエはその言葉の意味に気が付いた。


「それは、今熱病で倒れている者達全員が、一騎当千の戦士になったと!」


「まぁな、もっともずぶの素人が一騎当千は言い過ぎか?まぁどっちにしろ迫害でもしようもんなら相手が殺されるかもな、まず力の加減が出来ん、出来んと言うか慣れてない、感情が高ぶる、さまざまな要因で事故は起きそうだ。それによ、何となくだが角が生えてからは人を殺す事に対するハードルが下がっている・・・かも?もっとも俺個人の感想だけどな」


「な!なんだと!」


恐ろしい話であった。今まさにこの街の至る所で不可抗力による殺人事件が発生する可能性があるのだ。

不可抗力でなく、自己防衛であったとしても、今ここで角付によって殺人が行われればそれは双方に小さな亀裂となって、今後に多大な影響を及ぼす可能性が高い。その先に待っているのは種の存続を賭けた命がけの戦いかもしれない、そしてそれは自分達人類にとって非常に部の悪い戦いとなるだろう。


「俺は基本様子見だからな、面倒な事は近々ゾットルが誰か送り込んで来るさ。とにかく患者?を一か所に集める事をお勧めするぞ、一般人と混ぜておくことはお勧めしない、あ、あとさ、角付の俺達は離れてても何となくだが意志疎通が出来るからな、下手な事すると筒抜けだからな、気を付けろよ」


「なんだその便利機能は!」


トーラスの報告にロマリエはそれこそ頭を抱えたくなった。

しかし、そんな事よりもまずは患者達をどこへ隔離するかが問題となるのだった。


「ふぅ、とにかく仕事はこれで終わりだな、じゃぁ帰るわ」


「はぁ?」


余りに軽く言われたため、ロマリエは思わず了承してしまいそうになった。

しかし、とっさに口を噤んだ。危ない所であった。もしここで了承でもしようなら、それを盾にとってこの男は絶対に帰っていただろう。そういう男だ、安定のヤル気0男なのだ。


「トールズ、ともかく代わりの者が来るまで此処にいろ。お前達角付が暴れ出した場合俺達では対処できない可能性がある」


「うっわ~~~面倒くさそうだなそれ、却下はさせて、くれんよなぁ」


「うるさい!お前には多大な貸しがある。ここでそれを返せ!」


「うっわ~~、うっわ~~~、今ここでそれ言うか?っていうか俺生まれ変わったようなもんだから以前の俺の貸しはチャラじゃね?」


「そんなお前だけに都合の良い話があってたまるか!それと、さっさと今回の原因を説明しろ!今一つお前の説明だけでは信用が成らん!」


トールズとの会話に、そろそろ限界が来たロマリエが怒鳴り始める。その様子を見ていた他の面々の視線には明らかに同情の色があった。もっとも、誰一人換わってやろうなどという思いは欠片も無いのだが。


「ロマリエさぁ、俺よりまず今倒れている連中の対処した方が良くないか?俺が言うのもなんだが、指示してすぐ終わりましたって話でもないだろうし、まぁぶっ倒れている間に全員殺しちまえば当面はいいだろうが・・・」


トールズの言葉に、ロマリエはそんな事出来るか!っと内心で思いながらも、途中で話を途切れさせたトールズへと視線で話の先を続けさせる。


「うん、なんだ、それやったら神樹様が激怒しそうだな。下手すりゃ人類滅びる?」


「はぁ?!なんだそれは!」


ロマリエは思わず、軽い口調でとんでもない事を口走ったトールズの胸元を掴みあげるのだった。

その後結局、病人達を領主館へと収容する事となった。これ程の大人数を収容する事が出来る建物がここしかなかったのだ。そして、意識の回復した患者から順次、家族への説明を行っていく事とした。

併せて、王都へと伝令を走らせる。この角付達の今後の対応をビルジットへと相談する為であった。


ただ、予想しない出来事が、魔の森で今まさに発生しているとはトールズも思い至っていなかった。

それにより、第三次人型木の実大遠征が勃発しようとしている事も。

その引き金は、やはり人族によって弾かれたのだった。

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