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1-78:79年目の冬です2

ロマリエ達がポートランド領の領主館へと着いたのは、もう日が沈みかけた頃であった。

皆、全身汗と埃に塗れていたが、今はそれどころではない。マントのみ外し、アルバートの下へと急ぐ。

館の中は、今も人が慌ただしく駆け足で動いている。そして、行きかう者達の表情にはどこか怯えのようなものが有る。皆口元は布で覆い、手には白い手袋をしている。その姿で、解るものならばこの館内で発生している問題が何かに気が付くだろう。


「今発生している熱病は、我々が推測する物であれば、患者からは伝染しない。アルバート殿に面会後、患者たちの様子を確認したい、準備を頼む」


ロマリエは、わざと周りに聞こえるような大きな声で、案内をする侍従へと依頼をする。

その声が聞こえたのか、周りで作業をしていた者達が一瞬手を止めてロマリエを注視した。


「しかし、魔の森の木の実を味見もせず調理して出したのか?余り考えられんが、お前達は使用人たちから状況を確認せよ。特に厨房も含め木の実を扱いそうな者には念入りにせよ」


「は!」


ロマリエは指示を出す間も足を止めることなく、アルバートの執務室へと辿り着いた。

執事がドアをノックし、ロマリエの訪問を告げると、中から返事が有る。


「アルバート殿、御無沙汰しております」


室内に入り、アルバートを見る。この状況下にあったとしても服装も髪型もキッチリと整えられているのは流石である。もっとも侍女たちの努力の御蔭ではあるのだろうが。


「ロマリエか、久しいというより早かったな」


「はい、ポートランド領より届けられました報告書を読み、急ぎ駆けつけましたので」


ロマリエは、改めてアルバートの顔を見る、そこには確かに疲れや苛立ちが見受けられる。


「ビルジット様よりの親書です。ここに、現在こちらで把握しています魔の森の脅威、注意点が記されております」


「ロマリエ、聞き及んでいるかもしれないが、今我々はそれどころではない。原因不明の疫病により、多数の者が高熱を出し倒れた。幸い、解熱用の薬を投与し、一時的に熱を下げてはいるが、薬が切れればすぐに高熱になる」


「アルバート様の奥方様もお倒れになったとお聞きしています。ただ、その病状に対し、我々が危惧していた事が起きたのではないかと懸念しております。ぜひ病人、病状の確認および使用人たちへの聞き取りの御許可を頂きたい」


「原因がわかるのか!治癒は、治癒は可能なのか!」


原因についてロマリエが言及した時、アルバートは思わず立ち上がる。

そのアルバートに対し、ロマリエは勤めて冷静に回答を行う。


「もし、我々が想定している病気であるならば、早い者で数週間、遅い者でも2カ月程で高熱・・は収まります」


「高熱は、だと?副作用、又は合併症があるのか?!」


ロマリエがあえて強調した部分に、アルバートはしっかりと気が付いた。

そのアルバートに対し、ロマリエは即答する事無く、まずは病状を確認したい旨強調する。そして、現在高熱を発している使用人たちの症状を確認する事となる。


治療院という物はこの時代には無い。また、現在複数の者が倒れた事により伝染病の疑いを持たれている。この為、患者たちは使用人たちの住む宿舎の一角に隔離されていた。

建物に入ると、世話をする者達は簡素な衣服を身にまとい、口元を覆うだけでなく、極力肌をさらす事の無い様にして患者の世話をしていた。また、どうやら建物を出る時に衣服を着替え、古い物は集めている。

恐らく焼却処分するのであろう。


そんな中を、旅装とはいえ口元を覆っただけのロマリエが進もうとする。アルバートは慌てて建物入口の部屋へとロマリエを連れ込み、着替えをするように指示をだした。


「まぁ確かに想定している病では無い可能性もありますから、素直に着替えましょうか」


そう告げると、身に着けている者を外し、従者に渡すと簡素な衣服へと着替えるのだった。

アルバートも同様に着替えた後、中から出てきた薬師の先導で患者たちのいる部屋へと入る。

すると、そこには隙間なく並べられた寝台と、呻き声を上げる患者たちが寝ているのが見えた。


「ふむ、これは何とも凄い光景ですね。思わず尻込みしそうになります」


ロマリエはそう言いながら、それでも患者たちの様子を順番に確認していく。そして、その中で比較的若い女性の側で足を止めた。


「ふむ、この者は?」


「は、はい、侍女見習いの娘ですが、その、何かありましたでしょうか?」


「見習いですか、歳は?」


「14歳になります」


薬師の回答に頷きながら、ロマリエは少女の額へと静かに指を走らせる。

すると、そこにはかすかに引っかかる物が確認出来た。


「なるほど、この者より若い患者はいますか?」


ロマリエの質問の意図が解らないまま、薬師はこの少女が一番若いと答える。

そして、ずっと黙ったままアルバートはロマリエの様子と、少女を交互に見比べていた。


「どうだ、何か解ったか?これは疫病ではないのか?」


ロマリエはアルバートへと振り返り、少女の額を触ってみるように促す。そして、少女の額に触れたアルバートは、額中央に何かシコリの様な物を感じた。


「む、何かあるな、瘤などではない芯の様な物がある」


「はい、その者以外にも同様の症状が出ている者がいるか、確認をお願いします。比較的年の若い者の進行が早いと聞いていますので」


その後、この病室と隣の病室併せて12名を確認したところ更に2名に同様の症状が確認出来た。

ロマリエは、この症状より原因を特定した、伝染性は無いと介護の者達へと伝えるとともに、病室を出て会議室へと再度アルバート他の関係者に集まるよう伝えた。


そして、会議室で一同へと説明が行われた。

その内容は、アルバート達にとって想像もしていない内容であった。


「馬鹿な、あの魔の森産の物を食べると鬼になるだと!戯言もいい加減にしろ!」


会議室にアルバートの怒鳴り声が響き渡った。

しかし、ロマリエは現在報告されている魔の森の状況を一つ一つ説明していく。

そして、その中において木の実を食べた者の額に角が生えた事、それと共に恐らく何らかの干渉が精神に起こるのではないかとの推測を伝える。その例として、トールズからの報告書の事も隠さずに伝えられた。


「あ、ありえん、人に角が生えるなど・・・」


「残念なことに事実です。ただ、問題は誰がどの様にしてこれ程の人数に木の実を食べさせたかです」


その後の配下の者の聞き取りにおいて、尋ねた者の中の誰一人、木の実らしき物を口にしていなかった。

熱病で倒れていないのだから当たり前ではある。だが、それであれば誰が彼らの食事に木の実を混ぜたのか?その意図は?それ以上に立場の違う複数にどの様にして?疑問は何一つ解決してはいない。

ただ、対処療法であれど水分の補給や、栄養の補給によって余程体力の無い者以外は死人は出ないと思われるとの説明に、一部安堵の声が上がる。


「アルバート殿の奥方も、一先ず命に別状はないが、問題は角が生えたのちの事だな」


「はい、しかし食事以外に木の実をいかにして食べさせたのでしょうか?」


「まだ想像でしかないが飲み物ではないかと考えている」


「飲み物・・・そうか!酒に割るなどの方法で!」


「あとは、魔の森産の薬草などの植物も危険かもしれん。もっとも領民で高熱に倒れた者の報告はまだ届けられていないそうだが」


配下の者達と今後の対応を打合せしながら、ロマリエは部下たちに全ての食べ物の毒見を徹底させる事とした。毒見役はアルバート殿に紹介して貰おう。最悪でも死ぬ事は無いのだ。誰か紹介してくれるだろう。


ロマリエ達の打合せは深夜まで続いた。漸く、一通りの取り決めを行いロマリエは用意された寝室へと向かう。闇に包まれた廊下を、従者と共に歩きながらも、今後の事を考えていたロマリエは、ふと視界の隅に動く者に気が付いた。そして、ロマリエと同様に従者もまた、何かの気配を感じ取っていた。


「そこにいるのは誰だ!」


従者はすぐに短剣を構え身構える。ロマリエも同様に短剣を構えながら屋敷中に響き渡る様な誰何の声を上げるのだった。

ポートランド領の話が終わらないw

樹の出番が!

イレギュラーですが、もうしばらくポートランドのお話が続きます。

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