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1-77:79年目の冬です

ロマリエは馬を飛ばしながら、今回のポートランド領訪問の意味について考えていた。

この秋にポートランド領より届けられた報告書へと目を通したとき、ロマリエも、ビルジットも、予想もしていない出来事に驚きを隠せなかった。

ポートランド領ですでに魔の森産の植物が育てられている。その様な報告は今までどこからも上がって来ていなかった。今考えればあのアルバート公であれば有り得る事である。先の遠征にて収穫した植物などを持ち帰った事は把握していた。そして、その収穫された物は国王の命にて全て国に献上されている。

又、軽率な行動をしたことをアルバート自身が直接国王より叱責を受けていた。

しかし、そのような事で大人しくなるアルバートであれば、元より遠征など行っていなかったのだ。

この出来事により逆に、アルバート達は秘密裏に動き、その為ビルジット達は魔の森について警告すら出来なかった。自分達は対応を誤ったのだ。

そして、ビルジットは急ぎ国王へと報告に走った。

何としても、アルバート達が木の実を口にする前に危険を知らせねばならない。

その伝令にロマリエが選ばれたのは必然であろう。何と言っても国家機密に関する内容が多々存在する。

この為、安易に伝令などで連絡する事など出来なかった。


ロマリエが思考に囚われている時、前方を走っていた護衛が砂煙を見咎めた。


「閣下!前方より複数の騎馬が向かってきております」


その言葉に、ロマリエを囲むように走っていた他の者達も馬を止め、武器を構える。

皆が警戒する中、前方の砂塵が次第に近づいてくる。その姿が視認できるようになると、その騎馬の内一騎が黒い旗を靡かせている事に気が付いた。


「む?黒旗の早馬か!」


黒旗の早馬は、各領地において単独で対処不能な場合に走らせる早馬である。他国による侵攻は赤旗、慶事は青旗などの決まりがあり、黒旗は農作物や人における疫病、伝染病などを表す。


「国旗を掲げよ!」


ロマリエの指示にて、護衛の一人が身に着けていた国旗を広げて靡かせた。

その旗を見た早馬はロマリエ達の前で馬を止める。早馬が辿り着くまでにロマリエ達は急いでマフラーで口元を覆うのだった。


「宰相閣下の指示によりポートランド領を目指している。黒旗とは、何があった!」


「は!ポートランド領にて原因不明の疫病が発生!ポートランド公妃を含む多数の方々が意識不明、原因特定が出来ず王都に薬師の派遣依頼です!」


伝令の告げる無い様に、ロマリエは顔を蒼褪めさせた。

疫病が発生したならば早期にポートランド公を含む主要貴族の避難を行わなければならない。併せて、領民達の移動制限を行い疫病拡散を阻止する対策が必要だ。


「1名を残し王都へ先行せよ、ただし王都への立ち入りは禁止する、西門の待機所で数日待機せよ。サーフ、お前も同道しビルジット様へ判断を仰げ、王都に疫病が入らぬよう細心の注意を払え」


ロマリエの指示に基づき、早馬が再度王都へ向かって走り出す。ロマリエは残った伝令にポートランド領の状況を確認する。

そして、疫病は突然に領主館を中心として発生した事を知る。伝令がポートランド領を出発する時には既に50名以上の者が高熱を発して倒れた旨が伝えれれていた。

そして、その中にはポートランド公妃であるシャーロット様も含まれていた。


「それ以降の広がりは解らないのだな?」


「はい、自分が出発する時にはそれ以上の情報は受け取っておりません」


その言葉に、ロマリエの脳裏には木の実を摂取した時に起きる症状が頭を過った。

しかし、今の段階では何の判断も出来ない。情報が少なすぎたのだ。


「ポートランド公がご無事である事が不幸中の幸いだな。とにかく、急いでポートランド領に向かうぞ!」


ロマリエの言葉に、彼らは一斉に馬を走らせるのだった。


◆◆◆


始まりは実に静かに進行した。

夜も更け、ポートランド領の領主館においても、屋外に篝火が灯される中、屋敷内では一部の蝋燭以外は消され、館の中は闇に包まれていた。

普段と何ら変わる事のない夜、誰もが特に意識する事のない、そんな夜だった、本来であれば。

しかし、その闇の中で何かが蠢く姿があった。しかし、光の全く差し込む事のない廊下において、誰もそれに気が付くことは無い。


「アルバート様の御蔭で今年も豊作になるみたい」


「うん、すごいよね。うち以外の領地では王都以外はまだ厳しいのでしょ?」


「そうみたい。でも、王都周辺も豊作だから、今年は何とかなるってキールが言ってた」


「へ~~、でもさ、キール情報じゃ今一つ信憑性がね~」


領主館で働く侍女達が、一日の仕事を終えて燭台一つを持って自分達使用人の部屋へと連れ立って歩いていた。この時代、燭台に使われる油や蝋燭は高価であり、支給される量が非常に少ない。この為、それぞれが連れ立って帰らないとならなかった。もっとも、この暗い廊下を一人で歩く事を考えれば、連れ立って帰る方が数倍も安心だ。

いつものようにワイワイと会話をしながら頼りない燭台の明かりを頼りに歩いていくと、進行方向からも明かりが近づいてくる。


「あれ?誰かこっちにくるよ?」


「こんな時間に?」


「何か忘れ物したのかしら?でも、よく燭台を借りれたわね」


先頭で燭台を持っていた一番年長者である侍女が、怪訝な顔を浮かべた。

本来、この時間体に本館へと向かう事は考えられない。先に述べたように、油も蝋燭も貴重なのだ。その為、皆の共有物であり勝手に使う事は出来ない。


明かりへとゆっくりと近づいていく、するとどうやら明かりは床に置かれ、その明かりを持っていたと思われる者が床に倒れているように思われた。


「ちょっと!」


慌てて、倒れた者を助け起こす。すると、倒れていたのは同僚のマリアである事に気が付いた。


「マリア!どうしたの!」


「うわ!凄い熱!」


倒れているマリアを抱き上げたマーニャは、マリアがすごい熱を発している事に気が付いた。

顔からも流れるような汗が滴り落ちている。


「ど、どうしよう!」


「急いで部屋に寝かせましょう。ポーラはセバスさんに知らせて!」


「わかった!待ってて、急いでお薬を貰ってくる!」


数人でマリアを抱き上げ、必死に彼女の部屋へと運ぶ。その騒ぎを聞きつけ、宿舎にいた使用人たちが次々と顔を出す。


「ごめん、場所を空けて!あと、誰か水を汲んできて!」


慌ただしく介護の準備をし、漸くマリアの額に濡れたタオルを置き、体を冷やすために薄着にさせる。その間15分程だろうか、皆一息ついたとき、ふと先程セバスを呼びに行ったまま未だに帰ってこないポーラの事に気が付いた。


「ねぇ、ポーラ遅くない?」


「ん~~セバスさんが見つかんないのかな?」


「どうかな?でも、この前薬草の補充が進んだって言ってたから、薬草を取りに行ってくれてるのかな?」


その後、10分経ち、15分経ってもポーラが戻ってくる様子が無い。


「ちょっと遅すぎるよね、わたし見てくる」


「あ、わたしもいくよ」


余りに遅い為、マーニャ達が母屋へと向った。

そして、数分後、ドタドタとした足音が宿舎の方へと響いてくる。


「あ、帰って来たみたいだね」


マリアの額の汗を拭き、中々熱が下がらない事を心配していた面々がほっとした所、マーニャがすごい形相で駆け込んできた。


「みんな!屋敷中で高熱で倒れてる人がいるの!急いで手伝って!」


それは思いもよらない報告であった。

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