1-67:79年目の春です3
ふふふ、エルフっ子2号の視界共用が楽しい樹です。
その為、なんとまだ春なのです!昼寝すら惜しんじゃいます!
それにしても、人族の子供ってこんなにちょこまかと動きましたっけ?最初慣れるまでは何か乗り物酔いになったような気がしました。
画面がぐおんぐおん動くんです!上下左右に揺れる映像を見るのって結構きます、いろんな意味で。
もっとも、酔う為の三半規管なんて無いですけど!
とにかく動く事、動く事、今までは木の子供達視点にしか慣れてなかったので、すっごい新鮮な体験なんですが、見てるとどっと疲れちゃいます。
恐るべし子供の持つ運動エネルギーです。前世はきっと御淑やかだったはず?のわたしには少々荷が重いですね。
何とかしたい味覚共用はもちろんぜんぜんまったく達成できていませんけどね!
それでも、少し進歩したんですよ?エルフっ子2号が食べます。すると!画面に”甘い””辛い”酸っぱい”苦い”などの文字が出ます!・・・・って誰特なんですかこれ!嫌味ですか!虐めですか?
これって進化してもまさかですけど味覚は共有出来なくて、どっかの太った食べ物専門コメンテーターの解説が出るだけなんて事は無いですよね?そんな進化だと、わたし思いっきり切れる自信ありますよ?
卓袱台ひっくり返しますよ?積み木崩しちゃいますよ?
そんな事思っていたわたしの前に、突然でかでかと文字が出ました。
・・・・正 解・・・・
ふふふ、ふふふふふふ、これは何なのでしょう?何が正解なんでしょう?
喧嘩売ってますか?こんな根性が捻くれまくって捻じれまくって一周して更に真っ直ぐに見える陰険なのは、神様くらいしかいませんよね?
きっとどこぞの姑、小姑と同じようにちっさな事をグチグチ言って、外面だけは真面に見せて、うわ~~嫌ですね、思わず寒気しちゃいました。
しかもムッツリな変態なんですよね、あ、ロリでしたっけ?うわ~~信じらんない、何その生まれながらのゴミ!人の不幸が蜜の味なんですよね、そうですか。う~~~わ~~~最低ですね、息しないで欲しいですね!傍に寄らないでって感じですね!
って・・・・・あれ?何か別の意味で寒気がしてきましたよ?何でしょう?
うわ!もしかして今ので怒りました?ちっさ!根性ちっさ!う~~~、あれ?何でしょうこの音楽。ほら、なんか重低音で不安を掻き立てるような音楽が流れてませんか?
あれ?聞こえないですか?わたしだけですか?って、ふぎゃ~~~~~~!目、目の前がって!
駄目です!Gの集団は駄目です!ゾワゾワしちゃいます!
うわ!潰れた!グチャって来た!何此の映像!作る人の正気疑いってふんぎゃ~~~ごめんなさい~~、あ、駄目です!なんで無いはずの感覚がこんな時にあるんですか?
背中はっちゃ駄目ですって背中何処ですか~~ふんぎゃ~~~・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
・・
神様は格好いいです偉大です。皆の憧れ、慈悲深いお方です。
私達は神様の為に生きています。
神様サイコ・・・ではなく最高です!・・・がふっ
◆◆◆
トールズに人生最大と言っての良い程の危機が訪れようとしていた。
かつて数々の戦いを勝利へと導き、己自身も脳筋と呼ばれることに誇りを持つ男、トールズ。
そのトールズをもってしてもこの戦いを無事に生き延びる事が出来るか、それ程に厳しい戦いのど真ん中で彼は孤立してしまっていた。
事の起こりはトールズが訓練を終え、食堂で食事をとっていた時の事であった。
食堂の扉が激しく開かれ、その場に巡回担当であった一人の兵士が転がり込んで来る。そして、その様子に食堂にいた全ての者達に緊張が走った。
「何事だ!」
トールズは息を切らせているその兵士へと声を掛けるとともに、配下の者達へと視線を投げる。その視線を受けた者は周りに気が付かれぬ様に、騒ぎを大きくしない様に、静かに外へと出ようとした。トールズの視線の意味はすぐに出陣の準備を整えろとの意味であったからだ。
しかし、駆け込んできた来た兵士の次の言葉でこの場にいた全ての者が一切の動きを止める。
「は、裸の美女が居た!」
その言葉に食堂全体がざわめきに包まれる中、他の者の予想外にトールズは冷静だった。
トールズは座り込む兵士の側まで進むと、その肩をガッシリと掴む。そして、まるで怒りを感じさせる低い声で問いかける。
「貴様、自分が何を言ったか解っているのか?」
その眼差し、いや、眼光は凄まじく鋭かった。
この眼光の元ではどんな者も偽りなどとても述べる事は出来ない。誰もがそう思わせる気迫もあった。
「は、はい、嘘ではありません!み、湖を巡回中に見たんです!」
「湖でだと?詳しく話せ!」
「は、はい!巡回してる途中で湖で何か水の跳ねる音が聞こえたのです。それで、湖を見渡すとその中央で上半身裸の美女が!」
その兵士の言葉に、一旦沈まっていた空気が一気に慌ただしくなった。
しかし、その中であってもトールズは異様なほどに冷静さを失わなかった。
その為、一部の者達は逆に緊張を高めた。なぜなら、トールズ程の者が何かに気が付いたのか?と
トールズの野生の感はこの場にいる者達も良く解っていた。
「良く聞け、貴様は湖に美女がいたと言った。それがどれ程重要な事か解って発言しているのだろうな」
トールズのこの発言を聞いた途端、この場にいた者の緊張は一気に瓦解した。
あ、こいつまた馬鹿な事考えてるな、誰もがそう思った。
しかし、この後一気にその食堂の緊張が極限に達すると誰が想像できただろうか。
「は、はい!瑞々しい二つの果実が大変魅力的でありました!」
「馬鹿者!お前は解っていない、いいか?湖はこの村より神樹様により近い場所だ。その神聖なエリアに美女、すなわち部外者がいたと言ったのだぞ?」
「「「「はぁ?」」」」
皆が怪訝な顔をする中で、ついに爆弾が投下された。
「馬鹿者が!美女だぞ美女!この村に美女などおらんだろうが!」
ピキッ!バキッ!
食堂の一部から何か不穏な音が聞こえた。しかし、トールズはその音に気が付かず更に言葉を続けた。
「ふむ、貴様視力はどうだ、悪くは無いか?」
「は、はい!悪くはありません!」
「そうか、ではあそこを見ろ」
兵士の言葉を受け、トールズは食堂の一角にいた女性兵士を指さした。
「あれが美女に見えるなどないよな?」
「は?は、はぁ」
「ふむ、それではあれはどうだ?美女に見えるか?」
更に別の女性兵士を指さした。
「え、あの、び、美女?」
指を指された女性兵士が、壮絶な微笑を浮かべ席を立つ。そして、その表情を見てしまった兵士が、顔を引き攣らせて答えた。
「は?貴様やはり目が悪いな!いや、趣味か?あれが美女のはずなど無いではないか!むぅ、証言に信憑性が無くなってきたな」
「あ、え、その」
次第に顔を蒼褪めさせる何とかトールズから離れようとする兵士。しかし、兵士はトールズに肩を掴まれており離れる事が出来ない。
そんな兵士を他所に、トールズは一人ぶつぶつと呟いていた。
「むぅ、しかし、もし美女であれば俺が行かねばならん。だが、むぅぅ、そうだな、万に一つの可能性であっても美女であるなら行かねば」
「いえ、トールズ司令官?偵察はわたし達で行きますわ。その前にちょっとお時間をくださいな。ただその前にトールズ様ぜひわたし達とO・HA・NA・SHIしましょう、ね?」
顔を上げると、そこには満面の笑みを浮かべた女性兵達が立っていた。
とっさに立ち上がろうとしたトールズは、いつの間にか自分が包囲されていた事に気が付いた。
そして、周囲を見渡し何が起きようとしているのかを理解した。
「あ~~、いや、まて諸君。私はあくまで皆の意見を代表し、あ、いや一般論を言ったまでで・・・」
「ほほほ、死ね!」
女性兵はいつの間にか振り上げていた椅子を振り下ろした。それを、トールズは屈んだ状況からとっさに目の前にいた兵士を盾にして躱した。
鈍い音と、椅子が砕ける音が食堂に響き渡る。
その回避力と無情さは流石トールズと言えよう。しかし、彼は周囲を完全に囲まれていたのだ。
背後から振り下ろされる棍棒!なぜ彼女が棍棒を持っていたのかは解らない。しかし、その棍棒はトールズの頭部にヒットし彼の意識を一瞬にして刈り取った。次に振り下ろされる踵によって今度は一気に目覚めさせられる。もちろん多大な激痛を伴って。
「ふざけんなこの変態!美女じゃなくて悪かったな!」ドゴバコ!
「こっちだってお前なんか御免なんだよ!」ゲシゲシ!
「あんまり女なめんなよ!ボケ!」ドスドス!
「う、ごふぅ、ま、あ、や、げ」
言葉にならない呻き声が続く中、周りにいた男達は身を寄せ合ってその恐ろしい光景を振えながら見続けていた。目を逸らす事など恐ろしくて出来なかったのだ。
どれくらいの時間が過ぎたのか、長かったのか、短かったのか、ただ戦いは漸く収束した。
「みんな、湖へ偵察に行くよ!」
「「「「はい!」」」」
女達が居なくなったあと、そこにはまるで壊れた人形の様な何かが二つ落っこちていた。
「や、やべぇ!誰か木の実急いで持ってこい!」
「衛生兵!衛生兵はまだか!」
トールズが生き残れるか?それはまだ解らない。戦いはまだ続いている。
ほのぼの要素増加要員トールズ!
え?どこがほのぼの?・・・あれ?




