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1-64:78年目の冬です3

ロマリエは自分へと突き出された槍を避ける為に馬から転げ落ちた。


「閣下!」


その姿を見た周りの騎士達は必死にロマリエへと道を作る為に槍を繰り出すが、混戦となった現状では容易くロマリエへと近づく事が出来ない。


「その首貰った!」


転げ落ちたロマリエを見て、好機と判断した周囲の敵が一気に殺到する。しかし、誰もが功を争う動きをする事によってお互いの動きを阻害しロマリエを助ける事となる。


「まだまだ死ねん!どりゃ~~」


ロマリエは転げ落ちながらも手放さなかった己の愛槍を連続して突き、近づく兵士達を最小限の動きで屠って行く。しかし、その数は余りに多い。又、混戦の為発生する死角から突きだされる槍に致命傷は負ってはいない物の多数の傷を刻まれていく。


「ちい!誰ぞ早く来んか!」


ロマリエは着実に周りの敵兵を倒しながらも自分の置かれた状況に焦りを感じていた。

元々自分は生粋の武官ではない。ましてや最近は鍛錬をさぼり気味ではあった。その事を今ここで後悔しても何の意味もないがロマリエは無事に帰ったら毎日鍛錬を欠かす事無く行おうと決意していた。


「お待たせしました!」


「遅い!」


漸く自分を取り巻く様に自軍の兵士達が現れた事に内心安堵の吐息を吐きながら、まだまだ油断できる状況でない為に急いで馬に飛び乗り周囲の状況を確認する。


「こちらが押されておるではないか!ハートラン殿は何処だ!どうなっておる?!」


本陣へと攻め込まれている現状に怒りの声を上げる。敵を押し込むはずのハートラン将軍の部隊旗が見渡すが何処にも見当たらなかった。


「ハートラン将軍、討死された模様です」


「馬鹿な!農民ずれになぜ!」


今彼らが戦っている者達は、貧困によって生き残る為に反乱を起こした南東部の農民たちであった。

反乱はビルジット達が予想した以上の速度で膨らみ、気がつけば一国の軍隊にも相当する1万以上の数となっていた。しかも、彼らは当たり前ながら碌な食料を持ってはおらず、至る所で略奪を行った。

その為、国は急遽ロマリエを督戦官とし、指揮はベテランのハートランが取る事となった。しかし、所詮は農民の反乱と、その時は誰もここまで鎮圧に苦戦するとは思ていなかった。


「今、指揮は、誰が取ってるか!」


「わかりません!」


息を吐きながらロマリエが確認を取る。しかし、この混戦の中で戦況を把握できている者は誰も居ない、そして反乱軍もまともな指揮が行われていない為に双方引き際が掴めず完全な消耗戦となっていた。


「一旦引くことは出来るか?」


「この状況では無理です!」


今や完全に敵味方が入り乱れている。この中で退却をする事は至難の業である。更には、引くことで相手に勢いを与える事になるかもしれない。今の状況ではそれは致命傷になりかねなかった。


「よし、ならば突っ切るしかあるまい。突破だ!敵を突き破れ!」


「声を上げろ!突破だ!突破するぞ!」


部隊長はすぐに反応する。そして、周囲にいた兵士達も同時に時の声を上げる。


「突き破れ~~~!」


「「「「おおおおおおお~~~~~」」」」


ロマリエ達の声に反応し、更に周囲にいた兵士達が声を上げる。

そして、一丸になり強引に中央突破を行う。そして、その事で反乱軍の主体となる農民たちが尻込みをした。正に混戦となっているが為、自分達が負けているかの様な錯覚に陥ったのであった。


「う、うわ~~~」


慌てて後方へと下がろうとする農民兵が後方にいる兵士とぶつかる。又、背を向ける事により容易く討ち取られていく。このロマリエの咄嗟の判断が幸いして彼らは僅差で勝ちを拾ったのだった。


「う~~ロマリエすまん、不覚を取ったわ」


兜を失い、全身を血に染めた男が兵士達を掻き分け、本陣へと歩いてくる。その男を見て兵士達が歓声を上げた。


「おお!ハートラン将軍、無事でありましたか」


ロマリエも表情を一変させ笑顔でハートランを出迎えた。

お互いの無事を喜びながらもロマリエはハートランの姿に驚きを隠せない。


「よく御無事で、討死されたとの報告もあり心配しておりました。それにしても、それは返り血ですかな?」


「うむ、不覚にも馬をやられてな、とても馬を探して騎乗するなど無理であったわ。もっとも、そこからは手当たり次第に敵を屠ったが、まぁ指揮官としては失格じゃな。陛下に謝罪申し上げねば」


「それは私も同様です。たかが農民の反乱と侮っておりました」


自分も危うく討ち取られかけた事を思い出し、ロマリエは己の油断を再認識していた。


「いや、ロマリエ殿。此度の反乱は農民どもと言うには少々疑問に思うぞ。部下どもに死んでいる者達の検分をさせておる。さてさて、どの様な結果が出るやら」


ハートランの言葉に、ロマリエは驚きの表情を浮かべた。自身でも他国の関与など考えはしたが、配下の者からはそのような情報は入っていない。その為、裏は無いと判断していた。そして、その旨をハートランに説明する。しかし、ハートランの意見は異なっているようであった。


「なに、戦っておって感じたのだが少々装備が良すぎる。あわせて一部にとても農民とは思えん者達が混じっておった。まぁ儂の感でしかないが他国の者ではないな」


「それは!」


「何、死んだ者達を調べれば何か解るじゃろう。ロマリエ殿は警戒を厳にしてここで陣を敷いてくだされ。儂はもう少し暴れてくる。なにせ不完全燃焼じゃ」


そう告げるとハートランは部下が連れてきた騎馬に騎乗し走り出した。


「掃討戦じゃ!国に逆らった者達の末路を知らしめよ!」


ハートランに従い、次々に騎馬が走り始める。ハートランの配下の者達は明らかにこの展開を予想していた様だった。ロマリエは追撃はハートランに任せ、自分の配下に死者の確認を指示する。


「紛れ込んでいた者、もしくは扇動した者の情報を改めて集めよ!併せて死んだ者達より何か証拠となるものを見つけよ!」


それぞれに動き出す配下を見ながら、ロマリエはこの度の反乱における背後へと思いを馳せる。


「今わざわざ国内に反乱を起こす理由か・・・ここ最近の事と言えば農業試験場ぐらいしか大きな動きは無いが、利権か?」


国内の事はビルジットに依存している為これ以上考えても意味が無いと、ロマリエは判断をとりあえず見送る事としたのだった。

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