1-59:78年目の秋です
実りの秋が来ましたよ~の樹です。
普通ならみんなが笑顔の秋なのですが、今年はなんだか不穏です!
人族ってなんであんなに争いが好きなのでしょう?
もはや朧げに残っている前世の記憶でも、いつもどこかで戦争をしていたような?
何かと言いますと、鬼っ子達の村に後から来た人族が戦争を仕掛けました。
本当に何を考えているのでしょう?
確かに、数は人族の方が多いのですが、それも2倍には届かない差しか無いです。
そして、見るからに身体能力が・・・何かもう憐れと言いますかなんと言いますか。
結局一方的に負けて自分達の居留地に逃げ帰りましたよ?
勿論鬼っ子達にも被害は出たのですけど、ほら、木の実がありますから。
怪我した人が木の実を食べればあら不思議!あっという間に怪我が消えます!
人族はそんな訳にはいきませんから、結局攻めてきた人の3分の1近くがお亡くなりになったのではないでしょうか?面倒だからと鬼っ子達は別に追撃しなかったのにこんな感じでしたから、もう人族さんの居留地は今も大混乱なのです。
森にいた動物さん達が、腐らせるのは勿体ないからってお亡くなりになった方をお持ち帰りしていました。
でも、ハッキリ言って美味しくないそうです。他に美味しい生き物がいるのに何でこんなの食べないといけないの?っとちょっとお怒り気味です。
一通りの状況をわたしも森の中から眺めていたのですが、人族さんって本当に往生際が悪いと言いますか、何を思ったのかその後わたしの大事な森に火をつけようとしたんですよ!もうプンプン物です!
でも、普通に考えて別に乾燥している時期でもないですし、うちの子達は水を出せますから燃える訳がないのですよ?それでも、火付けは磔獄門ですよね?御用なのです!
鬼っ子達はこれ以上攻める気は無いようですので此処からは動物さん達のターンなのです。
住処に対してのこの暴挙!これは許せないと皆さんお怒りで、動物さん達一同も集団を作ろうとしました。
そうなんです、作ろうとはしたんですよ?そのまま頑張ってくれれば良かったのですよ?
でも、今回の事は流石に森に住む皆が怒りだったのです。特にうちの子供達が・・・。
そして、今森に軍靴の音が響き渡るのです!
ハッキリ言って聞きたくなかったですっていうか見たくなかったです。
今まで子供達が人型木の実さんを作れるとは知りませんでしたよ?作れるのは私だけだと安心していました。それなのに、知りたくなかったです。年長の子供達がわたしと同じような実力を持っているだなんて。
わたしの地位がどんどん下がって行くではないですか!
更にはわたしにも人型木の実さんを作れと指示が飛んで来たんです。わたし最初は抵抗していたんですよ?争いからは何も生まれませんよ?汝の隣人を愛せよとお釈迦様が言いましたよ?と説得をしようとしていたんですが・・・お釈迦様って誰?って思念が飛んできました。
ええ!そうですよ、勿論説明できませんでしたよ!
わたしに何を期待してるんですか?お釈迦様なんてお会いした事無いですから!
結局、皆さん頭に血が上ってしまってまして、わたしの抵抗虚しく人型木の実を作らされてしまったのです。
そして、その結果がこの眼前に広がる光景となるのです。うう、夢に出そうです。
ふふふ、ファンタジーってどこへ遊びに行っちゃったのでしょう?
もう帰って来てはくれないのでしょうか?かつて怪物を作ってしまったフランケンシュタイナーさん?の気持ちが何となく解ります。
もう自分でどうこう出来る線を遥かに超えちゃったんですよね~。
わたしの作った人型木の実さんが、何か演説しているっぽいのです。口がないから声は出てないですけど。
それにしても、身振り手振りで何かやってるんですけどあんなに激しく動いてなぜ捥げないのでしょう?
おお!今の人型木の実さん、何となく気持ちが揺さぶられる動作をしています!段々と格好よく見えてきました!
どこであんな動作を覚えてくるのでしょう?
更には、気のせいなのでしょうがシュプレヒコールが聞こえてくるように感じます。
はっ!あ、危ないです!これは一種の催眠術ですね!
バッドステータスで混乱が付きそうな?
そんな事を思っていたら、ザッザッザッと規則正しい音が聞こえ始めました。
んんん?あ、外周から人型木の実さん達が順番に森の中へと進みだし始めました。
いってらっしゃ~~い、帰ってこなくて良いですからね~。
わたしは思いっきり激励の言葉と共にお見送りしました。
◆◆◆
森の中は不自然なくらい静けさが広がっていた。
ゾットル達は、今森の中で何かが起きている事に気が付いた。
まるで、森全体が一つの生き物の様に動き出したように感じた。
ゾットルは村に住む者達に、今夜は決して家から出ない様に指示を出した。村の周囲を警戒する者達にも、何があっても柵の外へと出る事は禁止し、篝火を惜しまず焚かせるように指示を出した。
「トールズ、感じるか?」
「ああ、これはすごいな、森全体が怒りに溢れている。こりゃ、あいつら明日には全滅してるぞ」
幸いなことにトールズにはこの怒りの向いている先を感じ取る事が出来た。
村の中にも同様に、森の意思に近いところまで感じ取る事が出来る者達が居た。この為、この怒りが自分達に向かわない様に、ただ静かに遣り過ごす事にしたのだった。
「しかし、馬鹿な事をしたもんだな、あいつら魔の森へ火を付けて何がしたかったのだ?」
「さて?」
小屋の窓から外を見ると、炎の向こうで何かがチラチラと蠢いているような気がしてくる。
ゾットル達は背中を駆け上がってくる冷気を振り払うように身震いし、窓の戸板を下すのだった。