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1-57:78年目の春です

梅の次は桜の花が見所の樹です!

気温も次第に暖かさを増して来ています。冬眠に入っていた動物さん達もすでに活動を始めていますね~

動物さん以外にも、なんか人族の居留地他が大騒ぎしています。そんなに春が嬉しいのでしょうか?


それにしても、増えすぎですね~なんかもう見ただけでは何人の人族が集まっているか解りませんね!

今年の秋はこれだけの人数分の木の実を作らないといけないのでしょうか?

何か考えるだけで億劫になっちゃいますよ!それも、どちらの木の実かと言えば自発的に食べられてくれる木の実さんの方が良いですよね?


う~~ん、この数の人型木の実さんの行軍ですか、見たくないですよね?わたしだって見たくないです!

これは何か別の方法を考えないといけませんね。

しかし、今までわたしが考えて良い結果を生んだことはあったでしょうか?

むむむ、でも悪い結果も無いですよね?そもそも良い結果ってどんな結果の事を言うのでしょう?


そう考えればわたしの判断で間違いが無いと言う事ですよね?

むぅ、誰も肯定してくれませんね、否定もありませんが。

とにかく、人族が自主的に食べてみたくなる木の実ですね?


そうすると、やはりわたしのもう一つの特技である香りですね!

思わず食べてしまいたくなる甘い香りなんてどうでしょう?桃とか、林檎とか・・・あれ?林檎って匂いありましたっけ?桃は何となくイメージありますけど。匂いのある果物だと、あとはバナナが印象に残ってます。

苺も匂いがあったような、無かったような?

人の記憶とはここまで曖昧な物だったのですね。


それでも、ドリアンだけは作ってはいけないと流石の私も解っています!

もっともドリアンの香りって嗅いだ事無いですけど、普通の人は無いですよね?噂に聞くほど臭いのでしたら最初に食べた人ってよっぽど飢えていたんでしょうね。


とにかく、わたしの一番好きだと言っても良い桃の実を試しに作ってみます!

香りも豊潤です、思わず食べてしまいたくなる濃厚な香りです!

じゅるるる、思わず涎が出ちゃいますね!

え?もちろん自分でじゅるるるも言ってるというか思ってますよ?

だって口がないのに涎が出るわけないじゃないですか!


そんな事を思っていると、おお!森からさっそく動物さん達が此方へ向かって走ってきますね。

主に狼さんが多いのは、やっぱりお鼻が良いからなのでしょう。

木の実の成っている枝の下でうろうろし始めました。


ほ~~ら、美味しそうでしょう!どうですか、食べたいですか?至高の味なのですよ!


続々と枝の下に集まる動物さん達を見て、思わず思ってしまいますよね!


ほ~~ほほほ、頭が高いですわ!平伏しなさい!請い従いなさい!下僕どもよ!

何か見ている内にわたしのテンションMAXですよ?禁断の扉が開くのですよ!


チョン!ボトッ。チョン!ボトッ。


ん?何の音ですか?

わたしが視線を音の発生源へと向けると・・・ノ~~~!駄目ですよ!角付ツグミさんや角付啄木鳥さん達が勝手にわたしの木の実を落しています。

駄目ですよ!駄目なんです!その木の実はわたしの社会的地位向上に必要なんです!

安易にあげても良い木の実とはぜんぜん違うのです!ピンとキリくらい違いがあるのです!


え?製造方法ですか?もちろん一緒ですよ?

木の実を作る労力ですか?対して変わりませんよ?

それだと何が違うのかですか?何を言ってるのですか!桃ですよ桃!高級品ですよ!

ましてやわたしの希望と欲望、願望が思いっきり詰まっているんですよ!


・・・・おや?みなさん先程までのテンションが何か下がっていませんか?

どうしたのでしょう?でも、気が付いたら枝に有った木の実が全て落されていました。

むぅ、これは木の実を作った後の事を考えないといけませんね!


◆◆◆


春にやってきた避難民達は、今まさに出身地毎に分裂し居住を始めていた。

当初、避難民の代表と名乗る男達が一応名目的には領主であるゾットルの下へ挨拶に訪れた。

しかし、彼らは村に入りその住民たちの状況を見て明らかに表情に怯えの色を滲ませていた。

そして、それこそ挨拶を済ませると早々に自分達の居留地へと引き上げていった。

その後この村の者達が森へと訪れると、そこには避難民達の姿を幾度となく見るようになった。


「どうだ、森の様子は?」


「今の所これといった問題は発生しておりません。移民達も前の居留地後に井戸がありましたから、当面の食料などを森へ入ることで凌いでいるとの事です」


「それで、どうなの?彼らだけで生活は続けられそう?」


「無理でしょうね、今はいくつかの集団に分かれて生活を始めた様ですが何にせよ集団の人数が多すぎます。森に入って食料を探そうにもって所ですね」


「すでに魔物を狩ろうとして返り討ちに合った者達も出始めています。死者もそこそこいる様です」


「そう、子供もある程度の人数いるのが確認されているわ、子供達がもし口減らしなどに合う様なら保護するようにしてくださいね」


いつの間にか難民対策の担当者にされていたミレーヌが情報を纏め、気になる点に対しては指示を出している。もっとも、責任者であるゾットルは自分達の村を整備する事に注力し、トールズはいつの間にか自称領主軍を勝手に組織し指揮している。そしてミレーヌの夫達もその領主軍に在籍していた。


「解りました。それと一部不穏な気配も感じられるようです」


「不穏な気配ですか?」


「はい、避難民の中心になっている者の一人にどうも神官がいるようです。その者が中心となり我々の事を魔族だ何だと非難しているとの事です。何より総数では彼らの方が多いですから、我々を滅ぼせと扇動しているみたいですね。今後より生活に不安を感じる者達が増えてくればどうなるか解りません」


「まぁ攻めてこられても今の我々には勝てないだろう。ただ、あまり彼らと敵対すると本国にどう伝わるかが怖いが」


「一応、本国に状況を伝えたいのですが何せ今では全員角が付いちゃってますから」


会議室にいる面々の額には形や大きさの大小はあれど、全員に等しく角が生えていた。そして、この角の御蔭で言葉だけでなくそれぞれが何を思っているのかが何となく伝わってくる。そして、これの御蔭で疑心暗鬼にならないで済んでいるとも言えた。


「とにかく、避難民の中にこちら側の協力者を作りたいですね」


ミレーヌの言葉に全員が頷いた。


「神樹の実を食べさせれば一発でこっちの仲間になるだろうが、そうすると角が生えちゃうからなぁ」


「巫女様のように耳の形状が少し変わるくらいの者が出ると良いのですが」


「巫女様以外誰一人いないのですから巫女様が特別なのでしょう」


「暗礁に乗り上げておりますな」


その言葉に今度は全員が溜息を吐いたのだった。

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