1-52:76年目の冬真っ只中
こんこんこんこんってふふ、騙されましたね!雪は降っていませんよ?
この地ではそもそもあまり雪は見ないのです!比較的温かいのです!
という事で、樹です~~まだ冬眠出来てなくて悲しい樹です~~
そもそもなのですが、初冬にわたしの子供達が人族に虐殺されたのです!事件なのです!
人型木の実が次第に数を減らしていくのは感じてましたよ?で、ちかくにあった子供の木から眺めたのですが、天幕から出てきた人が数個残っている木の実を見つけ次第切り殺しはじめたのよね。
人族が必死に人型木の実を狩る姿を見て、そりゃあんなの食べたくないよね~わたしだって絶対嫌だわ、あれ食べたら吐くわね!と呑気に眺めてたんですよね。
そうしたら、わたしの視線と人型木の実の視線?が重なっちゃってまぁその、なんというかこれ助けを求めてるのかな?って思ったのです。決して一瞬わたし今呪いに掛かった?呪われた?そんな事無いよね?
と心配になった訳ではないですよ?
その後、人型木の実は全滅しちゃいました。全滅してほっとしたのでは?駄目ですよそれを言っては!
親の威厳と言うか、面子の問題もあるのです!
え?突然なにを言い出すのかですか?だって、森にいる子供達が白い目で見るんですよ?
非難するような視線がビシバシ飛んでくるんです!
人族もある意味仕方がないのではと思うのです。正当防衛なんだと頭では理解できますよ?ついでに心でも理解できますよ?でも、世論に負けちゃうんです、非難の視線が辛いのです!これが政治の世界なのです!
え?何言ってるんだ?わたし達はそんな事言ってないぞ?
え~~それじゃあなんでわたしをそんなに白い目で見るの?
馬鹿な物をもう作るなですか?馬鹿な物とは酷いです!あれは貴方達の兄弟ですよ!差別はいけませんよ?
兄弟は仲良くしないとダメなのです。
わたしが、子供達をお説教しようとしたのです。すると、徐に子供達が何か言い出し始めました。
え?うん、確かに私達は動けませんよね?樹ですもんね、動けたら可笑しいですよね?
だから無闇に敵を作っちゃいけませんですか?そうですね、理解できますよ?
今回の事で人族が敵になるかもしれないですか?なぜでしょう?進化出来るのですよ?
ほら、エルフとか鬼族とか何か憧れますよね?格好よくなるのに、なぜ敵対するのですか?
って冗談です!ごめんなさい!解ってます、調子に乗りました!
う~~ホラーやスプラッタ映像をこっちに送るの止めてください、マジ泣きしますよ?
え?これ人族の居留地で実際にあった映像ですか?・・・・確かに人型木の実さんが写ってますね。
でも、これはまぁ素でホラーですよね?
怖いわぁ、今日も夢に見そうです。え?今まで夢に見た事あるのかですか?
ありますよ!え~~っと、あ、ありましたよ?あったかな?あった気がする?と、とにかく無闇に恨みを買うのは良くないですよねっという事で何とかしなくちゃですよね?
え?何とかするから手を出すなですか?
う~~~ん、まぁいいか、それならわたしは寝てますね。
◆◆◆
トールズは一連の報告を聞き、この宿営地においての当面の危機は去ったと判断をした。
しかし、これであの訳のわからない魔物が今後来ないとは思えなかった。
その為、この宿営地における防御力を早急に高める方法を考えないといけない現状に頭を抱えていた。
「せめてネズミ返しを付けた高床式の屋敷でも造るか?」
「何を馬鹿な事を言ってるんですか、そもそも、森を伐採出来ないのですから却下です」
「それだよ、本当に伐採出来ないのか?」
「さぁ?ただ、あまり試したくは無いですね。自分の命がそこに掛かっているのですから」
トールズは副官の顔を見返して、また溜息を吐いた。そんな彼らの下に昼食が届けられた。
「まったく、しかしこのままではおちおち寝られもしないぞ?魔物の侵入を防ぐ壁は必要だよな?周辺から岩を運び込むにも岩がありそうな所が遠すぎて話にならん」
ぶつぶつとトールズは呟く、そして、テーブルに並べられた食事へと視線を向けた。
「ほう、今日はシチューか、お?気前よく肉が入っているな」
「はい、サナエルがホーンラビットを仕留めましたので、司令官に優先的にお入れしています」
「魔物の肉か!おい魔物を狩っても問題ないのか?」
「こちらの食料にするくらいの狩なら問題ないそうです。この居留地でも罠を使った狩はしていたようでした。あと、魔物の肉は食べても問題ない事は確認済みだそうです」
報告には頷いたものの、トールズは今一つ乗り気になれず食べるのを辞めようかとも思った。しかし、その後、今回の派遣部隊において毒見済みとの言葉にようやく口を付けた。
「ふむ、味は普通の兎と大きく変わらないな。予想より遥かに美味い」
そう感想を返しながら、それでも食事を食べる手を休めることなく全ての食事を平らげた。
「最後についていた果物の砂糖煮は上手かったな。あれはなんだ、林檎か?」
「あ、あれは美味しかったですね、林檎なんて本国でも滅多に食べられませんよ?」
「そういえば森の手前に林檎の木が植えられてました」
「サナエルが持ってきた料理らしいですよ?遠征部隊全員に配布したそうです」
テントにいる面々がそれぞれに感想を述べている。しかし、最後の一人が行った発言によって静寂が訪れたのだった。
「だ、大丈夫だよな?」
ざわめきがテントの中に広がり始めた。そして、トールズ自身も冷や汗が流れるのを感じた。
「林檎の木に遠征軍全員に振る舞えるくらいの数の林檎が成るのか?」
「申し訳ありません。わたしでは解りかねる為サナエルを探してまいります」
副官がそう告げて立ち上がろうとした。しかし、急激に動いたからなのかバランスを崩し地面の上に倒れ込んだ。そして、その後次々と不調を訴え始める。
「くそ、あの木の実か?サナエルを呼べ!」
そう叫ぶトールズ自身も地面へと倒れ込む事になる。その額からは玉のような汗が流れ始めている。
そして、全員が地面へと倒れ、高熱を発し始めた頃、サナエルと子供達が介護用の道具を持ってテントへと現れた。そして、倒れているトールズ達へと視線を飛ばすのだがその顔には一切の表情が無くなっていた。
それは、子供達も同様であった。
「すべては神樹様の為に」
「「「すべては神樹様の為に」」」
サナエルの呟きに子供達が唱和するのだった。
ホラーって、助かった!と思った後に次の罠がありますよね?
一応意図的に人型木の実さんは全滅させたんですけど、サナエルさん達をどうホラー仕立てにするかで苦労しました。
で、書いてからホラー目指す必要ないんじゃないかっていうかそもそもファンタジーどこ行った?と思ってしまいました・・・