1-41:75年目の秋です~~(2)
ホ~~ホッホッホ、平伏しなさい下僕ども!
ん?あ、樹です!秋の実りを我が下僕どもに下げ与えている慈悲深い樹ですよ!
さぁ、わたしの豊潤で、甘みたっぷりの果実が欲しくば平伏すのですよ~~~!
例年の冬籠りの準備においても、わたしに成る実は人気抜群なのです!
もう取り合い必須なのですよ!おかげで何度も何度も実を成らさないといけないのです。
しかし、しかしですよ!わたしは気がついたのです!
これは売り手市場なのではないですか?
需要に対して供給が間に合ってないのです、であれば高値で販売してもまったく問題ないのです。
それなのに、毎年毎年なんで蹴られながら、突っつかれながら必死に実を提供しないといけないのでしょう?
しかも、こちらの希望する人族に提供してその効果を実験する事すら出来ません。
みんなが勝手に自分の巣に貯めこんで、ましてやリスさんなど食べずに腐らせるんですよ!
酷いと思いませんか?
という事でわたしは遂に反旗を翻したのです!
さぁ、わたしの実が欲しければ平伏すのです、靴を舐めるのです!誰が主人か今こそ自覚する時なのです!
なんかそんな事を言ってるうちに気分もどんどん乗ってきます!
こ、これはわたしの時代がくるのではないでしょうか?
ニヤニヤと心の中で悦に入っていると、先程から足元でガシガシとわたしを蹴りつけていたウサギさんが、ついに諦めた様です。
だてにわたしだって75年も生きていないのです!
根も幹も枝振りだってかつてのような脆弱なものではないのです!
そのような軟弱な攻撃などすでにわたしには・・・・あれ?
え~~っと、ウサギさん?なんっていうかちょっと真剣なお顔をしすぎではないですか?
ほら、まるで闘牛さんみたいに入念に蹴り足の準備をしてませんか?
わたしが、ウサギさんに注意した瞬間、すっごい音が鳴り響きました!
うわ~~~~ん、ちょっと!まじ何考えているんですか!わたしが倒れたらどうするんですか!
え?樹のくせに生意気だったからやった?後悔はしていない?
あなた何処の俺様ですか!
こうなったら全面戦争ですよ!フェロモン全開です!必殺の匂い攻撃です!
もうこうなったら自爆も覚悟なのです!
お、お前達にわたしの木の実を分けてなんかやるもんか~~~!
いいんだもん!わたしはわたしで生きていくもん!
わたし全体から強めの柑橘系の匂いが立ち上ります。
すると、周りにいた動物達が一斉に飛びのきました。
人間の嗅覚の数千倍はあると言われてる動物達にとって、今まさにこの場所は立ち入り不可能な場所になったのです!
ふん!ウサギさんや動物さん何か大っ嫌いだ~~~!
わたしはそう告げると、匂いを出したまま不貞寝を決め込みました。
◆◆◆
森の中を慎重に探索するゾットル達は、森の奥から不思議な香りが流れてくる事に気が付いた。
それは、ここ数ヶ月の間行われていた調査では一切報告に上がって来ていない状況であった。
「これは、ミカンみたいな匂いだな?季節的に言っても、この森であれば尚更不思議ではない状況なのだろうが、どうだ、さらに奥まで探索を進めるか?」
「そうだな、危険だとは思うが行ってみるか」
ゾットル達は、慎重に森の奥へと移動を始めた。
先日のフランツ軍との戦いにおいても、ゾットル達はそれぞれ自分達の状況分析を進めていた。
そして、この魔の森について幾つかの推論を立てるに至っている。
「どうだ?魔物の様子に変化はあるか?」
「いや、先程遠目にだが魔物らしい集団を見かけたが、こちらを気にした様子はない」
「気が付かれていないとかではないよな?」
「こちらが風上だからそれは無いな。ただ、狼の魔物がやたら鼻を気にしているような素振りを見せていた。もしかするとこの香りが嫌いなのかもしれん」
サバラスの言葉にゾットルはこの事が今後に活用できるかどうか頭の中で考え始めた。
そして、二人が更に森の奥へと進んでいくと、香りは更に強くなってくる。
「香りに関係が有るかは解らんが、やはりこちらが集団でなければ魔物もこちらを気にしない様だな」
「ああ、しかし香りの御蔭かもしれんがな。ただ、これはキツイな、俺でも気分が悪くなってくるぞ」
サバラスは顔を顰め、手拭いを取り出して口と鼻を覆う様に縛り付けた。
二人が更に森の奥へと進むと、次第に森の奥に明かりが差し始めている事に気が付く。
「どうやら森を抜けるようだな。周囲を警戒しながら進もう」
そして、周囲の状況を確認しながら更に慎重に進む。
そして森を抜けた時、二人の眼前に10メートルを超える高さの巨大な樹が聳え立つのが見えた。
流石に天に届くかなどと言う程大きい訳ではない。しかし、探索者として生きてきた二人にはこの樹がただの樹とは思えなかった。
又、見る限り魔物すら近づく事が出来ないのかその足元には見た事も無い木の実が無数に転がっている。
「す、すごい!」
「・・・・・・神樹・・・」
明らかにその樹より強い香りが放たれていた。
しかし、香りすら気にならなくなる程の圧倒するほどの存在感。二人はただ呆然とその樹を見つめるのだった。