1-33:74年目初夏ですよ
きょろきょろ、ハッ!あ、樹です!先頃強制退場させられた樹です!
気分ワクワクの春だったはずなのに、あまりに蔑ろにされる立場に落ち込んでいた樹ですよ!
せっかくの初夏がきたのに気分は真冬に逆戻りです!
そして、こんな時はとアロマを始めたのです!
ほら、先日嗅覚を身につけましたから、それから色々な香りを出して楽しんでいるんです。
生前はラベンダーが気持ちを落ち着けるから良いと言われましたのでラベンダーっぽい香りを作ってみたり。
柑橘系はなんとなくワクワクしますし、以前失敗した檜だって単体では良い香りです。
でも不思議ですよね、匂い、臭い、香り、元は同じものを指しているのに感じ方で言い方や文字が変わりますよね。香りって聞くとなんか良い匂いを想像しますよね?
でも残念ながら子供を香りで惹きつけよう作戦は頓挫しちゃってます。
まず第一に人族さん達が大きく場所を移動されちゃいました。
それでも最初の場所から森に沿って約1日くらいかな?なので問題はないのですが、新しい拠点は森から人族さん基準で徒歩一時間くらいの場所へと離して作られてます。
むぅぅ、何かあったのでしょうか?
やっぱり多くの人が亡くなった場所ですし、もしかして幽霊とか出たのでしょうか?
この世界だと普通に出そうですよね幽霊って、ほらレイスって言うのでしたっけ?あとゾンビなんかも居そうで嫌ですよね。わたしホラー駄目なんですよ?夜一人でトイレに行けなくなっちゃいます!
ってわたしトイレ行かなくても良い体になったのでした。
これはある意味便利ですよね!でも、木や植物が排出するする物って酸素ですよね?ふと思ったのですけど、酸素って植物の排泄物ですか?・・・あ、駄目です、考えちゃ駄目な気がしますね。
とにかく子供達が森に来てくれなくなったので、湖のエルフっ子や鬼っ子を見に行きます。
相変わらずこちらの子供達は元気です。
なにせ親狼さんが一生懸命育ててますからね。何でしょう、狼が子供育てるのってあちらでは嘘だったはずですよね?それなのにこちらの狼さんは結構本気で子育てしてますね。
子狼はすでに親に負けじと大きくなっています。成長が早いですね。
で、子狼達もまるで出来の悪い兄弟のように鬼っ子達を鍛えてます。
でも子供にしては走るの異常に早くないですか?あと、全速力になると何で四足になるのでしょう?
それって本来遅くなりませんか?え?ならないですか?そうですか、何か常識ってどこかに行っちゃいましたね。
エルフっ子も何か子供の動きを超えてませんか?力は鬼っ子の方が強いみたいですけど瞬発力は圧倒してますよね?人族はそんなに高く飛び上がれませんよ?
なにか人類から逸脱しちゃいましたね、まぁ人族で無くなっているのでそんな物なのでしょうか?
でも、あなた達いい加減に文明を思い出すべきだと思いますけど、家は屋根があれば良いだけではないと思いますよ?木の上に葉っぱ敷き詰めて、下はわたしのモコモコ敷いてるだけですよね?
せめて風対策はした方が良いと思いますよ?野生に戻りすぎです。
最近言葉を話すの聞いてないですから、唸り声や遠吠えは言葉じゃないですよ?
困りました、あの子達に文明という物をどうにか教えないといけません。
だって・・・・そろそろ服が駄目になりそうです。このままだと裸族ですよ?
動物は毛皮があるから良いのですが、人はそうは行きません。怪我とか、寄生虫とか、色々問題がありますからね。誰か適任はいないのでしょうか?
オオワシさんは・・・駄目ですね。そもそも服の概念あるのでしょうか?狼さんも大型猫さんも同様です。
だって、みなさんご自身で上等な服をお持ちですからね、それこそ季節で入れ替えされてますし。
まぁ動物に服を着せるって発想はそもそも人族くらいでしょうからね。
これは真剣に困りました。どうしましょうか?
◆◆◆
ゲーリックは今の状況に悩んでいた。
先日の森での探索にて、子供達が感じた何かを図りかねていたのだ。
森へと行かなくなった子供達は、その後は特に何かを感じることはなかった。しかし、妻達の意見も合わせてとりあえず場所を移動する事にした。
これは、そもそも予定されていたことではあった。この場所は軍隊の野営地に選ばれた事でも判るように、今後本国などから軍隊を送られた場合真っ先に訪れる場所であろう。そして、自分達は逃亡者である。
いくら飢え死にしそうだからと言っても自国の農地を捨てた、この事実は覆すことは出来ない。
それ故に可能な限りこの場所から離れるほうが良いとの意見は前からあったにはあったのだ。
それが中々出来なかったのは、よりにもよってこの場所に水源らしきものがあり、井戸を掘れば実際に水が出たことに起因する。そして、水士によって今現在も探索を続けているが程よい場所に水源らしき物は見つかっていない。
「ゲーリック!ここから東へ行った所に水源があったぞ!」
「ほんとうか!」
「ああ、今トスカさんが試掘を始めてる。そして、土に湿り気があるから問題なくいけるだろうと」
「よし、ボリス、移動の準備だ。修復した馬車に荷物を積んでくれ」
「わかった!」
ボリスにあわせてゲーリックも移動の準備に取り掛かった。軍隊が残した無事な馬車があったのは幸いだった。もっとも馬などいないため皆で押す事にはなるが、それでも其々が手に持って移動するよりは良いだろう。とにかく、場所を定めない事には生活もままならない。そして、女性達が先日より精神的に過敏になっているのも気になる。
「手に入れた食料をまず積んでくれ。毛布なども忘れるなよ、冬が過ぎたとはいえ今後手に入る可能性は低いぞ!」
ボリスの声が聞こえる。そうだな、まず生きていく為の土台を作らなければ。その為にも少しでも安全な場所が欲しい。