1-32:74年目の春まだつづく
誤字、誤文訂正しました。ご指摘ありがとうございます。
こんにちは~梅も咲き、桜もそろそろ待ち遠しい春ですよ~
樹もまだまだ春の陽気に浮かれてます。
え?ちょっとまってください、今回の出番はこれだけですか?
え?ちょっと、そんな時鳥のように時を告げるだけですか?
思わず鳴いちゃいますよ!
ホ~~~ホケキョ!ケキョケキョです!
◆◆◆
ビルジットは目の前に広がる光景を感動と共に眺めていた。
幾度となく夢見た緑溢れる光景が目の前に広がっていたのだ。
ロマリエの報告後、まず行ったのは春以降に向けての対策であった。
すでに冬を迎え、今から新たに作物を育てる為に貴重な木を危険に晒す訳にはいかない。
その為、まず第一に行ったのは木を枯らすことなく育てるための温度管理であった。
そして、どうにか冬を越す事ができたと判断してからは、今年に作付けする為の苗作りであった。
そして、この苗作りにおいてその中心には新たに大きな鉢へと植え替えられた一メートルくらいに育った木であった。
当初、この実験に参加した研究者たちは半信半疑の者はまだよい方で、明らかに疑いの目、又は狂人を見る目でビルジットやロマリエを見てくるもの達が多数いた。
しかし、その者達もその後に苗が育つ様子を見るにつけ表情を変化させていった。
そして、今ビルジットの視線の先には青々とした稲が埋め尽くす田んぼが広がっていたのだった。
「いかがですか?宰相殿」
ロマリエの言葉に、ビルジットは表情を緩める。
「すばらしい、これ程の光景を見たのはいつ以来でしょうか」
その言葉にロマリエも表情を緩めるのだった。
そして、次にロマリエは麦畑へと案内をする。そして、そこにも同様に元気に育つ麦の苗が姿を見せる。
「おおお」
ビルジットは言葉にならない感動を、思わず口から漏らす。
「まだこの王室実験農場でしか成果は出せておりません。一部外部にて作付けした物は、すでに元気を失い始めております」
「それでは、この畑との違いはなんなのです?」
王室実験農場と謳ってはいても、こことて王国の普通の土地でしかない。新たな腐葉土や肥料、環境に耐える品種交配などの試験を行う為に国が確保しているだけの土地でしかないのだ。特に他の農地より優れている点などない事をビルジットは知っていた。
「はい、一日おきに神樹の置く場所を換えながら、この農場全体を循環させています」
「なんと!神樹をそんなに頻繁に移動させているのですか!」
ロマリエの言葉にビルジットは驚きと共に不安を感じた。
「それは、神樹に悪影響は齎さないのでしょうか?」
「それは、判らないとしかお答えできません。ただ、あの神樹の生命力はとても強い。そして、成長速度が異常に早い。この為、今しかおそらくこの方法は試すことが出来ないと思われます。それ故に私が許可を出しました」
ロマリエの言葉に、ビルジットはすでに受けている神樹の成長度合いの報告に意識を向けた。冬に発芽してすでに一メートルを超える大きさとなっている。おそらく今年の秋には二メートルの大きさにはなるだろうとの予測も出来ていた。今、開拓省のメンバーによってこの神樹の増産方法が研究されようとしていた。しかし、下手なことをして枯らせてしまう事を恐れ、接木などの方法は今のところ見送られていた。
今のところはまず秋に実をつけるかどうか、ここまで成長が早ければ一年目にして実を付ける事もあるのではないかと期待を寄せているのだった。
「ある意味仕方がないとはいえ、神樹をいつ植樹するか、その場所をどこにするか、それも悩みどころですから」
その言葉にビルジットは頷く。そして、更に今行われている実験の説明が続く。
「それと神樹の傍らに置かれた腐葉土の効果ですが、これもある一定の効果は出ているように思われます。外の畑に植えられた麦においても神樹の傍に置いた腐葉土を与えた物は、弱っていく速度が他に比べ遙かに遅い。更に腐葉土ではなく水においても同様です。そして、その両者を与えた畑においてはさすがに実験農場ほどではありませんが未だに元気に育っています」
「なんと!それでは神樹自体で植物を育てるのではなく肥料や水の生産に特化した方が良いのでしょうか?」
ロマリエの説明にビルジットは思案を巡らす。しかし、どちらにせよたった一本の神樹では出来ることが限られている。
「ところで、神樹の実獲得部隊の編成はいかがとなりました?」
ビルジットの言葉に今までの穏やかな表情とは異なり、ロマリエは苦虫を噛み潰した表情を浮かべた。
「宰相閣下のご命令をすぐに遂行できず申し訳ありません。そして、残念ながらいまだ部隊編成が出来ておりません」
ビルジットはロマリエに鋭い視線を向ける。そして、ロマリエもその視線を真正面から受け止める。
「領地貴族達の介入がありましたか?」
「はい、残念ながら先の探索で神樹を持ち帰った者達と連絡が取れません。おそらく何処かの貴族に拉致されたかと」
「ばかな!彼らは探索者とはいえれっきとした国の役人ですよ!それにまだ神樹の情報はそれ程広まっていないと思われます。それでも拉致されたと判断する理由は?」
「ポートラン公爵領において多数の探索者達が集められております。その中に彼らの姿を見たという情報が入っています」
ポートラン公爵といえば、現国王の実弟であり更には王位継承権第3位保持者でも会った。
そして、今現在も親国王派筆頭として国政に関与している人物である。それ故にロマリエの話をビルジットはすぐに信じる事はできなかった。
「馬鹿なことを、彼がそのように国の利益を阻害する事は考えられません」
「わたしも最初はこの報告を疑いました。しかし、拉致された者たちの家族の行方も共に判らなくなっており、更にはポートラン公の嫡男であるアルバート殿の姿が表に出てきた段階でまず間違いがないと判断しました」
「神童アルバート殿か、即ち彼は迅速な行動が必要と判断したという事ですか」
「はい、そして今日入った報告では明日にも調査隊30名がポートランド領を出発しましす。そして、この中にはアルバート殿も参加される模様です」
「馬鹿な!彼は次期国王になるやもしれないのですよ!」
ビルジットは余りの驚きに言葉を荒げる。そして、慌てた様子でロマリエへと指示を出した。
「急いでこちらも調査隊を出しなさい。そして、最優先でアルバート殿を保護しなさい。彼を絶対に死なせてはなりません!」
ビルジットの指示にロマリエは頷き、またすでにその手配を終えている事を告げた。
そして、部隊を出発させる為の許可を取りに来ていたのだった。
ポートランド公嫡男アルバート、彼は現国王に嫡男がいない現状において王位継承権第2位に定められる人物であった。
忙しいです・・・運転手させられて、雑用させられて、うう、書く時間がなかなか確保できません><