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1-31:74年目の春が来ました

は~るは~うらら~でねむくなる~ポカポカ陽気が嬉しい樹です。

もう日差しが優しいですね、思わず梅の花を咲かせちゃいますよ!

冬眠してた動物達も起きだしてきて、今森の中はご飯を探す動物達で大賑わいです。

春と言えば七草って思いますけどこの世界にはあるのでしょうか?

セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、仏の座、スズナ、スズシロですよね?昔覚えたこういうのって74年経ってもまだ覚えてるのですよね。でも、スズシロが大根以外あとはどんな植物なのか思い浮かびませんが。


という事で、森の中のあちらこちらを見て回りますと、人族の人達も森の中で食べ物探しをしています。

でも、冬に比べてすごくビクビクしてますね?あ、動物さん達に遭遇する事が多いですからね。

でも皆さん気にもされてませんから安全ですよ?

わたしが言っても伝わらないのでしょうけどね。

そんな事を思いながら人族の様子を見ていると、なんと!子供達が一塊になって食べ物さがしをしています。

それも、その先にずんずん行けばわたしの処へと辿り着く一直線コースです!


これは何とかしないといけませんね!


こっちへおいで~~、美味しい実がいっぱいあるよ~作っちゃうよ~

ミツバチさんに蜂蜜だって貰ってあげるよ~

こっちだよ~まっすぐ来ればいいんだよ~


わたしが一所懸命声というか思念を送ります。苔の一念ですよ!

さあ、こっちですよ~こっちに来れば楽になりますよ~


わたしが思念を送っていると、子供達がそわそわしはじめました。

おお、通じているのでしょうか?そうですよね、動物にだって通じてるのですから。


気合が乗ってきたわたしが、更に思念を送ります。


おいで~、おいで~こっちにおいで~


そしたら、子供の一人が母親と思わしき人の所へ走って行きました。

う~ん、ほっそりとされてるんですけど何か生活の疲れを感じさせる女性ですね。

年齢は30代にも40代にも見えますけど、生活の疲れを感じさせるエルフ・・・無ですね。生活の疲れを感じさせる鬼・・・これも無しですね。

だいたい生活臭を漂わせたエルフとかって有り得なくないですか?

こう、森の中に住む妖精のような幻想的な雰囲気を希望します!お人形さんのような雰囲気も可です!

でも、生活臭は駄目です、あと肉食系のエルフも駄目です!そこはやはり譲れませんよね?


そんな事を考えていたら、いつの間にか子供達が大人達に手を引かれて森の外へと向かっています。


あれ?おや?これは、とりあえず子供達の誘導はしっぱいですか?むぅぅまたもや挫折です。

最近は挫折にも慣れてきた気がして怖いです。

でも、それはとにかく置いといて、子供達がしきりに森の奥を見るのですが、心なしか怯えていませんか?

大人達の表情にも何となく余裕が感じられませんね。

大型猫さんでも見たのでしょうか?う~ん、視線の先を辿ってもとくに動物さん達はいませんよ?


とにかく悔しい事にまたもや挫折です。

きっと人族は動物達のように気配や空気を読めないのですね。KYは駄目ですよ!

せっかくわたしが食生活に彩りを添えてあげようと思ったのに!


次に森に子供達が来る時を狙いましょう。

作戦を確実にするには・・・そうです、それこそ美味しそうな匂いを出して誘き寄せるとかどうでしょうか?そして、近くに来たら蔓で縛り上げて口に実を突っ込むとか!

まぁ冗談はともかく、わたし蔓なんか出せませんし、ましてや操るなんて不可能ですしね。

でも匂いはいけそうな気がします。

あとでちょっと試してみましょう。


◆◆◆


春が来て私達は急いで森へと駆け出した。

先日、他の者達が新たに芽吹いた草花を見つけていた。そして、その中には食用になる物、薬草になる物、色々な草花があったそうだ。

春には、冬眠していた生き物が起きだしてくる。そういった生き物は飢えており非常に危険だという事は誰でも知っている。その為、慎重に慎重を重ねて森の中へと入って行った。

当初は、子供達はキャンプへと置いていく予定であったのだが、子供だけの所を魔物に襲われる事を考えると一緒に森へと連れて行った方が良いとの判断を下した。


「どうだ、こっちはそろそろ袋いっぱいになってきたぞ」


ボリスが手に持った袋を掲げながらそう言う。

それは私も同様だった。この森は本当に信じられないくらい豊かだ。


「信じられんな、先日獲った薬草がもう芽を出している。あと2、3日もすればまた採集できそうだぞ」


「こちらも豊作よ、こんな事夢みたい。ねぇ、ここに畑を作れば麦も豊作になるんじゃない?」


皆の中を明るい声が飛び交う。

魔物は確かに怖い、しかし今の所魔物の方から襲われた事は無い。どうやらそこまで凶暴ではないのかもしれない。もちろんそんな甘い考えでいれば危険ではある。それでもこの豊かな地で生きていくしか我々には残されていない。

手を休める事はせず、それでも今後の事をボリス達と話しながら森の中を移動していると、視界の隅にいた子供達の様子が何かおかしい。


「ピーター、どうしたの?」


子供の様子が変な事に気が付いたミレーヌが声を掛ける。

すると、子供達が怯えた様子でそれぞれの親の元へと走ってきた。


「どうした?何かがいたのか?」


ピーターに声を掛けるが何かに怯えた様子で首を振るだけで答えようとしない。


「なんだ?」


途方に暮れる私達に対し、ボリスの子供であるサラが森の奥を指さした。


「何かがこっちへおいでって呼ぶの」


「ん?」


「奥の方から呼ばれるの、こっちへおいでって」


「引っ張られる気がするんだ。こっちへおいでって」


「何かうっすら白いのも見えたの、手招きするの」


子供が口々にそう言い始める。私達は森の奥へと視線を向けるがそこに何かを見る事は無い。


「ボリス、お前は何か感じたか?」


「いや、まったく。しかし、子供達全員だ、気のせいではないだろう」


「まずいな、子供が狙われているのか?」


「かもしれん」


「急いで森を出るぞ!」


大人達は顔を見合わせる。そして、子供達の手をしっかりと握り急いで森の外を目指したのだった。

どの親達の表情も、先程までの明るさは影を潜め、子供達を失うかもしれない恐怖に彩られていた。

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