3-75:イツキちゃんと薬屋さん
こっちの世界で樹に生まれ変わった事による精神的な影響は、とても大きいのだと思うのです。何故なら、病気という物を気にした事が無く100年を過ごしちゃいました。実際に植物でも病気に罹る事はあるのでしょうが、寄生植物さんに栄養を吸われたくらいしか身の危険を感じた事が無かったのです。そして、新たに人として生まれ変わったのですが・・・・・・
「今一つ病気に対する危機感とかが無くなってたのです」
もし異世界に生まれ変わって、中世の世界の様だったら真っ先に心配するのは衣食住なのです。そして、その中には当たり前に病気への対策も含まれると思うんです。だって、医療レベルが低い所で病気になるなんて怖すぎますよね?
という事で、おとうちゃまと薬屋さんへとやって来ました。
「おお、何か独特の匂いなのです」
扉を開いた所でお店の中から独特の匂いが漂ってきました。
「薬草を煎じる薬なんかもあるからね。確かに普段嗅ぐことの無い匂いだ」
成程、行った記憶が無いのですが、漢方薬屋さんとかはこんな感じの匂いがするのでしょうか?
「おや、珍しいね。余程急病者が出たのかと思ったが、そんな雰囲気もないね」
店員さんは如何にもと言ったようなお婆さんではなく、普通に恰幅の良いおばさんでした。もちろん額から角が生えているのです。
「ええ、この子が薬屋に興味があって、一度見てみたいという事なので」
「おや、どうだい? 想像通りだったかい?」
おばさんはミヤニヤしながら此方を眺めます。ただ、その笑いには此方を下に見るような感じは無く、単純に面白がっているだけみたい?
「病気とか怪我は魔法とか、薬草さんで治らないのです?」
おばさんの背後にはいっぱいの引き出しが付いた棚が壁一面に設置されています。その引き出しごとに名前が書かれているので、薬草ってあんなに種類があるのかな?
「そうだねえ、お嬢ちゃんに判りやすく言うと、目に見えた傷何かは治療なんかで治るねぇ。ただ、病気となると種類が多いからね。お嬢ちゃんだって頭が痛い、お腹が痛い、熱が出た、咳が止まらない、色んな病気になるだろ?」
「みんな一緒の薬草さんで治らないのです?」
イツキちゃんがそう尋ねると、おばさんはコロコロと笑います。
「何って説明すれば良いかね。体ってものは段々と慣れて行くんだよ。これは薬に限らず仕事や勉強なんかも同じかね。ただ、これは治療だと問題でね、同じ薬を飲み続けると効かなくなって来るって言ってお嬢ちゃんに判るかな?」
「うん、判った~」
成程成程、要は前世で言う薬に対する免疫的な物なのでしょうか? あまり強い薬を飲み過ぎるのも悪いと言いますからね。そう考えると何でもかんでも薬草さんで済ますのも駄目そうなのです?
「色々とお手間をかけてしまって申し訳ありません。熱さましと咳止めを頂いて宜しいでしょうか?」
「直ぐ使うかい?」
「いえ、用心のために買っておこうかと」
おとうちゃまの言葉におばさんは頷いて、後ろの棚から何種類かのお薬を取り出して混ぜ始めました。
「ほれ、こっちが熱さましでこっちが咳止めだよ。ただ、長持ちすると言っても半年くらいしか効果は無いからね。半年後にまた買いに来ておくれ。ああ、大人は1回一包、子供はその半分だよ。一日2回迄だからね。まあ、そのお嬢ちゃんは必要なさそうだけどね」
おばさんはイツキちゃんに向かってウインクしながらそう言うと、お薬を紙に包んで渡してくれます。おとうちゃまとお礼を言って薬屋さんを後にしました。
「う~ん、思っていたより普通にお薬屋さんだったのです」
「そうだね。ただ、普通の純人族の人達は薬屋さんは高いから利用しないけどね」
その後、歩きながらおとうちゃまに説明してもらうと、純人族はそれぞれで薬草を採集して薬を作るそうです。ただ、その多くは昔から伝えられている所謂民間療法の域を出ないみたい?
「それって大丈夫なのです?」
「まあ重症化していなければかな? 流石に重症化してるのに長ネギを首に捲いたりはしないよ」
何と! こちらの世界にもネギを首に捲いたりするのですね。もしかすると、例のネギを使ったもう一つの方法・・・・・・、うん、考えるのは止めた方が良さそうなのです。
その後、おとうちゃまと手を繋いで亜人さん達のお店を見て回ります。こちらは純人族の人をほとんど見かけないので、ある意味気楽にお店を回れる気がするのです。
「・・・・・・あんまり装飾品のお店とか、化粧品のお店とか見かけないのです?」
「ん? ああ、化粧品は薬屋さんで買えたよ? でも、イツキにはまだちょっと早いかな?」
何と! 化粧品は薬屋さんの領域だったみたいです。
「おかあちゃまに手に付けるクリームとか買ってあげるのでした」
こちらの水仕事は大変なのです。その為、どうしても手が荒れるのですよね。だから今回のお店周りの際には化粧品、特に化粧水や乳液とかがあればなあって思ってたのです。思いっきり失敗しちゃいました。
でも、良く考えたら乳液とかって材料は何なのでしょう? 牛さんとかのお乳かな?




