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1-27:73年目の秋になりました。

こんにちは~世の中やっていい事と悪い事がある事に気が付いた樹です。

可愛いは自然に生まれるから良いのです。無理して作れば怖いのです。

未だに時々夢にうなされます。え?夢を見るのかって、もちろん見ますよ?

でも、そう言われるとわたし夢ってどこで見てるのでしょう?

そう言えば樹に脳って無いですよね?わたし何処で物事考えてるのでしょう?

相変わらず謎は深まるばかりですね、流石異世界です。


ところで、最近森は一つのブームが広まってます。

始まりは森の中に少数の人族が入ってきて、何やら木の実や茸などの採取を始めたんですよね。

特に、森の危機ってものでもないので皆放置してたんです。

時々、クマさん達や大型猫さん達と遭遇して戦いというか遊ばれてるんですけど、すぐに逃げ出しちゃいます。

元々あんまりお肉も食べる所ないし、今一つ美味しくないしで肉食の方達からは不人気なのもあって自由に森の中を探索してるんです。

で、問題っていうかゲームが始まったのが人族の方たちが罠を使って生き物を捕まえようとした事からなんです。

檻の中に餌が有って餌を獲ろうとしたら檻の入り口が閉じる罠だったんですけど、ウサギさんが馬鹿にしたような顔で檻の入り口が落ちない様につっかえ棒をしてから餌を獲ってました。


それを見た時は吃驚です。いや、そのドヤ顔ってどうなんでしょう?というか罠を外して?餌を獲るウサギってどうなんでしょう?て思ってたらそれを真似してみんなが罠を見るたびにその罠を外して餌だけもらうんですよね。子ウサギさんが誤って罠に閉じ込められた時なんかクマさんがわざわざ呼ばれて入り口開けて貰ってました。

なんかうちの動物さん達って可笑しいですよね?思わず笑っちゃいました。

え?おかしいってそういう意味かって他にどんな意味があるんですか?


でも、次にあった罠がなんか紐で釣り上げる罠で、これは危ないという事でみんな総出で罠探しです。

そして、これは遊びの範囲を超えているぞ?との事になったのです。


で、現在は罠を見つけるとその近くに狼さんやクマさん達が穴を掘ってそこに隠れ、ウサギさん達がその上に枯葉を振りかけてカモフラージュ。人族が来たら穴から飛び出して驚かす。一番点数が高いのはそのまま人族が罠に掛かって釣り上げられる事です。

上手く吊り上ったらその下でみんな大騒ぎです。人族さん顔面蒼白です。どうしたんでしょう?

娯楽がすくない森ですから、みんなも率先して遊んでますよ?


でも、最近罠が減ってきたんですよねっていうか釣り上げ型は無くなっちゃいました。

でも今はかくれんぼが大人気です。人族の人って大げさに逃げてくれるのでみんな楽しいみたいです。

逃げる際のリアクションで点数が付きます。


みんなが笑っていると、平和が戻ってきたんだなって実感できて良いですよね。


あれ?なんですか?新しい人族の人が来たけど様子が変ですか?

なんか渡り鳥さんがこちらに向かってる人族の人を見つけたみたいです。でも、わたしの視界に入るのはまだ時間が掛かりそうです。

う~ん、もう少し子供達を遠くまで送りましょうか。


◆◆◆


「お父さん、お腹が空いた」


「もう少しで森が見えてくるから頑張るんだ。さっき鳥が飛んで行ったからあっちに森が有る」


10歳くらいの男の子の手を引きながら、父親は重い足を必死に動かす。その後ろでは、母親が無言で足を進める。その後ろでは男の子より少し大きいくらいの女の子が母親に寄りそうような形で歩いている。


村を捨ててこの旅に出てすでに3ヶ月は過ぎている。初夏の段階で今年の収穫へと見切りをつけた。

昨年秋に作っていたほしいいや、イモなども含め、ある限りの食料を持って夜陰に紛れて村を出た。

いるかどうか解らない追手、他所の村に寄る事すら危険に感じひたすら野宿を繰り返して歩き続けた。


食べ物は節約に節約をし、更には子供達を優先し、どうにか食べ繋いできたがそれももう残りが少ない。

更には、1週間ほど前より水の補給が一切出来ていないのが痛かった。

糒を水でふやかす事も出来ず、又、水の摂取が減った頃より今までの疲れがどっと出てきていた。

それでも、この先には希望があった。

フランツ王国が全滅した話は聞いている。しかし、その為にもしかしたら軍隊の残した物資がまだ残されている可能性だってあるかも知れないとの思いもある。

ただ、あのままあの村にいれば今年の冬、家族は全員生き残ることは出来ない。

その思いは今も間違っていないと確信していた。


「あ、お父さん!あれ見て!あれって森だよね!」


考えに没頭し機械的に動いていた男が、子供の声で我に返った。

そして、その視線の先には確かに森のような物が見えた。そして、その森へと向かう大地の色が次第に変わっている事にも気が付いた。


「おおおお」


男の口より言葉にならない声が漏れる。

知らず知らずのうちに枯れ果てたはずの水が両目から流れ出す。


「はやく、はやく!」


子供が男の腕を引っ張り先を急がせる。

この先にあるのが楽園なのか、地獄なのかは解らない。ただ、今この心を去来する感動を一生忘れる事は出来ないだろう。

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