3-69:亜人さん達は面倒になりました
イツキ達の下へと確認に向かっていたピーちゃん達とは別に、治安維持に尽力している亜人達が肉団子を解し取り出された純人族達を見て一様に顔を顰めていた。
「原因と思われる生物はすでにアイステル様がお持ちになられたので、これ以上の被害は発生しないと思われますが」
「まあ面倒なだけで被害と言っても我々には左程影響はないがな」
「今回の被害者達に共通点はあるんでしょうか?」
「ふん、全員ではないが着ている服装からすると単純な移民とは言えないだろうな。そこら辺に何か共通点があるんだろうよ」
「確かに、来ている服が避難民にしては上等の部類ですね。まあ、今は見る影もないですが」
亜人達にとって領都内にある保護区の純人族に被害が出れば問題ではあるが、何処から来たのかも良く判らない純人族に何かあったとしても警備兵達には責任は一切ない。それどころか、ここ最近の問題の大半が外から来た純人族が起点となっている事を考えると、自然とその対応も冷淡になっていく。
「しかし解れたのは良いが、誰一人まともな状態の者が居ないな」
「死亡者が誰もいないのが奇跡ですね」
解されて地面に寝かされている者達のほぼ全員が何処かしら骨折や脱臼をしており、その骨折も複数個所に及んでいる者もいる。その為、治療が必要となるのだが、その手間を考えると溜息が出て来る。
「我々が近くに居る為に全員が気絶している事が救いです」
警備兵の一人がそう告げるが、だからと言って多少手間が減ったくらいでしかない。
「原因追及は他に任せるとして、これどうしましょうか?」
今もパズルのように複雑に絡まっている肉団子を解す作業を見ながら、この後どう処理をするかで頭を抱える。外側から順次解しているが、内に入る程に骨折などの症状がひどく、中には良くこれでまだ生きているものだと思わされるケースもある。
「まさに混沌としているな」
「夢で見るレベルですよ。思いっきり魘されそうです」
そんな中、何が楽しいのか肉団子の周辺では未だに薬草さん達が複数あつまりニパニパと笑顔を浮かべている。
「はあ、とりあえず治療をしないとならないが、うちの保護区の面々では無いんだよな?」
「聞き取った限りでは違いますね。うちの保護区に純人族を押し付けて金を取っていた連中じゃないですか? そういった者達がいるとの報告はありました」
その発言を受け、警備兵の一人は更に顔を顰める。ただ、その時ふと閃いた事があった。
「そういえば、あの狂ったエルフ達が来ていたよな?」
「え? ああ、来ていますね」
「あいつらなら人面草も持っているだろう。連中に知らせてやれ」
「成程、面倒事を押し付けると」
「人面草で我々の仲間になれる確率は低そうだがな」
全ての純人族が人面草を食べたからと言って亜人になれるわけでは無い。今までの統計的に言って亜人に対し忌避感の強い者ほど拒絶反応が酷く、亜人になれずに死亡する。ただ、警備兵達もそれを考慮して遣る必要は無いと考えていたし、今後の面倒事が減るなら別に構わないと思っていた。
「人面草で骨折くらいなら治るでしょうし、治療行為ですね」
「ああ、善意の治療行為だ。どのみち放っておいたらまともな生活をおくれなくなる者も多そうだ」
そう言い切ると、警備兵達は教会に滞在しているであろうエルフ達へと報告及び治療?依頼に走るのだった。
「ただ、これも例の神樹様が原因なんだろうなあ?」
「恐らくは、ただ竹米なども生み出していただいていますし、悪い事ばかりでは」
「それは判っているんだが、出来れば聖都へ移って頂けんかなあ」
それを警備兵ごときが判断する事ではない。ただ、神樹の生まれ変わりと言われている少女が領都へ現れてから一気に面倒事が増えた事を考えると、思わずそんな愚痴が零れ出る。
「まだ幼い事も有り時期尚早との判断みたいですが」
「転生前に100年は生きておられるのだよな?それで幼いと言ってもなあ」
「ご記憶があるかは判りませんし」
改めてまだ行われている肉団子の解体?作業を眺めながら、つらつらと会話をしている。彼らも、一応はこの場の警備という事で、別に仕事をさぼっている訳では無い。なにせ先程から複数の純人族がこの解体作業を遠目で眺めているのだ。
「神官か巫女が来たら教会に移動させる。荷車を用意してくれ」
「判りました。幌はいりますか?」
「そうだな、街中を動かすからな。荷台むき出しで移動させるのは流石に拙いか」
その後、教会からやって来た神官達の指示で、解された者達は一堂に教会へと運ばれる。そして、その様子を不安そうに眺める少なくない純人族達がいたのだった。
その頃、純人族で作られた村では、すでに食糧不足が深刻になり始めていた。何せ許容人数の倍では済まない程の移民たちが、勝手に集まって来たのだ。竹米を含め、新たな食糧となる植物が発見されたとはいえ、それが直ぐに収穫できるはずもなく、移民して季節が一巡すらしていない状況では碌な収穫物すらない。
「炊き出しを行う余裕はもうありません」
「援助の依頼は行っていますが、この村どころか領都の許容人数も超えています」
村の自治を行うための組織は、良くも悪くも一人を除きメンバー全員が倒れてしまった。さらには、何かと口や手を出してくる連中が突然誰も居なくなっていた。その為、唯一残った指導者の一人である老婆が急遽自分を中心に作った臨時組織は、この状況に対処できる手段を何も持っていない。
「甘い言葉に踊らされたかねぇ」
唯一残った指導者である老婆は、思わず溜息を吐く。このままではせっかく手に入れた純人族の村が破綻する事は目に見えていた。そして、村の指導者として名を連ねた者達はその事を気にせず放置するつもりであった。
今回はあくまでも自分達優れた純人族が独立する為のテストであり、それによって有象無象の者達がどうなろうとこの老婆以外の者達は気にもしていなかったのだ。それ故に老婆はこの組織を何とかする為に行動を起こした。
「失礼ですね、我々は何も騙してはおりませんよ?」
今まで誰もいないと思っていた場所に、忽然と現れたのは真っ白な衣装を身に纏ったエルフだった。
「ふん、何とでも言い様はあるよ。ただ現実に私らは滅びる寸前まで来ているんだ」
食料の供給が途切れた途端、一斉に暴徒と化すであろう移民達。そして、それを押し留めるだけの方法を自分達は持っていない。その事を老婆は良く判っていた。そして、暴徒となった自分達は、亜人達に容易く駆除されるであろう事も。
「貴方達はなぜ自分達が餓えると判っていて食料を分け与えるのですか? 許容出来ないのであれば跳ねつければ良いでは無いですか。相手は貴方方の事情を考慮せずにやって来たのでしょ?」
美しい顔にそれこそ微笑を浮かべながら神官であろうエルフが老婆に尋ねる。尋ねられた老婆は逆に苦々しい表情で吐き捨てるように答えた。
「此処まで膨れたらもう遅いんだよ。今更そんな事をしたら暴動が起きて奪われるだけさ。更には死人だってでるだろうよ。それともあんた達亜人が守ってくれるのかい?」
既に村の人口の数倍の移民が居るのだ。その者達が村を襲撃すればあっという間に村人は殺されるだろう。
「異教徒が、ましてや純人族の貴方達が互いに争う事に、基本的に我々が関わる事はありません。しかし、私達からすれば不思議でならないのですが、貴方達は自分が餓えていたら他人から奪う事をなぜ良しとするのか? 実に哀れな思考回路です」
「ふん、あんた達は違うと言うのかい?」
「そうですね、食料だけに限れば皆が助け合えば意外と何とかなる物です。ましてや我々の始祖、神樹様は植物を創造する神でもあります。あの方は慈悲深いお方ですよ?」
「結局は神頼みの他力本願じゃないかい」
そう吐き捨てる老婆に、神官エルフは微笑みを強くする。
「貴方方は違うと? それに私達は神樹様の庇護のもとにいますが、神官を含め神樹様と意志の疎通を図り、より良いあり方を常に模索しています。決して自分達だけが良いと独りよがりに生きている訳ではありません」
「・・・・・・だが、そこにあたしら純人族は含まれないんだろう?」
「当たり前です。なぜ始祖様や神樹様を否定、利用しようとするだけの者を庇護しなくてはならないのでしょうか?」
神官の言葉に、老婆は黙り込んだ。
「簡単な事です。何としても助かりたければ人面草を口にすれば良いのです」
「死ぬかもしれないんだ。誰だって簡単には出来んよ」
「死に至る者は、それなりに理由があります。それはお判りでしょう? それに、人面草を食べなくとも、此の侭では滅びるのではないですか?」
微笑みを浮かべる神官エルフ。そのエルフを見返しながら、老婆はじっと黙り込んだ。
「時間はそれ程残されていませんよ?」
再度そう告げると、神官エルフは静かに姿を消していくのだった。
部屋の中で一人机に座る老婆は、しばらく何かを考え黙り込んでいた。そして、大きく溜息を吐く。
「そんな事は判っているさ。だがね、あたしらは純人族なんだよ」
その言葉の意味は老婆しか判らない。
他のお話を思いついて、書こうとして何気なく読み返して、結局イツキちゃんをポチポチとw
自分で書いていたお話ですが、読み返して思わず困惑したのは内緒ですw
一応、毎週金曜日の19:00で投稿できればと思っていますw
あ、お馬さんは水曜日と土曜日更新で変更予定はありませんよ。
 




