1-25:73年目、目覚めの春です
寒い冬が過ぎて、春の陽気に目覚めの前に一眠りしちゃいそうな樹です。
今回の冬は比較的穏やかな気温で、みんなも気持ちよく眠れたのではないでしょうか?
わたしも、あの戦闘の後は特にキツツキさんに起こされる事無くゆっくりと寝る事が出来ました。
すっごく幸せですよ!思わず2度寝しちゃいそうなくらい幸せです。
冬眠する事の出来ないエルフっ子や鬼っ子達は、冬の間もせっせと巣作り?を行っていたみたいですけどね。
春に目が覚めたら一応家?って感じの建造物が出来てました。
木の枝を蔓で繋ぎ合わせて作っているのですね、床には枯葉を敷き詰めてるんですね。外壁や屋根は・・・わたしのモコモコさんですね?いつあんなに獲られたのでしょう?寝ているうちでしょうか?わたしよく風邪ひかなかったですね。
春になって温かくなってきたのでモコモコさんを脱ぎ捨ててると、大慌てで剥がれたモコモコさんを集めています。
うん、まだまだ隙間がありますからね、今の感じだと雨が降ると雨漏りも大変そうですしね。
ただ、更に驚いたのは何と彼らの家の中に2頭の狼さんが居る事です。貴方どうしたんですか?
え?巣に丁度いい物があったから住むことにした?そこはエルフさん達のお家ですよ?あ、そんな事は関係ないのですね。みなさん、お家を奪われない様に気を付けてくださいね?
ん?冬の間は温かくて助かりました?そうですか、天然の毛布ですもんね。
狼さん、なんだかすっごく懐かれてますよね?狼さんもまんざらでは無さそうですし。
もしかして、ツンデレですか?ただ巣に適した所だったから居るだけだ。お前たちの為なんかじゃないんだからね!っですか、きゃ~~~ツンデレ初めて見ました!ニヨニヨしちゃいますよ!
わたしがそんな事を思っていると、狼さんが徐にこちらに歩いてきます。
ん?何でしょう?照れてますか?それともわたしにもツンツンするんですか?
そんな事を相変わらずニヨニヨしながら見ていると・・・・ふぎゃ~~なんで人に向かってオシッコ引掛けるんですか!え?マーキングですか?ここはわたしのテリトリーですよ!駄目なんです、あげませんよ!
なんですか、その態度は!このロリコン!ってあ、わたしを蹴りましたね!酷い!虐めです!
わたし達が大騒ぎをしていると、周りから呆れたような視線が飛んできています。でも、ここはわたしの場所なのですよ?だってわたし移動できないんですもの!
その後、子供達の仲介で一応仲直りしました。でも、いつかあの狼にすっぱい木の実を食べさせてやる~~~それで、あの木の実はきっとすっぱいんだ!って自分に良い訳して生きて行けばいいんだ~~
と、とりあえず気を取り直して、心配してた子供達も無事冬を越せて、さらに逞しく生きているようで安心ですね、動物達とも打ち解けた様ですし。
え?心配してた割に冬の間ずっと寝てたじゃないかって、何か危機感とか感じれば起きますよ?たぶん?きっと?気がつけば、ですけど。
みんな無事越冬できたんだから細かい事は良いじゃないですか。
とにかく、まだちょっと肌寒い初春ですからとりあえず梅の花でも咲かせましょう。やっぱり紅梅がいいですね。なんとなく風情がありますよね?ウグイスの換わりに誰かほ~ほけきょって鳴いてくれませんか?嫌ですか、そうですか・・・ちょっと寂しいです。
◆◆◆
フランツ王国は今まさに存亡の危機に陥っていた。予想もしていなかった遠征の失敗。しかも5000もの兵を送り、帰還出来たのは僅か1000にも満たない兵士達であった。
正に壊滅と言っても良い状況に王国上層部は対処が後手に回ったのだった。
そして、その情報はフランツ王国に接する国すべてに渡った。そして、国だけでなく国民すべてが知る事となった。
「魔物が生まれるのは、皆の信心が失われてきた証拠である。今こそ原点に立ち還り神に祈りを捧げるのである」
街頭では口々に宗教家達が演説を行っている。そして、少しでも多くの信者を、そしてお金を獲得しようと動き出した。その様はまさにお祭り状態であると言ってよい。
次に、戦争に必要な物資の価格が高騰し始める。
その為、日々の生活に困窮する者達の数は爆発的に膨らんでいった。
「遠征失敗は確かに損失ではある。しかし、民衆を含めここまで動揺を示すのは異常だ、明らかに扇動されているとしか考えられん」
「どこがなど考えても始まりませんな、すべてと言っても良いかもしれません」
「警邏隊の取り締まりを強化するのは当たり前として、商人達に対し何らかの対策が必要ですな」
「うむ、それと首都近郊の盗賊取締として騎士団の巡回をさせると良い。幸いなことに騎士団の被害は少ない。民衆も毅然とした部隊を見ることにより動揺を抑えるだろう」
「「「御意」」」
国王フランツ3世の指示により、騎士団の巡回、警邏隊の取り締まり強化によって首都近郊における治安回復は成された。しかし商人に対しる締め付けは、逆に売り控えなどを引き起こし、物価の高騰を助長する結果となる。この為、民衆の困窮は改善される事無く続くのだった。
◆◆◆
「ロマリエ、その後の状況はどうだ?」
「残念ながら食糧事情の改善は芳しくありません。又、フランツ王国において食料品の高騰が始まっており商人達が我々へと販売せず、フランツ王国へ食料を持って行くなどが発生しています」
「それは、拙いな。まさかそんな事になるとは考えていなかった」
「はい、その為に我が国の物価もじわじわとではありますが高騰してきております」
「ふむ、下手を打ったな。まさかフランツの国力を落そうとして、逆にこちらにしっぺ返しを食らうとは」
「はい、それにあの国の遠征軍が此処まで被害を蒙るとは、流石に予想していませんでした」
ロマリエ達は顔に苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。
彼らはすでに遠征軍の敗残兵を捕虜にし、何が起きたのかほぼ全て把握していた。
そして、今回の失敗を分析して自国の軍隊を総動員すれば勝てるとは言いきれなくなっていた。
その事は国王にも進言しており、現在諜報、探索専門の部隊による少数人数による調査活動を行う方向で決定していた。その為、軍部ではこの活動における人員選抜に入っている。
かの魔の森は、放置し忘れるには魅力がありすぎたのだ。そして、今回のフランツ王国の失敗によって周辺国においても慎重な対応がされると思っている。この為、更なる周辺国の情報が重要度を帯びてくる事に気が付いていた。