1-23:72年目の初冬は争いの香り
誤字訂正しました。ご指摘ありがとうございます。
まだまだ暖かい日差しの差す季節ですね、でも樹の心は木枯らしが吹いています。
収穫の秋が過ぎ冬の気配が見え隠れする中、何やら渡り鳥さんが不穏な集団を見つけたそうです。
またもや人の集団が大挙して此方へ向かっているとの事で、オオワシさん率いる鳥族?鳥類?の方達がそれぞれ偵察に飛び立っています。
そして、報告が多数寄せられます。
数は前回より少ないらしいです。何か堅そうなのがいっぱいいるみたいです。
ふむふむ、で、問題なのは強そうなのがいっぱいいて、どれ倒せば良いのか解らないそうです。
それは困りました。でも、しかしです!今回は前回と大きく違う点があるのです!
この動物さん連合の参謀であるわたしが前線を見る事が出来るのです。
この差は大きいと思いませんか?
わたしがそうみんなに告げるのですが、なぜか子供達から帰ってくる返事が芳しくありません。
え~~びみょう~~?
さんぼう・・・なにそれ?
またなにかくるみたい~~?
皆さん危機感がありませんね!また血で血を洗う戦いが始まるかもしれないのですよ!
ん~~~あたし血ってながれてないし?
うん、それはわたしも前にそんな事を言った気がする。
でも、動物達がやる気満々でいる中で、人族?の子供達は廻りの騒ぎにオロオロしてますね。
うん、まだ会話が出来ないみたいだから何が起きてるか解ってないですもんね。
そんな状態が続く中、ついに、ついに何か人の大群?が来ましたね。
あれ?なんか予想してたより少ないですね。う~んと、ざっと見てどうなんでしょう?
ただ、広い所に人が集まっててもすごい多いって気はしないですね。
あまり見慣れてないからでしょうか?
おや、なんか後ろから板を持って来てなんかトンカンし始めました。
拠点造りなのでしょうか?でも、あんな板で意味あるのかな?まぁ柵より良いのでしょうか?
だってうちの動物さん達柵だと隙間から通り過ぎちゃいそうですしね。
あ、そうか、あの高さでも兎さんやネズミさんは越えられないですから意味は・・・あるのでしょうか?
まぁ夜襲からの防御なのかもしれませんけど、でも意味ないと思いますよ?
そんな事を思っていると、草原の草が無数に動き始めます。
おや、こんな昼間に襲撃するのかな?っと見てると、軍隊さんの方も不自然な草の動きに慌てて警戒を強めるようなのですけど・・・あんなに重い鎧着て、動物に対応できるのでしょうか?
あ、草原に向けて弓を飛ばし始めましたね。
うん、これは有効なのかもしれません。こちらには飛び道具って無いですし、盾もないですから。
そんなこんなで眺めていたら、目の前にはわたしが予想もしていない展開が広がっています。
うわ~~動物ってこんなに頭がよかったのでしょうか?
前方正面から草を揺らせて近づいて行った子達はウサギやネズミなどでした。移動している、視認できない小さな的の為、どうも被害は出てないみたいでよかったです。
そして、主力は左右からタイミングを遅らせて近づいていく大型猫さんや狼さん達ですね。
しかも、出来るだけ草を揺らさずに近づいて行く為、攻撃されていません。
これって頭脳プレーですよね?動物の発想じゃありませんよね?
そこからは、更に凄かったです。狼さん達は前方にて身構えていた鎧を着た人たちをスルー、弓を射ってる人達を目標にまだ未完成な壁を走り抜け襲いかかります。
そして、相手が混乱しているうちに悠々と戻ってきました。
すっごい頭が良いです。相手の被害もそれ程多くは無いでしょうが、心理的な効果はあったでしょうね。
◆◆◆
フランツ軍魔物討伐軍指揮官であるミルドルは予想外の展開に怒りで顔が真っ赤に染まっていた。
魔物の森へと到着して早々、まだ拠点構築が始まる前に魔物の襲撃になったのだ。
フランツ王国は重装歩兵によって魔物を一蹴し、この森を起点に大規模な開拓を行う予定であった。
近年、フランツ王国において看過出来ないほどの食糧不足が続いていた。そして、不足した食料を他国から購入しようにも他国も同様に食料不足であり、その為年々餓死者の数が増大していたのだ。
この為、国内の治安悪化は進み、更には貴族達は国民を無視して贅沢な食事をしているなどというデマも広がり、このままでは後どれくらいで国民によって反乱が起こされてもおかしくないと誰もが感じていた。
その時、隣国によって大量の移民が行われたとの情報が舞い込んできた。
その後の追加情報で移民先には魔物が住む、しかしその土地は非常に豊かであるなどと俄かには信じられない報告が相次いだ。
そして、何と言っても止めてになったのはその地への移民が失敗し、未だにその地は誰の所有でもないという事であった。
フランツ王国では何処かの国に押さえられる前に、なんとしてもその地を自国の物にしたいとの欲が溢れた。そして自国の精鋭である重装歩兵部隊の派遣へと繋がったのであった。
「馬鹿な、何をしておるか!たかだか動物に良いようにあしらわれるとは貴様らそれでも誇りあるフランツ王国軍か!」
ミルドルの怒鳴り声が陣地内に響き渡る。
「申し訳ありません、あまりに想定外の攻撃であった為取り乱しました。しかし、すでに対処法は検討中です。それに、確かにトリッキーではありますが、攻撃力はそれほどありません」
「こちらも、前情報に基づいて急ぎ野営地を構築しています。おそらく魔物どもの主攻撃は夜襲でしょう。その為の対策も十二分に考えられております」
「今回の戦いで、情報にありました大型の猫と狼の姿を確認出来ました。そして、その攻撃力も我々の想定内です。あとはこちらの計画通りで宜しいかと」
各部隊長の報告を聞き、次第にミルドルは怒りを鎮めていく。
「わかった、まずは夜襲に対しての準備を怠らぬようにせよ」
ミルドルの言葉を聞き、各自が自分の部隊へと帰還していくのだった。
しかし、彼らは今まで人としか戦ったことが無かった。そして、組織された動物の怖さをまだ知りようが無かったのだった。