1-20:72年目で転換期?
そろそろ夏も終わりに近づいてきた気がする樹です。
なんといっても気温が次第に穏やかになって来ています。
動物達も、日中の活動時間が少しずつ増えてきています。
動物さん達からも、なんとなくワクワクした気持ちが伝わってきます。日々強くなってきます。
何と言っても実りの秋、収穫の秋ですからね。
何と言っても今年は子供達ネットワークを使って色々な所を見て回れるのです。
それも楽しみの一つですね。みんなが秋の実りに喜ぶ姿が見れるのです。
今からもう楽しみになってきます。
ミツバチさんもブンブン飛び回って蜜をせっせと集めてますし、熊さんはもうしょっちゅうハチの巣へ様子を見に来てます。そんなに心配しなくても、お子さんがちゃんと毎日見に来てますよ?
っと伝えたら、慌てた様子で器の中身を確認して落ち込んでいました。
何があったのでしょう?
そんなこんなでみんながワクワクしている時期に、森の中からひょっこりと何かが此方へ歩いてきます。
おや?と思って見ていると、なんと!人の子供です。おお~~直に見るのは何十年ぶりでしょうか?
っていうか、今現在も直に見ている事になるのでしょうか?わたし目がないのですけど・・・・
そんな事を思っているうちに、本当にフラフラとわたし目指して歩いてきますね。
良く森を通過できましたね、っていうかよく森を通過する気になりましたねでしょうか?
それとなく、森にいる皆さんに聞いてみたのですが。
あんな不味そうなの要らん、鹿の方がおいしい。
余程年取って獲物取れなくなった時ぐらいしか狩ろうなんて思いませんよ?
子供達の狩の練習くらいにしか使えないですね?
え?放置してても死にそうじゃない?
ブ~~~ンブ~~ン
えっと、なんかものすっごく評価が低いですね。
確かに見た目もガリガリで、汚れてますし、お肉あんまり無さそうですものね。
二人の子供は近くまで来て吃驚した表情でわたしを見上げています。
まぁ70年で大分成長しましたしね。
それにしても、目に生気が余り感じられませんよ?吃驚はしてるのですが、ただそれだけっていうか、こうもっと生きるんだ!って力がないんですよね。
良く見ると、唇もパキパキですし、血色も良くないですね。おや?片方の子は女の子なのですね。
二人とも8歳から10歳くらいですか?
それとも栄養状態の関係で、実はもっと上だったりするんでしょうか?
んん?あ、後ろの子が座りこんじゃいましたね、っていうか倒れ込んだの方が正解でしょうか?
なんか体調が悪そうです。息も荒いし、顔には脂汗浮かべてますね。
男の子が心配そうにしていますけど、背中さすってても何も解決しない気がしますよ?
う~~ん、ここでお亡くなりになられるのも嫌ですし、初めてお会いした人族ですし、でも攻めてきた人達の仲間なんですけど、仕方が有りません、お姉さんが面倒を見てあげましょう!
はい、治癒の実ですよ、ほら、瑞々しいですから喉の渇きも癒えますよ。
わたしはそう考えて実をいくつか落しました。
え?面倒を見るって実を落すだけ?って何を言うのですか!わたし樹ですからそれ以外に何をしろと言うのです?
◆◆◆
王宮の最深部とも言える国王執務室で、二人の男が国王へと面会を果たしていた。
一人は、宰相であるビルジット、もう一人はロマリエ、共に現在最も国王の片腕と噂される人物である。
「今年度の収穫率予想ですが、研究者達の努力もあり昨年より僅かではありますが改善しております」
「その数値は北方は除いての見解で間違いはないな?」
「はい。しかし、現在その北方においては民衆の反乱が発生しております。これによって領主であるアクバル侯爵含めその子息、奥方を含め一族すべての死亡が確認されております」
「その反乱に対しては何か対応はしているのか?」
「東部に位置する貴族達に反乱軍の討伐を指示しております」
国王は、不意に報告を続ける宰相へと視線を投げ、問いかける。
「これで、どれくらいの人口を減らす事ができるか」
「はい、なんとか2万程減らしたいと考えております」
「北方はそれで落ち着きそうか?」
「さて、北方で養える人口は年々減っております。此度の反乱を上手く利用出来たとしても生産量までもが低下してしまっては本末転倒になりますから」
「決して農地での戦闘はしない様に徹底させろ。併せて、難民以外のものの徴兵は原則50歳以上とせよ。次代の者達を殺してしまっては意味が無い」
「了解いたしました」
国王と宰相の話を聞けば聞くほどロマリエは自分が悪魔にでもなっていく気がしてくる。
食料生産量に合わせて如何に人を間引くか、こんな会話が行われているなど国民は思っていないであろう。
しかも、働き盛りの者を殺してしまえば国が亡びる。その為、いかに老いた者、病気など生産に従事出来ない物を選り分けて殺す方法を考えている。確かに国を存続させる為とは言え、こんな事をしている自分はきっと地獄へと落ちるのだろうと感じていた。
「ロマリエ、その方には更なる産物でも良い、とにかく簡単に生産出来、食べられる物を開発、又は発見せよ」
国王の言葉に、ロマリエに緊張が走った。
「発見せよとは、魔の森調査を行えとの御命令で?」
「そうだ、何もかの地を攻略せよと言うのではない、かの地でなぜ植物が育つのかを解明せよ。それが無理ならこの地で育つ食物を探せ!これは最優先事項である」
「ロマリエ殿、その方の働き次第で死ななくても良い者達が増えるのです。何卒よろしくお願いいたします」
そう頭を下げる宰相の目元には、大きな隈が出来ていた。