2-73:新たに始まる日常3
「ジャ~~ガイモ~~~、ほくほく美味しいジャガイモ~」
うん、別に石焼き芋とかみたいに加工はしてないですよ、普通に広場で並べて売ってるだけですよ。
私は現在、定期的に行われる露天市場で売り子さんをしているのです。
ここでジャガイモを売ったお金で、私達は麦とかお米とか、他の野菜なんかを買うのです。
「う~ん、一籠売りかい?それとも1個いくらなのかい?」
「1個50Gです!」
「じゃあ10個貰おうかね」
恰幅の良いおばちゃんが目の前で小さな籠に1個づつジャガイモを選んで入れていきます。
最初から小さな籠に盛り付けている物もあるんだけど、1個づつしっかりと選んでいく人が殆どです。もしかすると私が純人族だからなのかな?
私の横で、お父さんがジャガイモを渡してお金を貰ってます。お母さんは露店巡りして食材の購入中?
最初に露店を出したとき、ジャガイモが完売してから露店を巡ろうとしたらめぼしい物が何にも残って無かったのです。おかげで、次の露店まで我が家の食卓はジャガイモオンリーだったのです!それを教訓にして今は適度なタイミングで露店を巡るのです。
「ズンタッタ~~ズンタッタ~~」
「ご機嫌だねぇイツキちゃん」
ジャガイモを小さな籠に盛り付けながら、何となく鼻歌を歌っていたら声を掛けられました。
声の発信源?を見ると、お隣の恰幅おばさんが目の前に!ドゥオンという効果音さえ聞こえてきそうな、これ程の存在感を発揮しているおばさんになぜ気が付かなかったのでしょう?謎です!
まぁそんな事は兎も角として、おばさんを見て、その状態を解析します。
籠の内はまだ空き多数!先日の訪問から2日経過、表情・・・えっと・・・すごい?
よ、要するにジャガイモさんを購入して貰える可能性が大なのです!
「こんにちは~~、えっとね、採れたてのジャガイモさんで美味しいのですよ!お幾つ要りますか?」
「は~~、今日もお手伝いかい?偉いねぇ、う~~ん、そうだね一籠貰ってくよ」
「ありがとうございます~~!」
うんうん、今日も順調にジャガイモさんが売れていきます。
この世界では主食は麦っぽいのですが、ジャガイモさんは優秀なのです。おかずにも、ご飯やパンの替わりにもなるのです。ただ、一応芽の部分は毒が有るので食べない様に注意はしますけどね。
ほくほく顔でおばさんの籠にジャガイモを入れていると、おばさんが突然にそういえばっと呟いた。
「村外れのヘンドリックのとこで豚一頭絞めたそうだよ、多分明日あたりにお零れの販売が市場で行われるから余裕があれば買うと良いさ」
「お、お肉ですか!」
な、何という魅惑的な響きなのでしょうか!お肉など前に口にしたのはいつ?あれ?覚えてないわ?な私ですよ!猟師さん達が狩で仕留めた獲物を市場で売るなんて物語の中だけだったのです!普通は自分と身内や知り合いで分けて終わりなのです。だいたい、野生の動物が少なすぎるのです、もちろん角の付いた動物さん達、あれは魔物と言うのです。猟師さんでも単独では返り討ちにあう危険な生き物なのです。
だから、市場や露店であってもお肉は滅多にお目にかかれない高級品なのです!
「今日あたりソーセージ作りをしてるから、まぁ肉は無理でもソーセージなら手が出るんじゃないかい?」
「ぬぅ、ソーセージ大歓迎なのです!それも無ければ骨周りの切り落とし肉でも何でも良いのです!」
「は、は、は、それならお父さん達にしっかり頼む事さ、ただ明日は急がないとあっという間に売り切れちまうよ?」
そう告げると、おばさんは籠をヒョイッと持ち上げて、ドシドシと立ち去りました。
立ち去るおばさんにお礼もそこそこに、わたしはそれまで奥で話を聞いていたお父さんへと視線を向けます。おばさんと話しながらもチラチラとお父さんに視線を向けていたんですけど、なぜかお父さんは視線を合せてくれないのです。でも、ここはしっかりと打ち合わせをしておかないと、最強の敵は倒せないのです!
「じ~~~~~~~~~」
いくら凝視しても決してこちらに視線を向けないお父さんに、ついに声を出して見てますよ~~と主張してみます。
ピクピクっとお父さんの肩が動きました。
でも、こちらを向く事が無いのです。確かに、今の我が家の経済状態では贅沢は敵なのです。
お母さんが毎日毎日夜にお金を数えているのは知ってるのです。うん、あれはちょっと怖いのですよ?
夜中にトイレに行きたくて目が覚めて、初めてあの姿を見た時は洩らしちゃうかと思いました。
だからお父さんが簡単に話に乗って来るとは思っていませんでしたけど、むぅ、ここまで強固な抵抗に遭うとは!早くこの砦を落さなければ!主力軍が来る前に落とさなければ全滅なのです!ここは、力攻めなのです!
「おとうちゃま~~、イツキ、豚さんのお肉欲しいな~~」
正攻法、真正面からの突撃しました!ちょっとお父さんの服のはじっこをピコピコして、上目使いでもじもじしてのお願い攻撃!どうですか!愛娘のこの攻撃!今この場で奇策は下策!奇策は王道には敵わないのです!
「あ、あ~~、その、な、イツキ、お母さんが良いと言ったら考えよう」
くぅ、まさか相手も王道での反撃が来るとは思わなかったのです!まさかお父さんがイツキちゃんの上目使いおねだり攻撃に踏みこたえるとは!しかし、しかし、まだまだです!城門は確実に揺らいでいるのです。
「イツキちゃん良い子だよね?おとうちゃまイツキが嫌いなの?」
どうですか!上目使い+うるうるお目め攻撃!これで崩れない城門があるでしょうか!いや、無いのです!
ついでに、両手を口元で組み合わせておねだりポーズ追加なのです!相手に隙を与えてはならないのです!
「ば、馬鹿もの!お父さんがイツキを嫌うなどあるわけがないじゃないか!イツキは、イツキはお父さんの大事な、大事な、それこそ目に入れても痛くない愛娘だぞ!」
「おとうちゃま!そ、それだったら、いつきちゃんおに「んんん~~イツキちゃん何か欲しい物があるのか・な?」く~~?」
ギギギギギっと軋む音が聞こえるかのような動きで後ろを振り返ると、籠いっぱいに葉野菜を入れたお母さんが満面の笑みで立っていました。
・・・あぅ、間に合わなかったのです・・・
敗戦濃厚なのですよ?
そろそろ日常は終わりです。
次からは新たな展開・・・・かも?