2-72:新たに始まる日常2
「ぽか~~~ん」
思わず言葉で今の心境を口にしてしまいました。
えっと、何があったかと言うと、子供とのふれあいは・・・一瞬で終了しました。
というか、始まったのかな?始まりもしていないのかも?
うん、何のことかと言うと・・・目の前に置かれたジャガイモを掴んだとたん子供達は逃走したのです。
一瞬の出来事でした。声を掛ける間もなかったです。
「むぅ~~やはり子供との交流は難しかった?」
「まあ難しいだろうねぇ」
「うにゅ?」
後ろからこっちへ歩いてくるお姉さんの表情には苦笑が浮かんでます。
でも、見た事のないお姉さんですね。割と大きめの一本角が額から生えてますが・・・邪魔じゃないのでしょうか、あれって。
「ああ、ごめんね、突然声を掛けて」
「う~~~ん、どなたですか?」
「ちょっと腕試しをしに来たんだけど、さっきの現場を見ちゃったからつい声を掛けちゃった」
腕試しという言葉の時にジャガイモさんへと視線を向けたので、まぁそういう事なのでしょう。毎日数人の人がジャガイモさんと戯れているので、この人もきっとそういう人種?だいたい、女性なのに腰にしっかりと剣をぶら下げてますから。
「あの子達はあのジャガイモと私達が戦闘している時に飛んでくるジャガイモが目当てなの。畑の外に出た物は獲っても良いとされているからね」
「畑の外に出たものだけですか?」
「畑の中の物は、その畑の所有者の物でしょ?それを盗ったら泥棒だね」
成程、この街のルールというやつでしょうか。柵も無い畑が荒らされないのは良い事ですが、そこまで倫理観が発達しているのは凄い?自分達が飢えていて、目の前に食べ物があったら盗んじゃうと思うのです。
「でも、あの人達は人の畑に無断で入ってますよ?」
目の前でジャガイモさんと戦う為に準備している人達が数人います。きっとこのお姉さんもそうなのでしょう。それは許されるのかな?
「ああ、あのでっかいジャガイモは魔物だから、建前は街の中に侵入した魔物退治だね。まぁその実、いまじゃ娯楽扱いだけどね。だから大人数で討伐なんかご法度だね、暗黙のルールでソロ推奨、見習いクラスは3人までって決められてるし、それを監視している者もいるからさ」
そう言うと、畑の隅にある掘立小屋を指差します。すると、そこには二人のごっついおじさんが立って畑を監視しているのが見えました。
「う~~~ん、娯楽なのですか。物騒な娯楽なのですね。怪我人とかいっぱい出そうなのです」
「ま、そこは自己責任ね」
私の言葉にお姉さんは満面の笑顔で答えますが、その一点の曇りもない笑顔にこちらの顔が引き攣ります。
「さっきの子供達は結局ジャガイモのお零れを拾いに来ていたのですか?」
「ええ、この街にはそこそこの数の純人族がいるけど、それ故に彼らが従事できる仕事が少ないの。どうしても力仕事は角付のほうが優れてるし、意思疎通が容易な角付を雇用する人が多いから。どうしてもキツイ、キタナイ、でも賃金が少ないっていう仕事しかね」
成程、理屈はよく解ります。何と言っても角付さんはパワーが違うみたいですからね。
「ほむ、お姉さんの言葉を聞くと、やっぱり純人族は貧しいのですね?」
先程の子供達は痩せ細ってましたし、きっとご飯にも苦労しているのでしょう。
でも、それならそれで角付になってしまえば良いような気がしますよ?
「なぜ角付さんにならないのですか?」
「う~~ん、そうねぇ、貴方はなぜ角付にならないの?」
質問に、質問で返されてしまいました。でも、そういえばうちの家族はなぜ角付にならないのでしょう?
お父さんやお母さんを見ていると、純人族にそれ程こだわっているように見えないですし、角付に偏見があるようにも見えないです。わたしも特に偏見はないですし?
「う~んと、何となく?お父さん達がならないからとかかな?」
でも、本当にそうなのかな?私には両親の本当の思いは解らないですから。人は自分に理解できない存在に対し本能で恐怖を感じる生き物です。前前世の歪んだ思いかもしれませんが。
「そっか、でもそんな物なのかもね」
特にそれ以上私に何か言う事無く、お姉さんはジャガイモさん挑戦者?達のほうへ歩いて行ってしまいます。
「ちょっと!私の質問に答えていませんよお姉さん!」
お姉さんの後ろ姿にそう声を掛けます。でも、手を挙げてパタパタさせるだけで答えは返って来ませんでした。でも、ちくせう、ちょっとカッコ良いと思っちゃったじゃないですか!
ともかく、私はジャガイモの籠をお家に運びましょう。元々、その為に畑に来たのですし。
「さぁ、お家に戻りましょうか」
籠を薬草さん達に下から持ち上げてもらい、私は籠が引っ繰り返らない様にちょこちょこと揺れる籠を押さえるだけ・・・なのですが、ジャガイモの入った籠が重い!結構必死に籠の周りを走り回る事になりました。
「・・・はぁはぁ・・・つ、つぎは一籠ごとに移動するのです・・・」
家に辿り着いたときには、青息吐息のイツキちゃんでした。
でも、良く考えたらあの貧しい純人族の子供達の事、その後何にも考えてませんでしたけど良かったのかな?