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2-62:町長さんがんばる!

「そこに土嚢を積め!高さはそんなにいらん、あと堀の幅は50センチもあれば良い!」


男達が泥と汗に塗れながらスコップを片手に土嚢の前に掘りを掘っていた。どの男の顔にも余裕など欠片も感じられない。ただただ少しでも堀を掘る為に腕をパンパンにしながらも歯を食いしばりながらスコップを振う。


「夜までが勝負だぞ!今日ここで食い止めないと町は無くなると思え!」


先程から町長が必死に声を張り上げている。しかし、その声はガラガラになり枯れてきている。でれでも、今ここで指示を飛ばし続けなければ、自分の村が森に浸食されてしまうのは確実であった。


「薬草はないか!怪我人が続出している!」


その時、昨夜のうちに広がった森を少しでも削ろうと出て行った男達が、満身創痍で戻ってきた。

中には、自分で歩く事が出来ずに仲間たちの肩を借りて歩いている者達もいる。


「全員無事か!怪我人は!」


堀や土嚢にて此方へ来るのに苦労している者達に、急いで板で橋を作り此方へと招き入れる。


「駄目だ、すまん」


「まともに切り倒せたのは一本もない。いまや近寄る事すらできない」


戻ってきた男達が、口々に報告をする。しかし、どの男達の発言を聞いても作戦は失敗した事が確実だった。


「駄目だったか、予想される攻撃は花粉や木の実を飛ばすくらいだと思っていたが、もしかして刃が通らなかったか?」


男達の様子を見て、明らかに切り傷や刺し傷などは見当たらない。ただ、どの者達も土や泥にまみれている。


「いや、根や枝が鞭のように襲ってきたが、一太刀では無理だが何とか切り飛ばせる。問題は再生能力だ」


「そうだな、再生速度が速すぎる。再生を繰り返せば速度が落ちたり、再生しなくなったりしないかと期待したのだが、残念なことにその前にこっちにガタが来た」


男達がそれぞれの持つ剣や斧を見せる。そこには、刃先が欠け、ボロボロになっている物や、完全に折れてしまっている物など様々ではあるが、一つとしてマトモナ状態の物はなかった。


「斧だと大振りになって攻撃が当たらないしなぁ」


「油を掛けて火を放つとかどうだ?」


「それは避けたい、あの樹とて神樹様の系統だ・・・よな?」


「いや、どうなんだ?ただ、普通の樹ではないが、姫巫女様も会話が出来ないらしいからなぁ」


「ああ、意思は感じられるので、あとは意思疎通が出来るかどうかなのだが」


町長の前で男達が町長への状況報告後にそれぞれ頭を悩ませる。

意思疎通が出来れば今発生している問題が解決できる。この為、今姫巫女は全力で思念を送り会話をしようとしている。ただ、今の所残念ながら成果は上がっていない。


「姫巫女様が援軍を頼んだそうだ、今日の夜を何とか凌げば楽になる・・・かもしれん」


「かもですか・・・」


男達は、苦笑を浮かべながらも、今やらなければならない作業へと集中していった。


そして、日が傾き周囲の景色を赤く彩り始める。

そこかしこに影が深まり、闇がその色を濃くしていく。


「松明に火を付けろ!篝火を焚け!そろそろ動き始めるぞ!」


町長の声に呼応して、火が影を、闇を駆逐するかの如く周囲を照らし出していく。

光沢の有る金属で反面を覆われた指向燈が森の方角へ向けられる。金属の中で反射した光が、より深く闇を照らし出す。そんな中、明らかに影の揺らめきが照らし出されるのだった。


「焦るなよ!斧を持った者達は堀の中に注意しろ!根が視認出来たら叩き切れ!」


この数日にわたる戦闘で、誰もがこの果樹による侵攻に対して対応策を身に着けていた。樹は移動するときに異様に慎重に根を四方へと延ばす。その為、移動自体の速度は非常に遅い。ここ数日において、このパターンによる敵の撃退を行っている。このパターンを見つける事が出来たおかげで、彼等は押されながらも果樹の侵攻を食い止めていた。


「こちらの方へ伸ばした根は斧で刈れ!左右へと伸びた物はテコの原理でひっくり返せ!」


深さはそれほどでは無いが、広めにとった堀に次々と太めの根が突き抜けて飛び出してくる。それに対し力任せに斧を振り下ろす。次に暴れる根を放置し、左右どちらかで浮いた根の下に太い棒を幾本も差し込み、下に岩を置いて梃子の原理で果樹を転倒させようと力を掛ける。


「力を掛ける方向を考えろ!ただ闇雲に力を入れても引っ繰り返らんぞ!」


「ヤトル、そっちの根が浮いたぞ!気を付けろ!」


「よし、反対の根が踏ん張る前に力を入れろ!急げ!」


現場には怒声が飛び交う。果樹達も堀や、土嚢によって生じる段差などを利用する男達に苦戦し、中々前へと進出する事が出来ない。まさに一進一退の攻防が続けられている。


「よし、計画通りだ、これで何とか踏みとどまれるか」


町長が今現在展開されている状況を見て、想定内に収まっている事に安堵の言葉を零す。

しかし、まるでその言葉が引き金になったかのように堀の右側で果樹を撃退していた者達から悲鳴が響き渡った。


「何だ!くそう、町長、新手だ!蔓だ、蔓系の植物だ!」


視線を叫び声の方へと向けると、篝火に照らされて何かがウネウネとまるで触手のように動き回る影が見えた。そして、その動きに翻弄された者達が、どんどんと跳ね飛ばされていいるのが見えた。


「右側に援軍を出せ!最悪は堀へと油を流せ!」


「しかし、火は・・・」


「あのつる植物を通せば戦線が崩壊するぞ」


町長自身も腰につけていた愛剣を抜き、猛威を振るう蔓植物へと突撃を慣行した。待機していた者達も全員がそれぞれ必要と思われる場所へと突撃していく。手には斧以外にも大剣を含めそれぞれ得意とする武器を持ち、今まさに崩壊しようとする戦線を何とか維持し、守り抜こうとした。


「くそぅ、これ以上は厳しいか・・・」


今や、前線の全ての場所で蔓植物が前面へと進出してきていた。この為、拘束で振り回される蔓に対し有効な防御反撃の手段を作れない町長たちは、次々に負傷し後退していく。

そして、ついに撒かれた油に火を投げ入れるよう指示しようとした時、町の中心から複数の者達が荷馬車を引いて現れたのだった。


「待たせたの、思念送るの、友達は輪なの、友好快楽なの」


町長たちの視線の先には荷馬車の前面に立つ姫巫女と、荷台の上に乗せられたまだ高さ1メートル程の若木が乗せられていたのだった。

サブタイトルほど町長さんが活躍する描写がないような?

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