2-61:またもや移住ですよ、定住できるのはいつですか?
「どんどこがたごとどんどこがたごと」
イツキちゃんは現在荷馬車に揺られて移動中です。
荷馬車をおっきな水牛さんがゆっくりと引っ張っています。ちなみに、水牛さんには角は無いです。
荷台には、私の他に様々な荷物が積まれてます。小さな箪笥まで乗ってます。あと、布団やら何やかやと荷物が山積みで、わたしはその荷物の隙間に乗っけて貰っているのです。
「まさかコナヤへ移住する羽目になるとはねぇ」
「とにかく町を再度立て直さないとならないからな、それも森の拡張が止まればだが」
「ミーニャも頑張ってるみたいだが、今日明日にも店は森に呑まれるだろう」
荷馬車を操ってるおじさんとおばさんが会話してます。うん、そうなのです。あの果樹達の暴走?が止まらず、気が付けば町の半分くらいが果樹の森に飲み込まれちゃいました。
夜の闇の中、照らし出される松明に映る焦る街の人達、飛び交う怒号、泣き叫ぶ町長、うん、あの情景は幼い心に諦観という文字を刻みました。
ん?刻む文字が違うですか?いえ、だって子供がどうこう出来るものじゃないですよ?
結局、夜に増殖する森と、それに対抗する町の人での生存競争をしてますよ、うん、現在進行形です。
若干町の人達が劣勢ですけど、応援も来ているみたいだし、どうなのでしょう?
「でもさ、特産品は生まれたからねぇ、これは売れるよ」
おばさんが荷台に積まれてる箱へと視線を向けます。併せて私も視線を向けると、うん、箱一杯に日持ちのしそうな林檎や蜜柑が山になってます。町で生活する足しにするんでしょう。みなさん逞しいですよね。
で、そのまま視線を動かすと、他の人の荷馬車が列になってその周りに人も列になって移動してます。
お父さん達も荷馬車の横で歩いてます。少ないながらも荷物は私と一緒に荷馬車に乗せてもらってます。
で、視線を更に移動すると・・・うん、普通に雑草さんやジャガイモさんも着いて来てるのですが良いのかな?もう今では姿を隠す事も無く、普通に移動しているので皆気が付いているはずですが。
「コナヤに着いたらまず宿の確保をしないとえらい事になりそうだな」
「ああ、ほら、ピエタさんとこの息子がいるだろ、あそこに数日間借りさせてもらえるよう手紙書いて貰ってるから」
「でもよ、長期間は迷惑だろ?どっかに家借りないとなぁ」
「どれくらいで戻れるのかしらねぇ」
う、おばさん達は相変わらず賑やかに話してますけど、私達家族は別にご一緒する訳では無いのです。子供連れで町までの移動手段としてお願いして貰えただけで、ある意味お情けなのです。
ここで、私達もご一緒にとお願い何て出来ないのです。一応教会への紹介状を貰ってはいるのですが、これで寝床確保はできるのでしょうか?あと、ご飯を食べる為のお仕事とかも争いが激しいかも?
「ぬぅ、これはピンチなのかもです?激しい競争社会に投げ出されたのです。一寸先は滝で轟轟なのです」
「イツキちゃん、どうしたの?」
荷馬車の隣を歩いていたお母さんが、わたしの独り言を聞きつけて寄って来ます。
ゆっくりと移動しているのではありますけど、それでもちょっと疲れが感じられます。
「おかあちゃま大丈夫ですか?疲れましたか?」
「ふふふ、大丈夫よ、ありがとうね。で、どうしたの?何か言ってたように思うけど」
「あ、あのね、町に着いた時に寝る場所を探すのが大変かなって」
そう告げながら、馬車の進行方向へと視線を向けます。
どうもわたしとお母さんの会話が聞こえたのか、おじさんとおばさんは会話を取りやめたみたい?
でも、おじさん達も自分達の事で精いっぱいだから、会話を辞めて荷馬車を操るのに集中しているみたいです。で、たまたまお母さんとおばさんの視線が合わさった時、お母さんは何時もの天使さんスマイルで会釈します。おばさんも申し訳なさそうに会釈しました。
でも、このままだと本当に町に辿り着いても休める所があるかどうか不安なのです。
「大丈夫よ、イツキはそんなこと心配しなくてもお母さん達がなんとかするわ」
「うん、わかった」
これ以上この話をしていても意味は無いのです。町に着いてみないと状況は解らないのですか。
ましてや、うちの家族だけ先行して向かうなんていう事も出来ませんし。
「明日には新しい町に着くのですよね?」
「ええ、そう聞いてるわ。お母さんも行った事がないからちょっとワクワクするわね。前の町とは比べ物にならないくらい大きい町みたいだからきっと楽しいわよ」
相変わらずお母さんはポジティブなのです。不安の欠片すら感じさせません。でも大きな町ですか、そうするとあの子達は町に入れるのでしょうか?ついつい視線が雑草さん達へと向かってしまいます。
ニパッ!ニパッ!ニパッ!ニパッ!
うん、こんなに移動しているのに皆さん元気ですね。笑顔が輝いています。
ブンブンブンブン、シュポ・・・シュパ・・・・シュポ・・・
あの、ジャガイモさん蔓を振るのは良いのですが、時々子ジャガイモさんが何処かに飛んで行ってますよ?
皆さん羨ましいくらいに元気ですね。で、その他になぜか時間を追うごとに角付の動物さん達が増えていきます。あれは仕様でしょうか?
「おかあちゃま、このまま町に行っても良いのでしょうか?」
一抹どころか思いっきり不安になる光景から視線を戻し、お母さんに尋ねますが、そうですか、無言の笑顔ですか、うん、なんとなくわかりました。
「このまま何もなく町に着けるといいね」
とにかく、会話を反らすために適当な事を言ったのですが、私は思いっきり忘れていたのです。世間では、これをフラグと言うのだそうです。