2-59:アイドル引退です!普通の農家になります?
ジャガイモさんがせっせと我が家の畑を耕してくれています。
その横ではお母さんが嬉しそうに土を起こして種を植える為の棟を作っています。うん、何て平和な光景なのでしょう。
「むぅ、何ゆえにみんなのアイドルが畑仕事をしているのでしょう?」
わたしは、ブツブツと現状の変化に文句を言いながらも、お母さんが作った棟に指でうにっと穴をあけて、そこに種を埋めていきます。そして、私が通り過ぎたあとの棟ではピョコっと芽が出ます。
「うん、問題ないですね」
昨日植えた種が既に腰の高さまで育っています。さすが異世界なのですね、こんなに植物の成長が早いとは驚きなのです。
で、我が家が何で畑仕事をしているかというと、あの角付さんの女神様拝見ツアーが終わってしまった為です。聖地巡礼で延々と続くかと私は想像していたのですが、1週間もすると途端に訪れる人?が減ってしまいました。ブームとは本当に刹那的な物なのです。やはり、リピート客を確保するために何かを考えるべきだったでしょうか?ただ、一日2回の公演が毎日続く事に疲れていた私は、漸く解放された事でその後3日程寝込んでしまいました。
そして、疲れも取れた後に、我が家は町の片隅に家と畑を貰えました。なぜ貰えたのかはよく解らないですけど?一応わたし的にはあの懐かしの場所へ向かう気満々だったのですが、なぜか両親含めみんなに反対されちゃいました。
「ジャガイモさん、そろそろこれ植えていい?」
畑の隅っこに来た時、先頭で畑を耕しているジャガイモさんに手にしたジャガイモを見せました。
これは、ジャガイモさんから貰ったジャガイモさんの子ジャガイモさんなのです。うん、言っててややっこしいです、そのくせ早口言葉の代わりにすらならないです。駄目駄目ですね。
ともかく、手に持った子ジャガイモを掲げて見せると、ジャガイモさんは多分嬉しそうに蔓を振り返してきました。うん、その反動で蔓についた土とか種ジャガイモとかがブンブン飛んで行ってます。
「おかあちゃま、ジャガイモさんに了解を貰えたので、この畑の端っこに植えるね?」
一応、この畑総責任者であるお母さんに了解を取ります。私は良い子なのです。
「え?ジャガイモを植えるの?う~~ん、時期的にどうなのかしら?」
何やら首を傾げているお母さんを他所に、私は持っている子ジャガイモをトストスと植えていきます。
「むふふ~~、これでジャガイモさんの家族が増えるよ~」
植える時にジャガイモさんの家族が増えてねってお祈りをしながら植えるのです。すると、土を被せる傍からピョコピョコと芽が飛び出て、蔓をツルツル延ばします。これは添え木をした方が良いかな?
「おかあちゃま~、添え木ってある~?」
その後も、ほのぼのお母さんと畑仕事です。アイドルからの転身に思う所が無いとは言いませんが、だんだんと楽しくなってきました。
「おお~~、ジャガイモさん凄いのです!もうこんなに葉っぱが出てます!」
気が付けば、種芋を撒いたばかりなのに、数日後には収穫できそうな勢いです。これで我が家の食も安心なのです。ジャガイモさん、あっちも耕しちゃいましょう!
畑から少しズレタ場所にある荒れ地が目に入ります。そもそも、この畑だって町にある神樹の保護領域からは大きく外れているのです。だから貰えたと言う理由もあるのですが。
「むふぅ、ここに果物が成る木が欲しいです。収穫は来年以降かもですが、植えなければ永久に果物は成らないのです!」
そうです、立ち止まっていても何一つ得られないのです。行動無くして成功無しなのです。動くべき時は思い立った時なのです!という事で、とりあえず種を植えましょう。
「るんたった~るんたった~美味しい果物目指しましょう。甘い甘い果物を、いっぱいいっぱいこの手の中に~~、林檎も良いな、梨も好き。葡萄だって大好きよ~~でも何と言っても桃なのです~~」
ジャガイモさんが耕してくれた場所に、何となくこれかな?という種を植えていきます。
「でも、この種どこで手に入れたんだっけ?」
う~む、何か気が付いたら持ってたのですこの種!でも、見るからに果物の種っぽいのです。だから是で良いのですよね?
「まぁ育ってから考えれば良いかな?育たない事には話にならないし」
次々とな~~んとなくと言った感覚で種を順番に植えていきます。
そして、一通り植えた後に振り返ってみるのですが、流石に果実の木?です。野菜さん達と違ってすぐには芽を出さないですね。
「あとは、お水を汲んで畑に撒くだけです。お母さんを追いかけますよ」
すでに水場に向かったお母さんを、よじよじとジャガイモさんに攀じ登ってその上から指示を出します。
うもももももっとジャガイモさんが移動を開始します。何度も乗ってますが、このジャガイモさんの移動している時の感覚が実に楽しいのです。
「うももももも~~」
思わず声に出して叫んで手をぐるぐると振り回すと、遠くからピョコピョコ雑草さん達が現れて手?葉?を振ってくれるのです。
「やっほ~~~イツキちゃんが通りますよ~~」
テンション上げ上げで通り過ぎると、その後をピョンピョンついて来てくれます。
「ぬふふ~、イツキちゃんの行進です~~」