1-15:71年目の戦闘(2)
焦りが続く樹です。
続々と怪我をしている動物は増え、更にはその内の何割かは死んでいきます。
争いを止める為に、自分に唯一可能な実を作る事を決断しました。
でも、どんな実を作れば良いのか、実で何が出来るのか、それが思いつきません。
あ、そうだ!侵入者を阻む結界の森とかって定番ですよね?
ほら、エルフの森とか妖精の村とかって許可のない人は入れませんよね?
わたしはそんなイメージの下、実が成るように力を入れます。
う~~~ん、う~~~ん、なんかトイレに籠っている気がしてきます。
いくら力を入れても、気合を入れるイメージをしても、ぜんぜん実が成る気配がありません。
この感覚には覚えがあります。
今までも、金を作ってみよう!とか、こうなったら分身でホムンクルスを!などと思った時も今回と同様まったく手ごたえがなかったのです。
これは結界は難しそうですね。出来ればもうそれで何とかなったかも知れないのに。
わたしは又もや挫折感を味わいながらも、次の対策を考えました。
そして、改めて自分の視野が狭まっていたことに気が付きました。
そうだ、たしかに全体的に考えれば結界が良いのかもしれない。でも、今一番に欲しいのは・・・
そして、わたしは今出来る限りの力を込めて実を作ります。
わたし命名の治癒の実です。
これを食べれば経ちどころに怪我が治る・・・かもしれない実です。
わたし自身も何か光を放っているように感じます。
治癒の実ですよ、怪我の酷い人優先に食べさせてあげてください!
わたしの思いを受け、リスさんやネズミさん達がせっせと実を持って走り回ります。
見ていると、実を食べた人の出血が収まっていくのが見えます。ただ、無くなった手足は元に戻らないみたいです。
それでも、なんとか死んでしまう動物達の数を減らせるようにみんな頑張って走り回っています。
お日様がしっかり顔を出して、朝が訪れました。そして、より鮮明に周辺の様子が確認できます。
こんなにいっぱいの動物達がいたのだと驚きです。今まで見た事のない、犬?狼?みたいな動物もいます。
あちらには熊の様な動物もいます。初めて見る動物達もすべてが角付です。
そして、動物達の合間、合間になんと!角の無い動物達もチラホラ見えます。でも、みんな同族?の角付さんの傍から離れないみたいです。
角付は群れのリーダーみたいなものなのでしょうか?
あ、オオワシさん達が帰ってきます。それに合わせて森の至る所から更に多くの動物達が出てきました。
すごいですね、地面が見えなくなってしまいそうです。
◆◆◆
「ようやく夜が明けたか」
トールズは次第に明るくなる景色の中で、待ち焦がれた太陽の光に安堵の吐息を吐いた。
魔物達は、日の出と共に一斉に森の中へと引き上げて行った。
それこそ一切の躊躇いも無く、整然と引き揚げていく。その動きは明らかに訓練された動きだった。
「くそ、このままでは全滅だ」
今日の夜になれば、再度攻撃は再開されるだろう。彼らは夜に戦う術を持っている。そして、ここには我々人族を守る為の砦どころか柵すら無いのだ。
「パットン!パットンはいるか!」
トールズが怒鳴り声を上げる。しかし、普段はすぐに返ってくる返事が無い。
「おい、パットンはどこだ?」
手近に座り込んでいる兵士を捕まえ問いただす。しかし、その者も周囲を見回すだけで答えを持っていなかった。
「お前とお前、俺についてこい。お前は調査団の状況を確認しろ。お前は避難民どもの様子を見ろ」
トールズは周囲にいる者達に指示を飛ばし、兵士達の間を歩き自分の目でも状況を確認する。
そして、倒れている者の中に明らかに他の者よりも上等な装備を見つける。
「くそ、パットン、生きているか!」
大地に倒れているパットンに駆け寄り、状態を確認する。そして、腹の部分に致命傷かどうかは解らないが、明らかに軽くはない傷を見つける。そして、おそらく大地に叩きつけられる瞬間に着いたのだろう、右手が曲がるはずのない方向に曲がっていた。
「衛生兵はいるか!こっちだ!」
傷口を見るために鎧を外し始める。そして、そこに衛生兵が駆けつけてきた。
「死なせるな!こいつを死なせたら貴様も殺すぞ!」
トールズの脅しに震えあがった衛生兵が必死に治療を開始する。
そして、トールズは立ち上がり部隊の状況を確認していく。
その後、周囲から情報が集まるにつれ、トールズの顔は表情を失っていった。
「なんだと、今回被害にあった者達の殆どが兵士だっただと?」
「は!周囲を囲むように配置していました避難民においては、一部の者以外に被害は出ておりません」
「相手は確実にこちらの戦闘力を削ぎに来たっという事か」
「おそらくは」
「たまらんな、これは、このままでは真剣に全滅するぞ、避難民も俺たちも」
トールズの言葉を聞く前から、周囲に集まって来ていた部隊長達の顔色は悪い。
しばらく何某かを思案した後、各部隊長へとトールズは指示を出した。
その指示を驚きの表情を浮かべながらも、部隊長達は指示された内容に従い各々が動き出したのだった。
「魔物など、お伽噺の中で十分だ」
トールズの声は、いつもの様な力は無く、誰にも聞かれることは無かった。