1-14:71年目の戦闘
昨日から眠れていない樹です。
今も周り中がザワザワとざわついてとても眠れる雰囲気ではありません。
つい先日までの平穏はどこへ行ってしまったのでしょう。
日もすっかりと沈み、見渡す限り闇に包まれています。
わたしは樹だからなのでしょうか?ほんのり光っているように見えるため暗闇に怯えることは無いのですが。
オオワシさんはもちろん鳥目なので、わたしの枝に止まってじっとしています。
でも、寝ているわけではなく先ほどから引っ切り無しにネズミさんやリスさん達がオオワシさんと森の中を行ったり来たりしています。
そして、オオワシさんが指示を出しているようです。
なぜかみなさん私の事はスルーです。
ある意味相談されるかも?っと不安を感じていたのですが、何となく安堵と共に物寂しく感じちゃいます。
みなさんの醸し出す様子から、計画は順調に推移しているようです。
ただ、そんな中にあっても被害は出ているようで、怪我をした動物達がわたしの周りに集まってきます。
どうやらわたしの周辺にいるほうが怪我が治りやすいと思っているみたいです。
ただ、そんな中にあっても息絶える子もいて、冷たくなった体を確認した他の動物達が森のほうへと引き摺っていきます。
その姿を見ていると、本当に悲しくなってきます。
わたしが心配してみんなの様子を見ていると、あっという間に時間は過ぎて空が次第に明るくなって来ました。そして、それと共にオオワシさん達が飛び立ち始めます。
恐らく空から様子を確認に行くのだと思います。
なんでこんな事になったのでしょうか?
動けない自分がすっごく歯がゆく思えてきます。
わたし達はのんびり静かに暮らしたいだけですのに、なんでこんな70年も過ぎてから争いに巻き込まれるのでしょう?
わたしがそんな事を思っていると、森の、またそれ以外の地に住んでいるだろう子供達からわたしを慰める気配が感じられます。
ただ、大地に根付く事しか出来ない、でも大地に恵みを落とす事は出来ます。
そうです、わたしにしか出来ない事、新たな実を大地に芽吹かせましょう。
どんな実がいいでしょうか?
◆◆◆
「馬鹿者が!篝火を絶やすな!篝火を守るのだ!明かりが無くなれば何処から襲われるかわからんぞ!」
トールズの怒鳴り声が響き渡る。
パットンは手に持った槍を振り回しながら闇の中を牽制する。
今では、襲い掛かって来る動物達が100%魔物だと理解していた。そうでなければ、なぜまず篝火を消すなどという事をすることが出来るというのか。
襲い掛かって来る魔物たちが明らかに知恵ある事を示していた。
「篝火を中心に方陣を組め!盾を構えて攻撃してきた物を確実に仕留めて行くのだ!」
パットンはそう叫びながらも手じかにいる者達と集団を形成する。
集団の外延部では悲鳴が続いている。しかし、その者達に助けの手を差し伸べる余裕はパットンには無い。
今この時においては、パットン達は狩られる側であるっという事を身にしみて感じていた。
「こんな馬鹿な事ってあるのかよ」
どこかでそんな声が聞こえた。
しかし、その思いは今ここにいる者達全員に共通する思いである。
たしかに、非武装の者が多数を占める。しかし、総勢で一万を超える人数に対し動物達が襲ってくるなど誰も想像していなかった。
魔物といえど、所詮角の生えた動物、その程度の認識しか持っていなかった。
もし、ここまで統制の取れた攻撃があると判っていたなら、もっと慎重に準備をしただろう。
しかし、それを今言っても何の意味も無い。今はただ只管に盾を構え剣を、槍を突き出すしかなかった。
「太陽が昇るまでの辛抱だ、獣ごときに負けるんじゃないぞ!」
トールズの怒鳴り声が聞こえる。
しかし、今この時においては普段鬱陶しいその怒鳴り声ですらありがたく感じる。
「くそ、ミランダが今回の調査に不参加だったのだけが救いか」
パットンはそんな事を思っていた。
その時、突然隣で盾を構えていた兵士が蹲り、その後地面を転げ廻りだす。
そして、パットンの視界の隅で、一匹の蛇とおぼしき生き物が闇の中へと滑り込むのが見えた。
「くそ!足元に気をつけろ、蛇がいるぞ!おそらく毒蛇だ!」
そう叫び、蛇のいた辺りに槍を叩き込もうとした時、その闇の中から大きな何かが飛び出しパットンを跳ね上げた。
予想だにしない突撃に、パットンは身構える事すら出来なかった。
腹部に焼きごてを当てたような痛みを感じ、その後大地に叩きつけられる激痛が走る、そしてパットンの意識は闇へと飲み込まれていった。