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2-32:巻き込まれた者達

夜の闇が広がると共に、村民数50人に満たない小さな、本当に小さな村が闇に呑まれようとしていた。

村人達は貧しいながらも秋の収穫が例年通りであった事に安堵し、また久しく訪れる事のなかった遠方よりの来客に普段ない賑わいを見せている。


「しかし、よく戻ってきたな。この後はずっと村で暮らすのか?」


10年以上も前にこの村から旅立った幼馴染の突然の帰還に、ロエルは嬉しさを隠しきれない。

お互いにすでに30歳に手が届くかの年齢に達し、ロエルの家でも5歳と3歳の男の子が生まれ、村に戻ってきたクオルタも同様に妻と、5歳の子供を連れて戻って来ていた。


「フェルナーゼの街も悪くは無いんだが、それでもふと村の事を思い出してさ。みんなも元気そうでよかったよ」


クオルタはそう答えながらも自分の横で眠ってしまった娘の頭を優しく撫でていた。

以前はこの村ではすべての時間が止ってしまっている様に感じ、窒息するような息苦しさを感じていた。ただそれも今は感じる事は無い。この時の流れに取り残されたかのような村が、今はまるで母親に抱きしめられているかのように安らぎと安心を齎している様に感じるのだった。


「で、街はどうだった?本物の亜人だって見たんだろ?」


「ああ、フェルナーゼはもう亜人が8割占めてるからな。どちらかと言うと俺達の方が珍しがられる」


「え?そうなのか!そんなとこにいて大丈夫なのか?」


ロエルは、自分が亜人達に囲まれて生活する事など想像すらできなかった。父親達から教えられた亜人達の恐ろしさが、それこそ骨身に染みついている。まさに三つ子の魂を地でいっている。


「治安は多分想像できないくらい安定している。あの街では逆に純人族と呼ばれる本来は仲間であるはずの連中の方が信用できないくらいだった」


「いや、でもよ、角があるんだろ?亜人ってさ、化け物だろ?」


尚も食い下がるロエルに対し、苦笑を浮かべる。こればかりはいくら話をしても直接体験しなければ理解して貰えることは無いだろう。ましてや、一時来自分も亜人になっても良いかもしれないと考えたなどとは、とてもロエルに言えない事だと思っていた。

家の奥では、自分の妻とロエルの妻が、土産物を広げながら和気藹々と話をしているのが聞こえる。

夕食を御馳走になりながら会話が弾んでいる内に、いつの間にか夜も更けて窓の外は闇に包まれている。

子供達はそれぞれ両親の周りで寝息を立てているのを見たクオルタは、そろそろ自分の家へと戻ろうと腰を上げる。


「さて、そろそろ帰るとするか。すまんな、思いの外長居をしてしまった」


「気にするな、それこそ10年振りなんだからさ」


お互いに挨拶を交わし、いざロエルの家を出ようと扉を開けた時、クオルタは村全体を取り巻く様子が何かおかしい事に気が付いた。この村を出て、見ず知らずの街で10年以上の月日を冒険者として過ごしてきた経験が、今自分の前に広がる闇が普通でない事を告げる。


「ロエル、何かおかしい。いつも聞こえる虫の声がまったくしない。なんだ、何かが起きている」


開いた扉を出来るだけ静かに閉める。クオルタの様子が尋常ではない事、又この自分の幼馴染が決してこの様な冗談を言わない事を知っているロエルは、玄関まで見送りについて来ていた妻に子供達を起し、此処へ連れてくるように指示を出す。


「どうだ、何か解るか?まさかと思うが魔獣か?それとも盗賊か?」


「解らない、ただこの闇の中で何かが起きている。ロエル、悪いが明かりを消してくれ、このままでは此方が一方的に視認される」


「わかった」


急いで家の中の蝋燭を消していくロエル。クオルタは居間の窓から外の様子を伺う。クオルタの妻であるテレサが傍までやって来て同じように外の様子を伺いながら、今起きている事に対して思いついた事を口に出した。


「ねぇ、これってまさか神意じゃないわよね?」


「・・・・わからない。ただ、俺もそんな気がする」


「おい。神意ってなんだ?」


クオルタは視線はそのままに、街できいた話をロエルへと伝えていく。


現在、亜人達の総意として純人族をこれ以上減らすつもりはない。これは神樹達の意思でもある。

それ故に、亜人達は純人族の作る村々に気が付いていても関わる事は無い。

その為、近年において新たに亜人となった者達は、亜人と共存する純人族が、自ら教会へと願い出て神の果実を分け与えられた者に限られている。

ただ、これには例外が存在する。まず殺人や強盗などの凶悪犯な純人族は、ほぼ無条件で処刑される。

神樹の神官や巫女を偽る事は不可能と言われており、どれだけ無実を訴え、偽りを述べ偽りの証拠を並べようとも神官や巫女達が断じれば、明確な証拠の有無に関わらず処刑される。

この点において、純人族達の反発は未だに強いが、亜人達はその事を至極当然と捉えていた。

ただ、この事ですらも亜人と純人族を含めた人族の範疇に含まれていた。

その範疇に含まれず、亜人ですら理由が解らずに突然発生する、それが神意であった。

そして、この神意によって神樹が、そしてその眷属たる植物や魔物達が純人族に襲いかかる。ただ、神罰とは違いこの神意においては純人族の死者はごく稀である。もっとも、純人族としての種族は滅び、その後に亜人として生きる事を強制される事を良しとするならばであるが。


「ロエル、この村で何か禁忌にあたる事を行ったりしたか?」


「・・・・禁忌ってなんだよ?聞いたこともないぞ」


誰の表情にも余裕は無い。亜人になっても良いかと思った事のあるクオルタであっても、今この状況は未知への恐怖以外には無かった。


「・・・神樹様への攻撃か?」


「馬鹿野郎!神樹自体見た事無いぞ!」


お互いに言葉を交わしながらも、視線は窓の外から外す事が出来ない。今や家の中も闇に覆われている。

村の他の家から漏れる明かりと、月が照らしだす僅かな光が、村の所々を浮き上がらせているだけであった。極度の緊張に耐えられなくなった子供達がグズグズと泣きだした頃、闇の色が変わった。


「予想通りか、来たぞ!部屋の奥に隠れろ!」


「畜生!」


出来るだけ音を立てず、皆で揃って奥の部屋へと移動していく。

扉の鍵は閉めてあるが、窓もある、気付かれるだろうか?俺は家族を守れるだろうか?一番はただ奥で隠れている事しかできないのだろう。

次はイツキ視点に戻ります。

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