2-25:美味しい林檎をカジカジと
カジカジカジ、ムシャムシャ、ゴックン。
てくてくと歩きながら、水分補給も兼ねて木の実を齧っているイツキです。
置かれていた木の実をありがたく頂戴して食べているんです。
木の実と言いながら、見たまんま林檎と柿さんですよ?流石に柿は皮のまま齧るのは厳しかったので、さっきから林檎さんを齧っています。予想以上に瑞々しいです。蜜がいっぱいで甘いです!
誰が置いてくれたのかは解らないのですけど、せっかくのご厚意なのです。私は良い子なのでありがたく戴かせていただいています。
「イツキ?大丈夫?ほら、お腹が痛くなったりしてない?」
お母さんが心配して声を何度も掛けてくれるのですが、それ以上にさっきから唾を飲み込む音と、お腹がグルグルなる音が気になるのですよ?何度も、普通の林檎だよ?と言っても誰も警戒して食べないのです。
「うん、甘くて美味しいよ?おかあちゃまもいる?」
「え?あ、おかあちゃま今お腹の調子がちょっとね」
うん?さっきからグルグル鳴ってるのは調子が悪いからなのでしょうか?
ただ、周りからの視線も、何かすごい圧力を感じるのですが、もしかしたらお腹の調子が悪いのに、お前だけ食べやがってって感じ?あ、圧力以外にも皆のお腹が合唱状態です。
それにしても、私以外の皆のお腹が鳴ってるのです。こっそり何か拾い食いでもしたのでしょうか?
「おかあちゃま、ギュルギュル、ク~~ク~~いろんな音が聞こえて楽しいね」
「・・・・はぁ・・・・」
溜息ですか?どうしたのでしょうか?
何となく返事をする気力すら無さそうです。
「かえるさんの歌みたい!ゲコゲコゲコゲコです!」
皆さん疲れた顔で、さっきから無言で歩いてます。お父さんも無言ですね。
でも、そういえば水や食料とか言ってたのはどうなったのかな?
あのケチンボの孫か曾孫は何にも食料を分けてくれなかったのです。前から思っていたのですが、あの樹達は親を敬うとか、尊敬するという意識が薄かったですよね?まったく、誰に似たんでしょうか?
絶対私ではないですね!
でも、他の誰かが親切に木の実を分けてくれたのです。これで喉の渇きも満たされます。それなのに誰も食べないし、困った物です。
「潜伏期間が・・・でも、イツキちゃんは食べちゃったし・・・」
お母さんが何やらぶつぶつ言ってます。他の人はみんな無言なのでお母さんの声は結構聞こえるんですけど、それ以上にみんなの無言の方が怖いです。
「・・・・待て!」
ん?ルテクさんが手を挙げて立ち止まりますが、休憩でしょうか?もっとも、ルテクさんの視線はじ~~っと森の奥へと注がれていますが。
「何かいるな、右へ進路を変えよう」
「まって、もうこれ以上歩けないわ、休憩しましょう」
ルテクさんとこのおばさんが休憩を希望です。うん、なんと!わたしも休憩を希望なのです!
口には出しませんけど、子供にとって森の中のお散歩は重労働ですよ?いくら大人の跡を着いていく分楽だとは言え足元がガタガタです。
「駄目だ、此処では休めん。何かがずっと後を着いてきている。下手すると囲まれるかもしっれん」
むぅ?ストーカーですか?それはお断りしたいのですよ?でも、ルテクさんは可笑しな事を言いますよね、さっきから周りには角付さん達の気配はありますが、それ以外の気配は感じないのです。
きっと疲れからくる幻覚?幻聴?そういう時ほど休憩をした方が良い気がするのですが、あの様子では無理?
「ルテク、森に入ってから方角が怪しくなってきている。木を避けるたびに微妙に方向が狂ってきてるのかもしれん」
「だが、ここでは休めん。何とか水場か食える物を手に入れないと」
「ん?あ、はいこれ!」
何だ、やっぱり食べ物と飲み物が欲しいのじゃないですか。瑞々しい木の実で一石二鳥なのですよ?
手元の袋に入れていた林檎をルテクさんに差し出しますが、ルテクさんは顔を顰めて林檎を見ています。
もしかすると林檎は嫌いだったのかな?
「こっちの方が良いですか?」
新たに柿を手にして差し出します。でも、歩きながらとかだと食べにくいからどうかな?
「・・・・・・ふぅ、そうだな、食べなくても此のままでは持たんか、ああ、イツキちゃん、そっちの赤いのをくれ」
「「「「!!!」」」」
ルテクさんが私が持っていた林檎を手にした時、何か進行方向から角付さんじゃない気配を感じました。むぅ?これがストーカーさんでしょうか?
で、肝心のルテクさんは、林檎を服でゴシゴシして皮を磨いてますけど、それやらない方が・・・まぁ、とにかく林檎さんに噛り付きました。
「くそう、うめぇ、涙がでそうだ」
「おい、大丈夫なのかよ」
「そうよ、今は良くても・・・」
すごい形相で林檎を齧るルテクさんを見ながら、みんなが口々にルテクさんの心配をしますけど、本当に普通の林檎なのですよ?イツキさんには解るのです。でも、誰も信じてくれないのです。
「は、もうこれで死んじまうならそれでいい。くぅ、喉の渇きが癒される・・・」
「「「「ごくっ」」」」
皆の喉が鳴ります。うん、すっごく美味しそうにルテクさんが林檎を食べるのです。
で、その様子を眺めていたら、さっき気が付いた何かの接近をすっかり忘れていました。
ヒュン!・・・トスッ!
ん?何か音が?と思ったら目の前の樹に矢が刺さっていました。おや?何時の間にこんな物が?さっきまで無かったですよね?
矢が刺さった方向と逆側に視線をずらしていくと、うん、何か人がいました。ちなみに、角は無いです。
お母さんが私を見て、次に私の視線の先を見て小さな悲鳴をあげます。
でも、みんな矢が刺さっても反応ウスウスなのですが、この状況って不味くないですか?