1-12:71年目初春です
あた~らしい春が来た。きぼ~うの春っだ。
樹です~数か月ぶりです。寒い冬が過ぎて、ポカポカ陽気の春ですよ!
それだけで、なんだか楽しくなってきちゃいますね!
春眠、暁を思いっきり忘れてお昼までっていう諺もありますし、寝坊しても怒られない春です!
わたしも、新しい芽が出てきてお日様の下スクスク育っているのが嬉しいです。
はやくいっぱいの葉っぱに日差しを受けて、思いっきりぬくぬくしたいです。
わたしがルンルン気分でお日様を浴びていると、目の前には今年生まれた動物達の子供達があちらこちらから走り出て飛び回っています。
うんうん、子供達も嬉しそうですね。
わたしの周りは安全地帯とされているのか、様々な動物達の子供達が入り混じって遊んでいます。
見ているだけで心がほっこりしてきます。
昨年はなんか殺伐とした雰囲気が漂ってましたから、今年はゆたりと過ごせると良いですね~。
わたしがそんな事を思いながら、それではゆっくり昼寝でもっと思っているとこちらに飛んでくるオオワシさんが目につきます。
え~っと、何か嫌な予感がしちゃいます。オオワシさん、ここ最近単身赴任されてましたよね?
お仕事終わってご自宅に帰還されるだけですよね?
なんとなく漂う気配といいますか、昨年同様殺伐としたものを纏っていらっしゃるような?
あ、オオワシさんは元々殺伐とされてますから、気のせいですね。
わたしが、そう思って目を閉じてお昼寝しようとすると、ふぎゃ~~また突っつかれました。
あの、なんでしょうか?
あれ?オオワシさん以外の方たちも大勢こちらに向かってきます。
う~んと、皆さんすっごく慌ててますね。昨年以上の慌てぶりですね。
何があったのでしょう?
おや?森の子供達からも何かばしばし気配が飛んできます。
え~っと、何かが起きているようです。
んんっと・・・あら?怪我をされている方が結構います?
大型猫さん、貴方が咥えているのはなんですか?
じ~~~~じ~~~~、どう見ても剣っぽいですね。それ血が付いてますよ?
あ、他の方達も何か持ってる方がいますね。
ん~~~、もしかしてですけど、人かそれに類する者達が来ました?
わたしが尋ねると、みんなが一斉に頷きます。
ほむ、そうですか、で、襲われちゃいました?
またもやみんなが一斉に頷きます。
これは、もしかしてすっごく拙いですか?
更にみんなが頷きます。
えっと、戦って勝てそうですか?追い払えそうですか?
何か微妙な空気が流れました。これは本格的に拙そうですね。
どういたしましょう?
◆◆◆
「被害状況はどうだ?」
「幸いにして死者は出ていません。っと言った方が良いですかね?重傷者24名、軽傷者112名、軽傷者は戦闘可能です。重傷者は、まぁ本国に帰れないでしょうな」
「それは調査隊の話だろう。難民の連中はどうだ」
「さぁ?数なんか此処へくる途中から数えてなんかいませんからね。ただ、死者も結構出たんじゃないですか?」
トールズは副官の報告に顔を顰める。そもそも、この地へ辿り着くまでに当初予定のの倍3か月以上かかっている。それもこれも、難民達の移動に時間が掛かったためだった。
この行軍の最中、逃亡する者、騒動を起こす者、病気などで死ぬ者、様々な問題が発生した。
「くそ、今度こんな計画があったら絶対に指揮官なんざやらんぞ!」
そう叫ぶ指揮官に対し、副官の眼差しは冷ややかであった。
なぜなら、本来副官として同行しているパットンが指揮官として派遣される筈であった。しかし、派遣部隊500名の指揮官としては地位が低いっとゴリ押ししてきたのはトールズ自身であったのだ。
この調査を無事に終え、その後の栄達へと繋げようとする欲があからさまに見えている。
唯一幸いだったのはトールズが無能な指揮官ではなく、どちらかといえば優秀に分類される事だけだった。
「それで、魔物とやらの死体はどこだ、とりあえずお目に掛かろうか」
席から立ち上がりトールズはテントの外へと出る。そうすると、兵士たちが囲んでいる角のある動物達の死骸が目に入ってきた。
「ふん、たかだか動物と侮ったつもりはないのだがな。しかし、角付は他の動物とも連携するとは思いもよらなかった」
この地へ来て初めて魔物と呼ばれる角付との戦いを振り返ってトールズはそう呟いた。
「どこか遮蔽物がある場所を探させろ、このような開けた場所で野営など考えたくないぞ」
「は、既に探させております。しかし、現状ではこの地での野営の可能性が高いと思われます」
「ふん、そうそう上手くはいかんか、では森から木を伐らせろ。簡単でも良い柵を作れ。相手は人ではないのだ、油断すれば朝日を拝めんぞ」
トールズの怒鳴り声で、慌てて兵士たちが森へと走り出す。そして、それを見ていた難民達も同様に森へと走り出すのだった。
「さて、明日の朝にはどれほどの者が生き残っているのやら」
パットンはトールズの言葉に、思わず体を震わせるのだった。