1-10:70年目にして婚活考えましょう
えっと、子供達に虐待を受けている気がする樹です。
もう、ちょっとうたた寝するとすぐ起こされるんです。そして、すぐに実を寄越せと言われるんです。
何に使ってるのか聞いても知らんぷりです。
酷いと思いませんか?思いますよね?
母ちゃん、いいから口出さずに金出せよって子供達に集られる母親ってこんな感じでしょうか?
きっと子供達がグレてしまったんです。
母親一人では厳しいのでしょうか?
やはり、ここは父親にガツンっと言ってもらったほうがいいと思いませんか?
ばかもの!お母さんをもっと大事にしないか!
なんて言われたらもうメロメロですよね?惚れ直しちゃいますよね?
どこかに優しくて甲斐性があって、わたしが寝てても怒らなくて、ん、お前は好きなだけ寝てていいんだよ?って言ってくれる素敵な男性はいないでしょうか?
贅沢はいいませんよ?
丘の上の小さな教会で、二人だけの結婚式なんてどうでしょうか?
真っ白なウエディングドレスを着て、小さなブーケを手に持って、そっとわたしのベールを持ち上げて、誓いの熱いベーゼ、うきゃ~~~もう乙女心満載ですよ!
お家も小さなお家で良いです。
わたしは暖かなお布団でぬくぬく寝てて、旦那様が温かい珈琲を入れてくれて、朝だよって起こしてくれるんです。旦那様がお仕事に出ると、わたしはまたお布団でぬくぬくです。夕方には旦那様が帰って来てご飯を作ってくれて、もう素晴らしいですね。理想の旦那様です。
もちろん実の作成なんかもみんな旦那様がやってくれるんです。
大丈夫だよ、お前は好きに寝てていいよ?
なんて、うきゃ~~~~思わずゴロゴロしちゃいそうです。
で、どこかにそんな旦那様はいませんか?落ちてませんか?
容姿はそんなに拘りませんから。安定収入がある方で、わたしは寝てても文句言わずにお仕事してくれる人であれば良いのです。
どこかにいませんか?
わたしがそんな事を思っていると、ウササさんが来てタシタシわたしを叩きます。
え?もしかして、誰か紹介してくれるんですか?
んんん?何かそんな雰囲気ではないですね?え?上ですか?ん~~何もないですよ?
え、なんでしょう?え?え?次は下ですか?地面がありますね?
え?わたしを指さしますけど、何かついてますか?
今度はウササさん自身を指さします。えっと兎さんですね、ふわふわで思わず抱きしめたくなりますね。
わたし樹ですから無理ですけど。
え?なんですか?そこだ!って感じで指さしますけど、どこでしょうか?
あれ?何か飽きれた顔で帰って行っちゃいました。なんだったんでしょう?
ともかく、もうじき秋ですし、それを過ぎれば冬ですから、せめて冬はゆっくり眠りたいですね。
◆◆◆
「で、お前たちは理想郷を見つけたと、そういう事だな?」
「いえ、理想郷と成りえるのではと思える場所を発見したっという事です。その為、早急に大がかりな調査達の派遣をお願いします」
パットンとミランダの報告を聞いたロマリエは、事の真偽を見定めるかのように二人の顔を凝視した。
しかし、二人はその視線を真っ向から見返してくる。又、この二人の性格を知るロマリエは、齎された情報に不足はあれど嘘はないだろうと推察した。
「ふむ、それと魔物か、お前達でなければ気が狂ったかと思う所だな」
そう告げながらもミランダが持参した角のついた兎を見る。そして、確かに未だかつてそのような兎を見た事は無かった。
「しかし、魔物とはな、確かに既存の兎とは違うが、お伽噺にあるような魔石などはあったのかね?」
ロマリエが口調は嘲るように、しかしその声色はまさに冷静そのものといった様子で尋ねる。すると、ミランダは直径1センチ程の大きさの赤い石を目の前に置いた。
「これが心臓の中に入っていました。おそらく魔石とはこれの事では無いかと」
「ふむ」
特にその石を手に取る事なく、少し考えるかのように目を閉じた。
そして、この情報をどう扱って良いのか思案する。
「で、伝書鳩は使えなかったのだな?」
「はい、手持ちの三羽を放ちましたが、こちらに届いてはいないと確認が取れています」
「我々の帰還に掛かった日数は約1ヶ月。その距離で鳩は厳しいのかもしれませんな」
ミランダとパットンの言葉にロマリエは頷いた。
「とりあえず、この件は私が預かろう。お前たちは方針が決まるまで休息をとるがいい。御苦労だった」
この言葉に二人は敬礼を返し、部屋から出て行く。
しかし、ロマリエはじっと角付の兎へと視線を注ぎ、そして溜息を一つ吐いて立ち上がった。
「アーサー、これから急いで王宮へ向かう。馬車の支度をしてくれ」
そう告げると、自身も身支度を整えに部屋を出ていくのだった。