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2-1:再び大地に・・・ちょっとまだ立てず

誤字、ご指摘いただいた違和感部分の訂正しました。

その島は、塩害により中々作物は育ち辛い土地であり、漁業を通じて何とか生活をする、過酷な生活環境の中にあった。年の三分の一は海が荒れ、唯一頼りとなる漁業も出来なくなり、干した魚と、細々と生産している麦によって島民はなんとか日々暮らしている、そんな島であった。

しかし、島民たちは自分達の暮らしを決して悲観する事無く、日々の暮らしを少しでも豊かにする為に日々努力をしていた。しかし、そんな生活の中に在っても島民たちはこの島の未来へと漠然とした不安を募らせていた。

それは現在の全島民120名において10歳以下の子供数が極端に少なくたったの8名。又、生まれた子供も成人とされる15歳まで無事に育つ確率は50%あるかないかの状態が続いている。

更には、親となる者達の年齢も次第に上がってきている。

その為か、年々出生率すら低下の一途を辿っていた。


そんな中、一組の夫婦の下に、一人の赤ん坊が生まれたのだった。

夫婦は結婚してすでに10年の時が過ぎていた。幾度も、幾度も神に祈りを捧げ、さらには島の古老にも相談をし、迷信と思われる事すら試してみたが、それでも子供が出来る事は無かった。

そんな夫婦に歓喜の瞬間が訪れたのは半年ほど前の事だった。

食欲不振に続く妻を心配した夫が、薬師へと相談をした。薬師は当初単純に疲労によるものと判断した。

しかし、その後も症状が改善されない状況に不信を抱いていた所、腹部が膨らみ始め、妊娠が確定した。

悪阻などの症状が現れなかった事に加え、夫婦の年齢的にも、今までの経緯的にも妊娠とは誰も思っていなかった故の判断遅れではあったが、夫婦のみならず島民すべてが歓喜の声をあげた。


更に時は進み、高齢での初産を心配する周囲の声をものともせず、無事に赤ん坊は生まれたのだった。

その日は、奇しくも海は大時化の為漁は出来ず、また春だと言うのに季節外れの大雨に見舞われた為に、島民全てが出産が行われる薬師の家に集まっていた。

その皆が集まる中、出産用に整えられた部屋に入り1時間もしないうちに元気な赤ん坊の声が響き渡ったのだった。


「おぎゃ~~~~~~」


「「「おおおおお~~!!!」」」


「ふんぎゃ~~~~~」


「元気な良い泣き声だ、良かった良かった」


「うむ、こんな嵐の様な日でちょっと不安に思ってたが、何のことは無い杞憂だったな」


「うむうむ」


男達が、赤ん坊の泣き声を聞き、口々に安堵の声を上げる。


「邪魔よ邪魔!ほら、突っ立っていないでお湯を張った桶を持ってって!」


「あ、男は部屋に入っちゃだめよ!」


女性達は赤ん坊の泣き声と共に、暖炉に薪をくべ湯を沸かし始めた。

そして、すでに沸いていた分の湯を桶に入れ、煮沸消毒し、その後乾かしたタオルなどを部屋へ持ち込んでいく。そんな中、夫のアーキンは慌てて妻のいる部屋へと飛び込んでいった。


「おお!エリーゼは、エリーゼは無事か!」


「アーキン、私は無事よ、それよりほら、この子も元気、貴方もこの子の顔を見てあげて」


疲れを滲ませながらも、喜びに溢れる声に促され、アーキンは妻の側にある小さなベットで寝かされている子供へと視線を向けた。


「アーキン、ほれ、生まれたばかりというのに、しっかりした顔立ちをしておる。将来は美人さん間違いなしじゃな」


産婆の言葉に頷きながら、アーキンは子供の顔を覗き込む。


「顔立ちはエリーゼによく似てるなぁ、うん、婆さんの言葉通り美人になるぞ」


「ふふふ、でも無事に生まれてくれて良かった。ましてやこんなに美人さんで」


3人がそう話しながら赤ん坊を覗き込んだ。


「みゅひゅひゅひゅ」


「「「・・・・・・」」」


何かちょっと赤ん坊らしくない声が聞こえた。


そう、赤ん坊から。


3人は顔を思わず無言のまま顔を見合わせる。


「な、なんだろうな、独特の泣き声?だな」


「そうじゃな、まだ生まれたばかりの赤子じゃし、泣き声というより声の成りそこないかなにかじゃろう」


「そうね、ちょっとびっくりしたわ、何って言うか、その、ちょっと不気、いえ、可愛らしい声だったわね」


エリーゼは若干顔を引き攣らせながらも笑顔を浮かべ赤ん坊の頬を指で突っつくのだった。


「う~ん・・・イツキちゃん、ママですよ」


「イツキ?その子の名前か?不思議な名前だな、なんだ、エリザベスとか、マリアンヌとか、もっとこう女の子らしい名前ではいけないのか?」


エリーゼの言葉に、思わずアーキンは問いかけた。アーキン自体も、子供の名前を前から幾つも考えていたのだ、それがよく解らない響きの名前では少々納得がいかない。


「エリーゼや、名付けはそんなに急がんでも良い。まずは母子ともにゆっくり休む事じゃ」


「そうね、まずはゆっくり休む事にする」


「うむ、とりあえず部屋を乾燥せぬように、温度を下げぬように注意せんとな。アーキン、火の番は頼んだぞ」


産婆の言葉にアーキンは頷いた。そして、二人は生まれたばかりの赤ん坊を覗き込むと・・・顔を見合わせて苦笑を浮かべるのだった。

なぜなら大人達がドタバタしている最中も、赤ん坊は生まれたばかりとは思えない程に、ニマニマという表現がピッタリする笑顔を浮かべ続けていたのだった。

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