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夢をみた

 夢を見ていた。昔の夢だった。

 「ねー。由香もやろうよめっちゃ面白いんだって!ほら、由香ものづくり好きじゃん!」

 電話の向こうから聞こえる、明るい声に由香は多少うんざりしながら答えた。

 「確かにものづくりは好きだけど、こういうものづくりでは断じてない!私が好きなのは、手芸とか工作で美弥が言ってるのはゲームでしょ。今、公式サイト見てるけどよりによってアクション系じゃん。わたし、アクション系苦手なんだよ。」

 もともとゲーム下手で、苦手意識の強い由香に友人の美弥はメールや電話でしつこいほど、最近発売されたばかりのゲームを進めてきていた。

 「いや、由香気に入ると思うよ!主人公がかっこいいんだけど、途中で出会う兵士もこれまた素敵でさー!」

 ちょっと強引だけど気の良い友人からの誘い、しかも美弥とは漫画の好みも合っていた。ゲームということで躊躇していたが、由香は結局そのゲーム「ウィッチクラフト」を購入しに出かけることにした。

 

 

 まだ、半分夢を見ているような状態で目をあけると、とてもとても高い位置に天井が見えた。

 (あー。夢じゃないんだな)

 由香は、ゆっくりと起き上がると部屋を見渡した。昨日は混乱していて気にも留めなかったけれど、確かにこの部屋のデザインもウィッチクラフトだ。ウィッチクラフトⅡは、Ⅰの5年後という設定でいろいろ新しくなったこともあるだろうが基本はウィッチクラフト。全く違ってくるということはないようだった。

(結局、プレイし始めて進めてくれた美弥よりもはまっちゃったんだよなー)

ウィッチクラフトをしていると、なつかしいような嬉しいような胸が締め付けられる思いをしたことを思い出す。それほどまでに、感情移入してゲームが出来たのは、進めてくれた美弥のおかげだと感謝していた。

 ベットから降りると、部屋の隅に置かれていた着替えをいくつか手に取りながら、昨日のことを思い出した。

 

 昨晩、いくらか落ち着いたころ再びグライスが入ってきた。

 「私はグライス、代々姫巫女様に仕える家系の者です。騎士団にも属しており、腕前も確か。きっとお役に立つことでしょう。」

 グライスは由香に深々と頭を下げた。

 「森の中での非礼をお詫びいたします、姫巫女様。貴女の手となり足となり、命を賭して仕えることを誓います。」



 森の中で剣を突きつけられたのも、騎士団ならではのしょうがないことだし。自分が言った「コンビニ」もウィッチクラフトの魔族の呪い「コンビニエンスストアの呪い」、ついつい用もないところに立ち寄ってしまい時間を浪費してしまう呪いと勘違いさせてしまったせいなので、由香はむしろ恐縮してしまった。ウィッチクラフトはちょくちょく呪いや設定におふざけを入れる趣向があった。まさかそれが、森で剣を突きつけられることになるとは、製作者も全く想像していないだろう。

 「さて、何をどう着ようかなー。」

 煌びやかなドレスや着物っぽいこれまたフリフリのドレスを前に、由香は考え込んだ。ゲームのキャラクターが着るのなら、このデザインはとてもすてきだと思う。キャラクターの服装デザインが好みだったこともゲームにはまった要因の一つだった。でも、自分が着るともなれば、話は変わってくる。

 「こんなお姫様っぽい服、着れないわなー。コトンはどれがいいと思う?」

 いつの間にか起きてきた生き物、コトンにそう語りかけるとコトンはよりによって一番煌びやかでフリフリのドレスの上でポフポフはねてきたので、由香はそのすぐ横にある一番シンプルな白のワンピースを着た。コトンはそれでも嬉しそうにまたはねた。


 「さて、困った。トイレに行きたい。」

 異世界トリップしたら、そういう生理現象はなくなると思いきやなくなっていなかった。ゲームのキャラクターは、ご飯を食べることはあっても排泄行為をすることはなかったのにずるいなーと思いながら、由香はしばらく誰かが来るのをまった。プレイしてよく知っているウィッチクラフトの世界とはいえ、勝手に歩き回るわけにもいかない。しかし、こういう時に限ってなかなか人は来ないものだった。そろっと部屋から出るとどこの道路だって突っ込みたくなるほどに幅が広い廊下が長く伸びていた。履物は用意されていなかったので、いささか丈の短いワンピース一枚で廊下を歩き始めた。行けども行けども明らかにトイレではない場所ばかりで、由香はどんどん焦ってきた。

 (もしかして、この世界の人はトイレとか行かないんじゃない?私はちがう世界の人間だからトイレに行きたいけど。トイレそのものがないとかだったらどうしよう)

 由香は、もはや半泣きの状態で小走りになっていた。曲がり角を曲がるとき、ドンッと強い衝撃と共に誰かとぶつかった。

 「ご、ごめんなさい!トイレ探してて」

 慌てて頭を下げると、なんだか見たことのある足元が見えた。

 「姫巫女様、トイレでしたらお部屋にございますが。」

 顔を上げると、気まずそうに視線をそらしたグライスが立っていた。

 

 「いやー。ごめんなさい。なんか、ほかの部屋につづく扉とかかなーって思っちゃって全然気づきませんでした」

 由香が照れ笑いをしながらトイレから出てくると、グライスは由香から視線をそらしたままだった。廊下から由香を抱えて帰って来る時もグライスは、由香から視線をそらし気まずそうにしていた。頬がすこし、赤らんでいる。

 「いえ、私が昨晩説明しておくべきでした。申し訳ありません。…それと、恐れながら姫巫女様。今お召の者は肌着でございますので、上にもう一枚何かお召くださいませ。」

 そう言われ、グライスの3倍ほど赤くなった由香は普段の三倍の速さで服を着たのだった。

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