森の中で
寒い外気で体が冷え、由香は目を覚ました。が、また目を閉じた。なぜなら、由香はまだ自分が夢の中にいると思ったからだ。
由香は、鬱蒼とした森の中にいた。
「痛いー。もうやだー・・・お父さん、お母さん」
靴擦れで痛む足をさすっているうちに、由香はしゃがみこんでしまった。こらえていた涙が、あふれてきたのだ。
歩いても、歩いても舗装された道には出なかった。自分はなぜ、こんな鬱蒼とした森の中にいるのだろうか。由香は何度も考えを巡らせたが、全く記憶がなかった。最後に覚えているのは、電車の中で寝てしまったことだ。あのまま、自分が下りる予定の終着駅に着いて駅員さんに起こしてもらえて家に帰るつもりだったのに。起きたら鬱蒼とした森にいたのだ。
(なんだろう。テレビのどっきり企画なのかな・・・。いや、でもこんなド素人をドッキリの対象にするわけないよ。倫理的にも。怪しい組織に拉致られた?いや、私身長163もあるから、電車から運び出すのも一苦労だろうし無理だよね。)
あれやこれや考える内容は、どれも現実感のないもので由香自身納得できるものではなかった。
「おい、そこの女。ここは、王の森だぞ。」
ふいに後ろから声をかけられ、由香は驚いて振り向いた。後ろには、馬のような、でも馬ではない謎の生物にのった男2人がいたのだ。
「あらら、お嬢ちゃん迷子~?泣いちゃってるね、かわいそうにー。」
「おい、ゲール。魔族の密偵かもしれん。気安くするな。」
軽薄そうな長髪と、堅物そうなオールバック眼鏡が言い争うのを聞いて、自分があまり良くない場所にいることを知った。
「す、すみません。ここ、入ったらいけない場所って知らなくて。どこか人のいる所までの生き方を教えてもらっていいですか?できたら、コンビニとか電話が借りれるようなとこだとありがたいんですけど。」
おずおずと申し出ると、眼鏡の男が訝し気に目を眇めた。
「コンビニ?」
「!!グライス、復唱すんな!それは、魔族の呪いだ!!」
長髪の男が、叫びながら由香に背負っていた棒を抜いた、先に刃物がついている。
(薙刀だ。この人、服装も持ち物もゲールに似てるなー)
由香は、だいぶ前にプレイしたRPGゲームのキャラクターを思い出し、はっと気づいた。
「あ、レイヤーさんたちですか。すみません自分部外者です。知らない間に入っちゃってて。あの、携帯とか貸してもらえ」
同じオタクかと、少し安心しながら話した由香の言葉は最後まで続けることが出来なかった。長髪の男が、自分に向かって薙刀を振るうのが見えたからだ。
とっさに、しゃがみ込むと由香のの前髪が一房落ちた。
(本物の…刃?)




